何が起きていたか
「ちょっと話そうか。」
ヴェクトルの声がけで、教務室からほど近い
裏庭のベンチに2人座った。
「…っく、…っ」
肩を震わせながら、いまだ泣き止まないリリーナを、
優しい眼差しで見守るヴェクトル。
握った手は先程からずっとそのままだ。
今度はしっかり伝わる温もり。
しばらくして
リリーナも落ち着き、受け答えができるほどになった。
「…落ち着いた?」
「…はい、…大丈夫です。」
「うん。…あの時のことを話すよ。」
リリーナがあの時、魔力供給に集中するために
目を閉じたあたりからのことを話し始めた。
「君が目を閉じた時から、とても温かいものが中から湧きあがって
それまでの痛みも痺れも、一瞬で無くなった。
そのあと、後ろから強い光を感じるので振り返ると、
私の腰から下の、本棚に挟まれた部分が光のもやで包まれていて
体が自由に動かせるようになっていた。
ちょうどその時、君が呼んだ先生たちも入ってきて、
光を不思議そうに見ていたよ。
私は、すかさずそこから抜け出すと
同時に、君が意識を失ったんだ。
光も一緒に消えてしまったよ。」
「そんなことが…あったのですね…?」
今まで聞いたことがない現象、不思議なことが起きていたことに
リリーナはとても驚いた。
「…あの魔法は何?」
「え?」
「光魔法を使えるなんて知らなかったよ。」
「いえいえいえいえ!?…私は魔力供給のことしか考えていなかったので
そもそも魔法を発動してませんから??
そして、光魔法なんて、魔力量”赤”の私になんて到底できせんよ?
ただ、ほとんどの魔力をヴェクトル様に注いで、魔力切れで倒れただけです…」
「そうか?」
「あ、もしかしたらヴェクトル様に光魔法の素質があって、それが下階の
重力魔法の影響も受けて、空間魔法の作用が生じたとか、ないですかね?」
「ふむ、考えられなくもないか。一時的に複合魔法が生じたかもしれない
なるほど…」
アゴに手をやり、うんうんと頷きながら
1人で思考を巡らし始めた。
「そうだ、それで、あんな光景を見たものだから、先生もざわつき始めて…。
今後の君と私にとっては、色々と面倒かと思って、先生方の記憶を変えたんだよ。」
チリン…
ヴェクトルは懐から取り出した、小さな手持ちベルを掲げてふっと笑った。
それは彼が記憶を操る時に使う魔道具だ。
(恐ろしい顔で微笑んでいますよ…。)
と、こっそり思いつつ、
「そうだったんですね…
お気遣いありがとうございます!
そうですね、私たちにも説明できないことですしね。
それが良かったと思います。」
そう言うリリーナに少し口角を上げて
応えるヴェクトルだった。
「…ところで、元気になったらお礼をすると言っていたな…?
そのお礼、しっかり考えておくから。決まったら言うよ。」
ヴェクトルのメガネの奥が怪しく光ったように見えた。
「あれ…は…い。」
教室に入る前、リリーナは用事があるといい、一緒にいるところを
マリエナに見られないように気を利かせ、ヴェクトルを先に行かせた。
少し遅れて教室に入る頃には
ヴェクトルはいつものようにユーストスとマリエナの元で談笑していた。
それをチラッと見やりながら
リリーナは真っ直ぐにメリンダの席に向かった。
「おかえりなさい。あなた、怒られに行ったのに妙に顔が清々しいわよ…?」
「いやぁ、…スッキリしました!」
「え!?怒られてスッキリ?ちょっと…大丈夫ですの!?」
「っふふふ…!」




