本当のこと
後日
丸一日気を失っていたリリーナの回復を待ってから
彼女はヴェクトルと共に教務室に呼び出されていた。
「プレートがかかってなかったんです。」
「だから、先生方もヴェクトル君も入室の際は、プレートを見ているんだ。」
あの時、扉に入室禁止のプレートはなかった、と主張したが、
自分以外の全員は、プレートをしっかり確認していたので
結局は見落としていたと言うことで、話は落ち着いた。
一方ヴェクトルは、蔵書室の前を通った時に、妙な物音がすると思い
様子を見に入ったそうだ。
プレートを無視して入室した事をチクリと言われものの、
結果的にリリーナを助けた点で逆に褒められていた。
「いずれにせよ、2人とも軽症で済んでよかったが、一歩間違えば大惨事だ。
ストークス、今回は厳重注意な!」
「はい…申し訳ありませんでした。」
(…軽症……)
教務室を出たリリーナは引っかかっていた。
(どう見てもヴェクトル様は軽症じゃなかったはず。だけど…)
少し前をしっかりと歩く、彼の足を見た。
(ゆ…め?)
彼が大怪我を負ったことも、全部なかった…?
あの時の苦しそうなヴェクトルの表情を思い浮かべつつ
今のいつも通りの彼の背中を見ながら、リリーナは困惑していた。
まずは確認しないといけないことがある。
ヴェクトルが蔵書室に入った後、どういう話になっているのかを。
リリーナは、ヴェクトルに声をかけた。
「あの、ヴェクトル様
私のせいで、助けて下さったあなたまで怒られてしまって…申し訳ありません…
あの…私、記憶が混乱しているようなので、ヴェクトル様が蔵書室に
入ったところから、何が起きたか教えていただけないでしょうか…」
彼は立ち止まって振り返ると、
表情はいつものクールフェイスのまま答えた。
「ああ、いいよ。」
聞くところによると、
下階で重力魔法の実験をするため、影響が出る蔵書室は入室禁止だった。
にもかかわらず、物音がするので蔵書室に入った時に、地面が大きく揺れた。
揺れのせいで本棚がぐらつく先にリリーナを発見し
彼が駆け寄り救出した。
本棚は彼らの頭上でうまく折り重なり、空洞のような状態で止まったものの
棚から落ちた本によりヴェクトルは軽い打撲。
リリーナはショックで気を失っていた。
そこに先生たちが入ってきて救出。
重力魔法の出力が大きく出てしまったようで、様子を見に来たところで発見。
…ということだ。
「そう…だったん…ですね。」
「君は少しそそっかしいところがあるから、気をつけるといいよ。」
「はい…重々気をつけます。」
ヴェクトルのごもっともな言葉が、今は深く刺さる。
自分のせいで彼や周りの人に迷惑をかけただけだ。最低だ。
ただただ申し訳ない気持ちになった。
(やっぱり私の記憶違い…だったんだ…
でも…ヴェクトル様があんな大怪我をしていなかった、という事ならそれでよかった。
そう、助けて下さったのは、間違いなく事実。)
「ヴェクトル様。お礼が遅くなり申し訳ありません。
助けていただきありがとうございました。その…お怪我を…させてしまい…
とても反省しています。こ…今度からは注意深く…っ…」
複雑な気持ちが溢れて、思わず涙がこぼれてしまった。
それに驚いたヴェクトルは、少し屈んでリリーナの目を見ると
「ストークス嬢、ちょっと触れさせてもらうよ?」
と優しく問いかけた。
彼女が頷くと、大きな手をそっと頭に乗せた。
リリーナはあたたかく包み込まれる感覚に、緊張しながらも
少し気持ちが和らいだ。
その手が、今度はリリーナの手を持つ。
「…覚えているよ。こうやって魔力を送ってくれたこと。」
「…!」
リリーナはヴェクトルの顔を見上げた。
彼のえんじ色の瞳が目に飛び込んでくる。
「…じゃあ、やっぱり…夢じゃなかったんですね…?」
ヴェクトルはこくりと頷いた。
それを見て、リリーナは込み上げてくるものがあり震えた。
「さっきのは、私が作った先生たちの記憶。面倒事が起きるかと思って
先生方の記憶を書き換えさせてもらった。
説明が遅くなってすまない…。
感謝は、私の方こそし尽くしても足りないくらいだ。
君は私を救ってくれた。これは間違いない事実だ…ありがとう。」
「そんな…よかった…です。
…ヴェクトル様が元気で…!しっかり歩けて…!…うぅっ…!」
リリーナは先程までのいろいろな想いが、まとめて込み上げてきて
ヴェクトルのおかげで収まった先程の涙は、彼のせいでまた溢れてきた。
「泣かせるつもりはなかったのだが……弱ったな…」




