クラスメンバー
教室では指定された席に着席する。
窓寄りと廊下寄りの左右2ブロックに分かれており、中央は奥の教壇に向かって
1本の通路がある。
リリーナは窓寄りのブロックの中央、通路に面した席。
机が横にひと続きになっているため、奥の人が座れるように最後に座ろうと思って
教室の後ろあたりで、室内を観察していた。
(みんな優秀そうなお顔をしてらっしゃる…)
じわじわと自分が今すごいところにいるのだと実感してきた。
圧倒されて気後れしそうになるところだけど
(でも、この学園に入るために相当な努力をしたのだから、自信を持たなければ!)
改めて心を固くしたのである。
その時、自分の近くで人の気配がした。
リリーナがそこに目線を移すと、まるで自ら光を放っているとでも言えるくらい
美しい青年が立っていた。
毛先に少しニュアンスがついた、ゴールドヘア。
首筋に沿った襟足。
センターより少し左の分け目から、流れるように片目を掠めた前髪。
そしてそこから覗くクリアブルーの瞳。
(なんてキレイな方かしら…あら、私、視界の邪魔みたいね…)
まさか自分を見ているとは思わなかったリリーナは
思わず後ろを振り返り、人がいないか確認をした。
だけど誰もいない。
彼の目線の先を確認するように、キョロキョロと挙動不審にしているリリーナを見て、
一瞬驚いた様子だったが、優しそうな目を向けて、言った。
「どうしたの?席がわからないの?」
「あ、いえ、そういうわけではなく…」
その言葉でようやく自分への目線だったと気づいたリリーナは、
妙に緊張してしまい、対応がドギマギしてしまった。
「そうか、良かった。ではそこは私の席のようなので、座らせてもらっていいかな?」
「ええ!?お邪魔していたのですね。た、大変失礼いたしました!」
リリーナは色々な失態を恥ずかしく思い、お辞儀をすると、
ささーっとその場を去ろうとする。
「チッ…!」
(!??)
金髪の青年で見えなかったが、その後ろにいた、長身で眼鏡をかけた
ブロンズヘアの青年の横を通る際に、あからさまに舌打ちをされたのが聞こえた。
(怖い…都会の男性は怖い…)
リリーナは聞こえないふりをして、自席に戻る。
都合の良いことに、リリーナより窓寄りの生徒は全員着席していたので
安心して座れた。
席に座り、呼吸を整える。
学園に入るまでは、王都に来ることは数えるほどしかなかった。
田舎のお友達とは雰囲気が違って、都会の人に圧倒されていたが、
舌打ちなんて人生初。
そんなにあの場所にいたのが気に食わなかったのかしら…なんて思いながら、
リリーナはカバンから筆記用具が入ったポーチを取り出した。
(こういう時は、あれで癒されましょう…)
ポーチから出したのは、手のひらサイズの厚手の紙。
それを見て、うっとりする。
(はぁ〜、やっぱり癒される…クリフォード様…)
手にすっぽり隠して、他の人からは見えないが、
実は大好きな演者の絵姿を見ていた。
(今度の週末の演目が楽しみだわ。週末の幸せのために頑張ろうっ!)
カーン カーン
始業のベルが鳴ったので、あわててポーチに絵姿を戻そうとした時に
ふと目線を上げると、斜め前に座るキレイな令嬢と目が合った。
(メ、メリンダ様?)
そう、先ほど新入生代表で壇上に上がっていた、メリンダと目が合った。
彼女はすぐに前に向き直したが、リリーナは驚いていた。
(まずいわ…なんともだらしない顔を晒していたのではないかしら。
きっと、それに呆れて見られてたんだわ。は、恥ずかしい…)
すぎてしまったものはしょうがない。
これからは絵姿を愛でるのは、もっとわからないようにしましょう、
と誓った。
授業はクラスメンバーの自己紹介だった。
そこでリリーナは衝撃の事実を知るのであった。
先ほど声をかけてくれた金髪の青年はこの国の第2王子、ユーストスだった。
そして、舌打ち眼鏡青年は、ユーストスの側近、ヴェクトル。
さらに、メリンダだが、ユーストスの婚約者だということもわかった。
「つまり私は、ユーストス様のお席の邪魔をして、ヴェクトル様にはわざと邪魔して
声をかけてもらおうとした令嬢とみられ、メリンダ様には婚約者に気軽に話して
空中を見てうっとりする変な令嬢、と思われているのね…!」
青ざめた顔でリリーナはぼそぼそと呟いた。
(も、もう金輪際、関わらないようにしよう!勉学、命!)
初日から何だか疲れてしまい、ふらふらと寮の部屋に戻った。