カフェ・モーメントにて
「はぁ〜〜、勢いでお誘いしちゃったけど…来てくださるかな…
本当はメリンダ様のタイミングで誘われるべきなんだろうけど…」
『カフェ・モーメント』
ここは先日、観劇後に悦に入った隠れ家カフェ。
リリーナは、お気に入りのキャラメルチョコレートラテを飲みながら
クリフォードの絵姿を見つめていた。
(なんで誰も疑わないのかしら…変だと思う人1人くらいいるでしょう普通…
みんながみんな同じ意見って……)
「はぁ〜〜〜〜〜…」
「なぜあなたが大きなため息をついてるの?つくのなら私の方ですわよ。」
「んんっ!?」
突然後ろで聞こえた、きれいな声に驚いて振り返ると、
不思議そうな顔をしているメリンダが見えた。
「わぁあ!!来てくださったんですね…!嬉しい!!ささ、こちらへどうぞ!」
メリンダが頼んだラベンダーのハーブティーが運ばれてきたところで、
ようやく腰を据えて話ができる状態となった。
「あの…来てくれてありがとうございます。あの状況に私の方が耐えられなくて、
つい…お誘いしちゃいました…」
「プフッ!」
メリンダが急に吹き出したので、リリーナは驚いた。
「ど、どうしました?私何か面白い事言いましたっけ…??」
「いえ、あなたのお手紙を思い出してつい、吹き出してしまいましたの。」
「お手紙…あ、さっきのメモですね。」
「あの…決闘の申し込みみたいな書き方が、面白くって…!ふふっ!」
「ああ…!確かにあれは…無作法なお手紙でしたよね…失礼しました…」
「いえ!あれがよかったの。あれでだいぶ気分が紛れましたもの。」
そう言うメリンダは、にっこりと微笑んだ。
「そうなんですか!?…それでしたら、よかったです…!」
リリーナも微笑み返す。
それから、少し沈黙が続き、お互い何口か飲み物を飲んだ。
リリーナは何か話題をふらないと、と焦りもしたが、
メリンダのタイミングで…と沈黙に耐えていた。
メリンダはカップをソーサーに置くと、
ゆっくり話し始めた。
「ガラスペンのことも、先見の力で見えていたの。
先週、ペンを忘れた日があって、マリエナさんが貸すと言ってくれたのだけど、
それはお断りして、全部覚えて帰った日があったわ。」
(覚えてって…あれは…実話だったのですね。)
「先見の内容では、ペンを借りて、普通にその日に返したけど今日みたいに壊れて見つかる
っていう内容だった。だから借りないようにしたのに、なぜか私のせいになったのよ。
やっぱり…足掻いてみたけどダメだったわ。」
メリンダはふぅっと小さく息を吐いた。
その姿を見て、リリーナも感じていた違和感を話してみた。
「あの…私、みんながマリエナさんを崇めるように見ているのが、
異様に思えて仕方がないんですが、それっておかしいことでしょうか?
昨日に始まり、みんなまるで魔法にかかったみたいになっちゃって。
あんなに急に人の態度って変わるものでしょうか…?」
それを聞くと、メリンダは手を口元にやり何やら考え始めた。
「…やっぱり、ちょっとおかしいと思っていたのだけど、リリーナにはヒロイン補正が
効いてないみたいね。…不思議だわ…」
(考えが声に出てます…!そして出た!メリンダ様の分からない言葉シリーズ…!)
と口をつかんばかりに目を見開いたのに、彼女も気づいたようで
「あぁっ!そう、そう、なんだか金の魔力量の持ち主には、生まれ持った素質があって
人を魅了する力が、ひときわ強いらしいの。そうなると、その人の言うことが正しいものだと
思い疑わなくなるの。でも、それがあなたには効いてないってことかしら。」
あわてて説明をした。
「なるほど…金の魔力量の持ち主は、数百年に一度出現、それは絶大な統率力を持っていた
という文献も残っていますし。それが魅了の力だったというのも頷けますね…」
それに納得がいったのだけど、それにまた疑問が湧く。
「ではなぜ、なんでもない普通の私が、その枠から外れて効き目ゼロなんでしょう?
あ、ああ!魔力量でしょうか!?私って”赤”ですから、赤以下は効かないとか…?」
「それが、そうでもないのよ、クラスには何人か赤もいたでしょう?
あの子たちは漏れなく魅了されてますもの。」
「では、交際していない人は…」
「あなた以外は魅了されてますわね。」
「では…子爵令嬢以下…」
「同じくですわ。」
「うぐ…」
これ以上言うと、自分で自分を傷つけているようで惨めになりそうだったのでやめにした。
「まあ、何かしらで効かないんでしょう。私は、こうして一緒に本当のことを
お話しできるのだからいいんです。メリンダ様は少しは気分が楽になれそうですか?」
「もちろん。こうしてリリーナとお茶をして話すだけでも、十分息抜きできるわ。」
「よかった!」
それからは他愛のない話が続く。
お互いの好きな演者のこと。趣味のこと。家族のこと。
楽しい時間はどんどん過ぎて、寮の門限が迫っていることに気づいた。
「いけない!つい話し込んでしまったわ…!」
「楽しくて時間を忘れてしまいましたね。
…そして課題をするのも忘れていました。帰ったらやらなきゃ…!」
「30分もかからないと思いますから大丈夫ですわよ。」
「無理ですよ…私は瞼を持ち上げながら頑張りますね。」
お互い、ふふっと笑い合った。
「またカフェに行きましょう。」
「ええ、ぜひ!」
帰りはメリンダの配慮により、別々の道で時間をずらして寮に戻ることにした。
案の定、リリーナは遅い時間まで課題に追われることとなった。