第1部 各々の日々 壱人目 第3話
さて、そんなこんなで榛葉も小学校高学年という年になってしまった。
その時にはすでにPCを自作することの楽しさがわかっていた榛葉ではあった。
そして、中学に入った彼には、PCオタクが、それも女子が友達として、ではなく
”恋人”として仲良くしている先輩が出来た。
雪村榛葉の人生のうち、最初であり最後となってしまった恋仲の先輩の名前は、
三枝 深紅という、ちょっとばかし男勝りなところがある、2個上の先輩だった。
深紅先輩と付き合っている間の彼らの共通の話題は、
とてもカップルがするような甘いものではなく、
なんなら物好きな男の子が男友達に話すかどうかも怪しいものだ。
当時はまだ子供にはとてもじゃないが浸透していなかった
パソコンのパーツの話であった。
当時はネットもそこまで発達しておらず、
昭和のアナログな方法ではないにしても、
やはり情報を集めるのは大変なものだった。
それでも二人は、当人同士がその話題で楽しめるように、
と新しい情報を仕入れる。そんな毎日を過ごしていた。
そんなこんなで一学期もあとちょっとで終わりそうになってきた。
期末テストも1週間後に迫っている。
二人は、PCの知識を得るために磨いたものとして、
英語の文法、PC用語になっている単語、
界隈で使うことが多い英熟語などは、必然的に覚えていた。
だが、PCが絡まないものに関してはからっきしだった。
分野によっては高得点も取れることもあるが、
同じ教科でも授業で聞いたことをある程度答案に書けるのと、
自分から取りに行ったものを完璧に答案に書けるのは、
とても同じとは言えない。
榛葉が深紅と付き合って早2カ月。
期末を辛うじて赤点なしで、
つまりは補講も受けることなく、夏休み初日になった。
早速二人は互いの家からそう遠くないカフェのテラス席で、
とても表情からは想像できない話題で、目を輝かせながら談笑していた。
当然周りの客らは話題自体はわかっても、
詳しい内容までは到底理解できる領域ではなかった。
その帰り道、横断歩道を渡ろうとした時のこと。
青信号になったので渡ろうとした二人は、気付かなかった。
否、深紅は直前になって気づいた。
咄嗟に榛葉を後ろに突き飛ばした。
榛葉は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、
直後に血だらけの彼女を見たことで嫌でも理解した。
彼女は、自分を庇って死んだのだと。
でも不思議だったのは、“何から守ったのかがわからなかった"
からだ。 車もなかった。自転車もなかった。
だが、ただ一つ。明確だったのは。彼女は。三枝深紅は、
何らかの衝撃波を受けたことで死んだのだと。
警察からは不審な死を遂げた少女とだけ記録された。




