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甘い展開

 甘い展開。


 恋愛系の漫画やドラマ、映画でよくある恋人同士、夫婦、恋人未満友達以上の関係のものに訪れるイベント。

 それは無自覚に起こる互いの好きを確認する行為。時には意図して起こす事もあるそれは他者の眼など気にする事も無く行われ、こちら側の心の準備をさせる暇もなく糖度が高い衝撃を与えてくる。


 砂糖を吐く程に甘い。

 胸焼けがする。

 目の保養になる。

 余りの甘さに頭が痛くなる。

 尊い。

 末永く爆発しろ

 はよ結婚しろ。

 ……等、個々人で甘い展開に対する見解は異なる。


 ラブコメ、恋愛ものが好きな者には比較的好意的に受け取られやすく、逆に恋人いない歴=年齢の非モテの者の多くにとっては嫉妬や憎悪等の負の感情を育む力へと繋がる。恋愛に興味のない者に対してはどうでもよいと切り捨てられる場合が多い。


 さて私の場合、甘さはどのような効果を与えて来るのか?

 それは今、現在起こっているこの状況から以下のような三つの症状が引き起こされている。


 ・胸焼けがする。

 ・頭が痛くなっている。

 ・気持ち悪くて吐きそう。


 甘いものには慣れていると思っていたのだが、それは自惚れであったようだ。

 だが、この場を離れる訳には行かない。行かないのだ。




 何故なら…………。




 今、大食い勝負をしている真っ最中なのだから。


 私は年二回行われる大食い自慢の猛者達が集まり、覇を競う地元の特産品をふんだんに 使った大食い大会に参加して上位入賞を何回か果たしている。それくらい私は大喰らいなのだ。

 で、勝負の相手は最近私を見付ける度に大食い勝負を挑んでくるスレンダーな女性。彼 女も彼女で大食い大会の常連に負けず劣らずのフードファイターであるが、今の所戦績は私の全戦全勝である。


 負けても負けても諦めず、何度も私に挑戦する彼女の姿勢に惹かれ、何時の間にか好きになっていたのだが、今はそれは置いておく。


 彼女と偶然町でばったり出くわし、何時もの流れで大食い勝負へ。

 そんな本日の大食い勝負の品目は怒髪天ペガサス盛りエベレストパフェという総重量4kgもある甘味の暴力装置だ。

 季節のフルーツをふんだんに使い、チョコシロップにキャラメルシロップ、蜂蜜にメープルシロップ、更にはバニラ・抹茶・ミントの三種のアイス、そしてたっぷりの生クリー ムでデコレーションされたもの。普通なら家族とか友達間でシェアして食べ合うものだろう。


 で、そんな甘味の暴風雤の塊を必死に食べているのだが、駄目だ。気持ち悪くなってきている。

 果物の甘味はいい。自然な甘みだから。しかし他の部分の甘味はもれなく砂糖の甘味。それもふんだんに使用されているのでめっちゃ甘い。生クリームなんて殺人的な甘さだ。脂肪分も合わさって胸焼けが……

 メープルと蜂蜜もホットケーキにかけて食べる分にはいいのだが、この甘味オンパレードの付け合せとしては悪手だ。砂糖とは少しベクトルの違う甘味が頭痛を引き起こしてくる。


 これが普通サイズ……いや、せめて2kgまでだったら美味しく食べ切れただろう。実際、私は半分くらいまでは美味しく食べられていたのだ。

 だが、エベレストの五合目を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなり、七合目で胸焼け、八合目で頭痛。そして九合目で吐き気が……。

 どうやら、私は甘いものはあまり多くは食べられないようだ。大食いで甘味は食べてなかったので気が付かなかった。

 因みに、この怒髪天ペガサス盛りエベレストパフェは制限時間30分で食べきれば無料。食べ切れなければ挑戦料一万円を支払わなければならない。


 甘い展開(ラブコメとかそう言うので発生するイベント的なものではなく、食味的な意味合い)に拒絶反応を起こしてはいるが、残り時間五分を切っている今、頑張って残り一割を切ったパフェを食べきらなければ……。今日財布に千円札一枚しか入ってないのだから、挑戦料なんて払えないんだっ。

 せめて甘くないコーンフレークが底に敷き詰められていれば甘味を和らげる事が出来たのだが、生憎そんなものはこのパフェの中に存在しない。甘味百パーセントだ。


「ごちそうさまでしたっ」


 と、私が震える手でスプーンを口に運んでいるうちに、対面の席で食べていた彼女は完食した。

 傍目で見ていたが、 スプーンを口に運ぶスピードは一切衰えず、終始花咲く笑顔のまま、上機嫌でパフェを食べていた。

 気持ちよく食べて、無理せず完食する。大食いで理想的な食べ方で彼女は食べきったのだ。


「やった! 初めてあなたに勝っ……大丈夫!?」


 私との勝負で初白星をあげた彼女は喜色満面で勝利を噛み締め、私の方へと顔を向けた瞬間焦りの表情へと変化した。どうやら彼女は食べる方に集中していてこちらには目もくれていなかったようだ。

 私は心配ないとばかりに首を縦に振り、左の手でサムズアップする。


「 いや顔真っ青だし、脂汗凄いし、目の焦点合ってないし! ねぇ、本当に大丈夫!?」


 どうやら傍から見たら相当ヤバい状態らしい。


「 あの、お客様。無理をなさらない方が」


 そして近くにいた店員がギブアップを勧めてくる。店側としても救急車騒ぎは御免被りたいだろう。私だって救急車は嫌だ。

 しかし、ここでやめる訳には……。重い手を動かしてパフェを口に運んでいくが、このペースでは時間内の完食はギリギリいけるかどうかだ。


 食べ物自体はまだまだ腹に入る。それくらいの余裕はあるのにこの吐き気、頭痛、胸焼けで喉が通らなくなってしまっている。

 この症状を無くす事が出来れば、食べ切れるのだが。

 妙案なぞ思いつく事も無く、私は愚直にパフェの中身を口に運び続けるだけの機会と化している。


 ふと、背中に優しい温かみを感じた。

 その温かみは背中からじんわりと身体の中へと浸透していく。

 すると不思議な事に、食指を鈍らせていた三重苦が和らいだではないか。

 これならいけるっ。


 私は手を動かすスピードを速め、次々とパフェを食べ進めていく。

 そして……食べきり、スプーンを置く。

 タイムは29分49秒。ぎりぎりだったが、難とか食べきった。


 そう言えば、この背中の温かみは何だろう? そう思って背中側を見ようと首を動かす。

 途中で、彼女と視線がぶつかる。

 いつの間にか隣りに座っていたのだ。そして私の背中を優しくさすっていた。

 温かみの正体はこれだったのか。


「 大丈夫? 無理してなかった?」


 今も尚、私の背中をさすり、心配そうに私の顔を覗き込んでくる彼女。

 私は大丈夫だ、と頷く。


「 本当?」


 顔を近付け、再度確認を取ってくる彼女。かなり近い距離に彼女の顔があって、ドギマギしてしまうものの、心配無用の意志を伝えるべく二回頷く。

 それでも心配だったのか、それから十分程、彼女は私の背中をさすり続けた。御蔭様で体調は完全に回復した。


 勝負には負けたが、いつもより彼女といる時間が増えたので、内心では嬉しかった。

 でも、彼女の心配そうな顔は見たくないと思った。こうなったのは自分のキャパシティをきちんと把握していなかった私の所為なのだ。

 勝負の時、彼女に心配を掛けないように特訓をしよう。そう、心に誓った。








 後日。甘いものを沢山食べられるようにと一度に大量のスイーツを食べる特訓をしている最中、エベレストパフェを食べた時と同じ症状が出たので、自分で自分の背中をさすって症状を緩和させようとしたのだが、全然和らぐ事はなかった。

 彼女が背中をさすってくれたから、効果があったのだろう。

そう思ったら、顔に血が集まって熱くなった。

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