ツインテ女子はインテリ肉食系
昨日投稿できなかったぶん少し長め。
1日2000文字目標です。
「起立」
学校の鐘の音と同時に先生が終わりを告げ、委員長の号令で締める。どこにでもある普通の光景。ガラガラと一斉に椅子を後ろに引く音がクラス中と言わず、各クラスで鳴り響く。
これが今日の最後の授業だったからだろう、疲れた表情をする者から、放課後に胸を躍らせる者、部活の準備に行く者と様々だ。俺はと言うと友達と旬と輝と一緒に下校する。わけではない。
「んじゃな、輝と旬。部活頑張れよ」
俺はいつもと同じことを同じように言う。
輝と旬はそれぞれ部活の荷物を背負い直しながら俺の方を振り向いた。
「おう、美月。お疲れさん、また明日な」
「じゃあね、美月君。また明日」
「あぁ、2人とも頑張れよ」
すると輝と旬は俺に向かって少しニヤけた顔で揃って口を開いた。
「お互い様だろ?」
俺はそんな2人の言ったことに思わずため息をついた。この後、いつもの様に校門前で俺の事を待っているであろう姿を思い浮かべて。2人が部室に向かったのを確認して、改めてリュックを背負い直し教室を出ようと振り返った直前だった。
「みーくん」
突然、猫なで声が鼓膜を振動した驚きで俺は思わずその場で仰け反った。それがアイツの囁き声だとすぐさま理解した俺は、心を追いつかせてから返事をする。
「お前……、突然耳元で囁くな」
「へへへっ、ごめん!」
視界一杯に広がる桃色の髪が俺の顔にかかる。近ぇんだよ。お前の髪以外何も見えねぇよ。
少し後ろに下がれば、ツインテールを左右に揺らした彼女と視線があった。
いつの間にか俺のそばに来ていたその女は、去年同じクラスメイトだった女は花咲。愛想がよく可愛らしい言葉遣いに人気が高くうさぎみたいだと言われているらしい。こいつはうさぎというより肉食獣の方が近いだろうと思ったが、この意見に共感出来るやつはいないらしい。
「……今日は校門前じゃなかったのか。あとみーくん言うな」
「今日は終学活ながくてさー。そしたら校門前で待つより直接教室行った方がはやいって思って」
「んじゃ、帰るぞ」
「はーい」
みーくんと馴れ馴れしい呼び名で俺の事を呼ぶこの女とは、入学して直ぐに行われた交流会のようなもので知り合った。偶然話す機会があり、そこから次第に話すようになったのだ。とは言ったもののほぼ一方的に花咲の話に付き合わされているだけだったのだが。
交流会をきっかけにコイツと話すことが増えたが、2年生に上がった今では別のクラスでもう話すことも無いだろうと思っていた。だがコイツは俺と同じ帰宅部で帰りはいつも一緒だ。別に俺が一緒に帰りたいわけではなく、コイツが勝手に着いてきているだ。
「あ!みーくんみーくん!もうすぐ私の誕生日だよ?ちゃんと覚えてた?準備はできてる?」
「……いや、知らねぇよ。覚えてもねぇし」
「もうー!6月20日だよ?ちゃんと準備しておくよーに」
「6月20日な、おっけーおっけー。準備しとくわ」
「もー!絶対忘れないでねー?来年は私前もって言ってあげないから」
「いらんいらん。言わなくていい」
「え?それってちゃんとおぼえててくれるってことだよね?」
思わずはぁ、とため息をこぼす俺に花咲は満足そうな顔で横に並ぶ。こうして2人で並んで帰ることも、今では慣れてしまった。最初は周りからの目線とかも気にしていたが今ではなんとも思わない。
でも、花咲は何が楽しくて俺と一緒に帰るのか全く分からない。俺は彼女の話に適当に返事をしている。彼女の周りにはノリのいいやつからツッコミにキレのあるやつと沢山いる。俺もそこそこ顔が整っているとは思うが、花咲の周りにいる男子に比べたら目が霞む程だろう。
だから聞いてみることにした。
「……あのさ」
「ん?なになに!?みーくんから話振ってくれるなんて珍しーよね!!明日は槍降るのかな?」
なになにと続きを催促される。
余計に言いずらくなったことはなるべく気にしないように意識する。
「前から思ってたんだけど俺と一緒に帰って楽しいか?俺がお前なら絶対楽しくねぇけどな」
だから花咲が付きまとってくるのも最初だけだと思っていたのだ。だが実際はどうだろう?今もこいつは「昨日のテレビは何をみた」とか「友達が推している俳優のここがどうの」だとかどうでもいいことを次から次へと俺に話し続けてくるのだ。
「へぇー?頭のいいみーくんはそんなこともわからないんだねー? 女心テストはまだまだ赤点だよー?」
「おめーみたいなやつはとくにわからねぇよ」
「みーくん。そんなの楽しいに決まってるよ」
今も楽しいよ?と付け加えながら俺より数歩前に駆け足で抜きでる。4歩ほど前にでた後に振り向いて止まる。くるっと足先を軸に鮮やかにターンを決めた動作から、運動神経の良さがにじみ出る。
鼻先が歩みを止めたので俺もそれに合わせて止まった。俺と花咲が向き合う形になる。
「じゃなきゃさっ、部活なんてやめないよー?」
「……は? 待て、なんのことだ?」
一瞬、何の話をしているのわからなかった。部活なんてやめないよ?そう言ったのか?部活をやめない?は?花咲は部活に所属していただろうか?俺は知らないし聞いたことも無い。それでも、元々部活に入っていないやつがそんなことを言うだろうか?いや、言わない。コイツは前まで部活に入っていたことになる。おいおい待て待て、初耳だぞ。
「あれ?話したこと無かったっけ?私、去年の秋頃まで女テニに入ってたんだー」
「知らん。初耳だな」
「えぇー!?そうなの?私が言わなくとも他の子から噂か何かで聞いたことくらいあるかと思ってたよ」
「噂?……噂って何の」
「聞いて驚け!これでも私、去年は期待の星って言われてたほどの実力者だったのです!!えっへん!」
花咲はエッヘンと、小ぶりながらに膨らんだ胸を自慢げに主張する。その大袈裟なポーズに俺は自然と視線をずらす、俺より前にいた花咲を抜かして歩き出す。着いてきていることも確認せずに歩き出した俺に彼女は慌てて追いついてきた。
「ちょっ、ちょ待ってよー」
彼女の言葉に返す余裕はなく、意識はより深くに落ちる。
花咲は小柄な方だが、周りをよく見て小柄な分よく動く。
去年の体育の授業で初めて見た時、本当に驚いた。花咲は女子力にステータスを全振りしているようなやつだから、体育は嫌いな部類だと思い込んでいた。汗をかくし、せっかく整えた髪やメイクも崩れてしまうのが嫌だろうからだ。
しかし違った。実際の彼女は全力でスポーツを楽しんでいた。勿論、体育後の彼女の髪型は乱れに乱れ、あははと笑う花咲が今でも忘れられない。
落ち着いた思考で、気になることがいくつか思い浮かんだので聞いてみることにした。
「その期待の星がなんでやめたんだよ。人間関係が嫌っだったのか?」
聞いておきながらもそれは無いと思った。こいつは人付き合いが得意だ。クラスでも周りの女子と仲良くやっているみたいだったし。小柄で可愛いだけじゃあなく全力で体育の授業を受けるようなやつなのだ。当然男にも人気がある。
ならば考えられるのは、花咲のことをよく思わない一部のやつくらいだ。
「違う違う!何一つとして不満は無かったよ?でも我慢できなくなっちゃって」
へへへと照れくさそうに笑う花咲を見て何故か何も聞けなかった。代わりに目で続きを促すようにじっと見つめることにした。
「わかってるでしょ?理由」
意地悪に笑う彼女。こんなにも表情をコロコロ変えるやつだと知ったのは丁度去年の秋頃だ。いつも通り1人で帰ろうとしたところを花咲に捕まり、それから毎日のように一緒に帰ることになった。半場強制的ではあったが。
そう、さっき花咲は言った。「部活を辞めたのは秋頃だ」と。
答えは見つかった。でもそれを俺の口から言うには勇気がなかった。
花咲は俺が気付いたことを感じとったようで、彼女の意地悪は更に加速する。
「ね、なんで?なんでだと思う?」
「……」
俺は無言を貫くことにした。自分に都合の悪いことは知らないフリをしとけば解決だ。
「んー?もしかして、何も答えないつもりかな?」
困ったなと呟く花咲に勝ちを確信した俺はそのまま歩く。もうすぐ花咲と別れ道になるところだ。なんだかんだでこの下校時間を楽しんでいる自分になんとも言えない感情を覚える。
「あっ!それならこうだ!!」
「あっ!おい!?!」
俺の腕をぎゅっと花咲の方へと掴まれてしまった。彼女に吸い寄せられるようにホールドされてしまった腕は、簡単には抜けそうにない。無理やりぬこうとすれば彼女の色々なところにあたってしまうだろうから無理に動かせない。
だからせめてもの抵抗で口では嫌がることしかできない。
「おいっ!ちょ離れろ!近いって」
「ダメでーす!答えるまでこの手は話しませーん!二ヒヒー」
「お前……!その、あたってんだよ、色々なと!だから離れろって!な?まずいだろ?お前も嫌だろ?な?だから離れろ!」
「なんでそんなに嫌がるかなぁ?普通ほかの男子ならもっともっと!喜ぶくらいだよ?ほんとみーくんは変わってるよねー?」
「別に変わってねぇよ!佐藤と同じにすんじゃねぇぞ!」
「えぇ?そこまで変人だと思ってはないけどさー、でもやっぱり美月君も少し変わってるよね?」
「だからほらっ!慣れなきゃ!女の子と触れ合う練習っ。じゃなきゃいつか別の子に変人だぁー!ってバカにされちゃうよ〜?」
俺は変人ではない。断じて。だが少し変わっている自覚はある。嬉しくないなら本気で花咲を押し飛ばしてでも抜け出すだろうし、喜ぶ人はこれでもかと大袈裟に喜ぶだろうからだ。だが俺はどちらとも、言えず中途半端な選択をしてしまっている。
でもそれは、お前だからで、別にほかの女になら気にせず押し飛ばすことだって……。
「もう!堪忍しなよー?みーくんが内心、喜んでるの知ってるんだよ?だからもうこのまま《《家まで》》こうしてよ?」
からかっているこの状況を楽しんでいるのが、声でわかる。すごく楽しそうだ。俺は楽しくない、困り果てている俺の様子が分からんのかお前は。それに嬉しくないわけないだろ。
「ん?家まで?さっきなんて言った」
「そうだよ?家まで。今日は私の家にご招待します!」
「いや、は?無理無理無理!無理だから!それに俺なんも用意してないし、帰るつもりだったけど??」
「いいよいいよ、そのままで!それに何も問題なんてないから!」
「だって今日、家に親いないから」
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