佐藤のやつ、また呼び出しだってよ
これから先、やっべぇやつどんどん出します。
「佐藤、アイツまた指導か?やっぱり理由はあれで決定だな」
「何科目も平均点とったことか」
「この前の期末テストの返却日、佐藤時だけ、岩永先生にすげぇ睨まれてたぜ?」
「まじかよ怖ー。あと、噂だとあいつ、全科目だってよ?笑っちまうよな」
男3人で、各自が用意した弁当を机の上に広げていた。話題は数分前に担任の先生である岩永先生に校内でも変人として有名人である佐藤が呼び出されたことで決定だ。
「それにしてもアイツ本当にバカなんじゃねぇの?前、俺教えてやったんだぜ?」
「輝があいつに何を?勉強方とか?」
「はぁ?旬何言ってんだ?輝が勉強できないこと知ってんだろ、笑わせんなよ、くくくっ」
「お、おい!美月お前馬鹿にすんな!俺はなぁ平均点とるくらいなら勉強なんかすんな!って教えてやったんだよ」
「やっぱ馬鹿じゃん!お前!」
美月は整った顔をぐしゃぐしゃにして笑いとばす。普段は三日月のように細い目を、今では満月のように大きく目を見開いている。輝は困ったような顔で頭をがしがしと書きながらもう片方の手で器用に弁当にありつく。
「まぁでも佐藤もさ、あの輝にアドバイス貰っといて活用しないとか、やっぱかわってんのなぁ」
「それには旬の意見に同意だな。平均点なんて中途半端な点数取るなら思っいきし遊ぶかそれかもっと勉強して上位狙えよな」
輝は『クラス一の大馬鹿者』で有名だ。だが『大馬鹿者』である輝は、馬鹿が故か、自分に愚直なまでに素直で、『クラス一の正直者』としても有名だった。
体育祭や文化祭とイベントの時には率先してクラスを盛り上げることができるやつで、誰とでも仲良くできる性格の持ち主だ。
「1科目程度なら確か平均点とっても許されるんだろ?」
「あぁ、そうだぜ」
「あ、そういえば輝去年のとき新入生初っ端のテストで1科目平均点とってたっけ!」
「そうだそうだ!佐藤の存在がデカすぎて忘れられてるけど、輝も取ったことあるんだったな!」
「ん、…ぃっ、……いや、……それもぅ…、忘れてくれぇ……」
ガラガラガラっと、教室の引き戸が音を立てた。昼飯を食べながら喋っていた皆が一斉に会話を切り上げたことにまさかと思い、輝・旬・美月の3人も教室の入口に目を向けた。
「佐藤だ、あいつこっぴどく怒られた跡があるぜ?」
佐藤は教室に戻ってきてから、何ともないような澄まし顔で自分の座席に戻り、いつもの様に読書を再開した。
だが明らかにおかしな点がひとつある。それがシュールさを加速させクラスが笑いの渦に飲み込まれる。
「見ろ!佐藤の口を!!立派な明太子様のできあがりだあ。くくく、やばすぎんだろぉ!!いてぇえ腹痛てぇよ捩れちまう!」
美月が腹を抱えて笑う横で俺と旬も我慢の限界を迎えていた。
「あの様子、今日はどうやら『激辛明太子5個食いの刑』だったらしいな!」
旬がキラキラとした顔で話を振る。
「あ、あぁ、ブフッ…そうみたいだな。佐藤の唇が、真っ赤に膨らんでやがる。クック…あれは立派なタラコ唇だ。ブフフッ」
岩永先生に指導されたものは、いつも違った方法で指導される。今回の指導は激辛明太子、1個食べるのに汗が滝のように流れると噂の明太子を丸々5個も食べさせると言う内容だったみたいだ。
ちなみに歴代で一番きつかったと伝説の指導は『3時間くすぐりの刑』だ。
「あれじゃあ口が痛すぎてまともに話せないんじゃないのか?」
「そうだろうな。見ていてこっちが痛々しいレベルだ。あれ、なおるのか?」
「いや旬、あれはあれでいいじゃないか」
さっきまで腹を抱えて笑っていた美月は気がついたらいつも通りに戻っていて、昼ごはんを再開していた。
「あいつはもともと“つまらない“ほどに何もかもが平凡で、それは顔立ちもそうだった。おかげでみろ、あいつにはこうしてタラコ唇になってクラスの笑いの種になったにも関わらず、誰も話しかけてくれることは無いんだ」
美月が言う通り、佐藤は何をするにも平凡でダメダメだ。まるで何の面白みもない。
例えばの話、運動の時に物凄くサッカーが上手い生徒がいた時、それは注目の的になる。皆から期待され、他生徒が目指す具体的なイメージ像にも繋がる。
一方で全くサッカーができない生徒がいた時、これもまた注目の的になるのだ。
全くサッカーができず、肝心なところで振り上げた脚はボールをかすめ、その勢いでバランスを崩し派手にコケる。周りはそれを見て笑うのだ。そしてそんな一つ一つのなんともないはずの動作に面白みやら心配やらで目が離せなくなり、気がつけば目で追いかけている。たちまち彼はクラスのムードメーカーとなり、クラスを賑やかにしてくれるだろう。
だが、平凡なやつが居るとどうなるか…。何も無いのだ、自身はでしゃばらないよう意識してのことかプレイスタイルは控えめで、全く役に立たないことが嫌なのかパスだけは偶にやる。
やるのかやらないのかをはっきりとしない姿勢と、まだまだ本気が出せるのか、それとも本当にできないのかわからないそのスタイルは嫌われる。上手い生徒と下手な生徒と違い平凡な生徒とというのは何の味もしない食感もしない食材同様に面白みがなくつまらない。
だから美月は言った。
「あいつの唇があのままタラコ唇ならよ、隣のクラスのピザデブちゃんで有名な大鬼さんと同じで普通になれるだろ?」
「確かにな、みつきの言う通りかもしれない。あのままの方がずっといい!前まで何味でも無かった佐藤にいい刺激になるだろうな」
ガラガラガラッ!!ドンっ
佐藤の時とは違い、勢いよく開けられた扉の音にクラスメイトは一斉にバッと教室の入口に顔を向ける。
「あっ!!実君!!」
彼女は扉をあけてすぐにそう叫び教室に入ろうとした。実君とは、佐藤のことである。
するとその勢いのあまり扉は壁にぶつかり跳ね返った。
そう、跳ね返った。するとそのまま教室に入ろうとしていた彼女を挟み込むように思いっきりぶつかり、彼女 姫子はそのままぶっ倒れた。ちなみにピザデブちゃんの友人である。
「え、あ!おい!」
旬と扉の近くに座っていた生徒が慌てて駆け寄る。佐藤はと言うと驚きのあまり席から立ち上がりその場で大きなタラコ唇をわなわなと身震いさせていた。少しおもしろい。もうずっとそのままタラコ唇でいればいいのに。
「え、え!?嘘だろ!?姫子ちゃんの頭から血が!?!」
「ど、どうする??救急車か!?俺がおんぶして運ぶか!」
「だ、誰かここにお医者様は居ませんかあ!」
「俺が心臓マッサージをッ」
「いやまず先生呼ばないと!!」
「先生どこ!岩永先生ぇぇ!!!」
「ちょっと男子ィー」
「救急車番号なんだっけ!!」
クラスはたちまち地獄とかし、頭から血を流し続ける彼女の傍らでクラスメイトはふざけつつも心配し、遊びながらも真面目に応急処置を施した。慌てて駆けつけた岩永先生と他の先生が集まり、それから事態は収束した。
彼女は頭から血を流し続け、救急車に運ばれた。血が流れすぎてる気がするが、多分大丈夫だ。
こうして彼女は鮮やかすぎる入退場を決めた。にも関わらず午後からの授業には、皆何事も無かったかのように、5時限目の授業を受けていた。
ボールペンをバネで飛ばし、一角の席では4人でゲーム機を向けあい、机に手鏡と化粧を用意してメイクしている子もいて、中には丸メガネのレンズにぐるぐる巻きの線が入ったいかにもな生徒が机に国数英社理の教科書全てを開いて、旬は幼馴染の女の子の椅子の代わりになって、輝は机に枕を置いて寝て―――
―――いつも通り“普通“に家庭科の授業を受けていた。
なぜならこれが、彼らの“日常“だからだ。
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