99.こっそり潜入作戦
『――こちらスネーク。東通りに潜入成功』
『――こちらファルコン了解。こちらも西通りに潜入成功したのじゃ』
俺達はいま、神聖教国の首都に潜入していた。
というのも無事にガッテム山に到着して小屋1つ分の拠点を作って長距離転移門を繋げたまでは良かったんだけど、予想通りというか早く着き過ぎていてまだルクセン領民奪還作戦が終わっていなかったのだ。
手伝おうかとも思ったけど、自分たちだけで十分だと断られてしまい、じゃあ空いた時間で何をしようかとチックルちゃんと話した結果、先にふたりで中に入ってみようという話になった。
で、折角なら潜入ごっこをしようということでこんな会話を交わしている。
『しかし妙じゃな。先ほどから人っ子一人見かけないのじゃ』
『こっちもだ。生活感がない訳じゃないから誰も住んでいない廃墟ってことは無いと思うんだけど、それならいったいどこに行ったんだって話だよな』
窓から家の中を覗いてみても埃が溜まっている事も無いし、畑も手入れがされている。
それなのにまるで神隠しにあったかのように街の中に人の姿が無い。
外門すら閂を掛けて開かないようにしてあるだけで門番すら立っていない有様だ。
まさか本当に神隠しに遭った?
いずれにしてももう少し調査を続けよう。
何か手掛かりがあるかもしれないし。
それにもし超常的な何かならチックルちゃんを危険に晒す訳には行かないから早めの撤退も視野に入れなければならない。
そうして1日調査を行った結果。
やはり街中には誰一人いないこと。そして街の中央にある城の中だけは人の気配があることが分かった。
ただ流石に城に突撃するのはリスクが高いので行くのはみんなと合流してからにしようという話で落ち着いた。
そうして日が暮れてしばらくした時。
リンゴーン♪リンゴーン♪
城の塔の上にある鐘が鳴りだした。
何が起きるのかと身を隠した俺達の視線の先で東門が開き、大勢の人間が街に入って来た。
慣れた感じからしてこの街の住民だろう。
つまり今まで街の外で何かをしていて、鐘の音に合わせて帰って来たってことか。
どこで何をって疑問もあるけど、それ以上に門番を始め最低限の人間まで動員していることに異常さを感じる。
「チックルちゃん。あの人たちが夜になったら帰って来たってことは多分朝になったらまた出かけていく可能性が高い。
だから明日の朝、彼らを尾行してどこで何をしているのか突き止めよう」
「うむ。ならばわらわ達も朝まで休むのじゃ」
「そうだね。って、どこで?宿屋とか空いてるだろうか」
こんな状態の街で外から旅人も居ないだろうし宿屋も閉まっている気がする。
仕方ないので空き家を見つけて一晩お借りすることにした。
折角だから台所も借りて簡単な料理を一緒に作ってベッドに一緒に……は入らないよ。
「むむ、なぜじゃ!」
「色々マズいから寝床は別」
流石に旅先で出会った女の子と同衾してきましたとかミツキやチチカに知られたら殺されてしまう。
チックルちゃんは今、人の姿になってる訳だけど身長とかはミツキ達とそう違いは無い。
なのでロリコンとか蔑まれることはないけど、むしろ年頃の女の子なのでよろしくない。
それとチックルちゃんが大人の男女のあれこれを理解しているかどうかも怪しい。
だから危ない橋は渡りません。
チックルちゃんはぶぅぶぅ文句を言ってたけど、眠気に負けてようやく寝てくれた。
そして翌朝。
まだ日が出て間もない時間帯に再びあの鐘の音が響き渡った。
リンゴーン♪リンゴーン♪
窓から外を見れば、各々の家から出てくる人たち。
昨夜は気付かなかったけどどこか虚ろな眼差しのまま、ぞろぞろと東門へと歩いていく。
「まるで洗脳でもされているように見えるね」
「そうじゃな。神聖教国の教皇ならそう言ったスキルの1つも持っていてもおかしく無いのじゃ」
街の住民全員となるとかなり大変そうだけど、でも今の様子から考えるとそれが一番ありそうだ。
後はこんな大掛かりなことをして何をしているか、か。
「さあ、彼らの後をつけるよ。多分多少は誘導したりする為に正気な人が居ると思うから気を付けてね」
「心得たのじゃ」
俺達は先回りして東門の外の森に隠れた。
時間を置かずぞろぞろと出てくる街の人たちは一言も喋ることなくそのまま街道を歩いていく。
街道の先にあるのは、ガッテム山か。
山を見上げればその中腹付近から翼を生やした飛んできて街の人たちの先頭や両脇を固めていった。
「さあキビキビ歩け!
全ては偉大なる我らが神の為。
偉大なる神のお膝元で働けることに感謝するがよい」
「これが終わった暁にはお前達は神の御もとに迎え入れられるのだ」
天使たちはそう言った言葉を投げかけながら手に持った壺から何か粉のようなものを振り撒いている。
あれはまさか毒の一種か、もしくは麻薬?
(チックルちゃん。あの粉は多分吸わない方が良い)
(うむ。龍人族のこの身体に効くとも思えぬが、念のため風上に逃げるのじゃ)
小声で囁き合って俺達は行列が見えるギリギリまで離れることにした。
幸い彼らは道から逸れる様子は無い。道は真っ直ぐ山に向かっているし天使がそっちから来たから目的地は間違いなくガッテム山だろう。
その予想は当たっており、程なくして彼らは山の中腹に到着した。
そこには造りかけの神殿群。
一番手前にある巨大な像が金剛力士像のように立っている門だけはほぼ完成しているようだけど、残りはまだ土台だけって感じか。
街の人たちは建材を運んだり積み上げたりしている。
どうやら彼らはここに神の為の神殿を建築するために集められているようだ。
ルクセン領の人達も労働力として連れ去られたらしいし、やはり神や天使は一般労働に従事する人材が居ないのだろう。
岩陰に隠れて様子を窺っていた俺達の視線の先で光り輝く何かが山頂の方から降りてきた。
「皆の者、作業は順調ですか?」
「ははっ。もうまもなく第1段階が完成します。
この調子で行けばあと1月ほどで最終段階まで完成する見込みです」
「遅いな。2週間で終わらせなさい」
「い、いやしかしそれは無理ではないでしょうか。これ以上人手は居ませんし」
「出来ない理由など聞く気はありません。
人手が足りないなら何処からでも攫ってくれば良いでしょう。
人間などそこら中にいくらでも居るのですから」
「は、はは~」
どうやらあの光ってるのが神か。
何処にでも居る無理難題を押し付けてくるクソ上司ってところかな。
ああいうのに限って文句ばっかりで仕事は出来ないんだよな。
その神の視線がスッとこちらに向けられた。
「それと鼠が入り込んでいるようですね。始末しておきなさい」
「は?なっ、貴様ら。そこで何をしている!!」
やばっ。見つかったか。
「逃げるよ!」
「はいなのじゃ」
俺達は慌ててその場から逃げ出したのだった。




