98.空の上での交流
チックルちゃんに乗っての移動は実に快適だった。
特にフラフラせずに安定して飛べるのがいい!
いやそれが本来普通なんだろうけど、やはり人間いちど不便を知ってからの方が普通のありがたみを理解出来るというものだ。
それと話し相手が居るというのも良いものだ。
本来なら10日近くをたった一人で移動し続けるところだったからな。
こうして誰かと話しながらなら退屈もしない。
「じゃあチックルちゃんは今、各地を巡視する仕事をやってるんだ」
「そうなのじゃ。父上からも世界を見て回るのは良い経験だと言われたのじゃ」
なるほど。
それで最近この辺りの担当になっていた所で俺の報告を受けた訳だ。
「龍王国はやっぱり広いのかな?」
「いや。国土面積で言えば大国と呼ばれる国の中では小さい方なのじゃ。
ただその分、山岳地帯などの他の種族が住みつかない場所が多いのう。
平野部の魔物は専ら魔王国に入るか独立して好き勝手やってるかのどちらかが多いのじゃ」
「環境によって生まれる人間や魔物の種類も変わるってことか」
「うむ。山岳に現れる魔物は龍人族を始め、個で強い傾向にある。
人間の場合はドワーフのように穴を掘るのに長けていたりヤギ人族のように山道を苦にしない者が多いのじゃ」
ドワーフかぁ。やっぱり背が低くてひげもじゃなんだろうか。
今回の神騒動がひと段落したら、世界各地を周ってみるのも楽しそうだな。
「龍王様にはまだあった事が無いんだけど、どんな人?」
「父上は良く言えば武人。悪く言えば戦闘狂じゃな。
なにせ元は蜥蜴人間でしかなかったのに、進化を繰り返して龍人族にまで上り詰めたというのじゃから、わらわでは想像もつかない程の過酷な修練を積んできたのじゃろう」
「あれ?元々龍人族だったんじゃないのか」
「うむ。父上がそうなるまでこの世界に龍人族という種族自体居なかったそうじゃ」
つまり龍人族の開祖か。すごいな。
確かに他の魔物と比べて龍人族だけ強すぎなんじゃないかなって思ってたけど、そういう経緯があるなら納得だ。
ただそれでも世界統一に乗り出さなかったのはさっきの話にあったように個体数が少ないからってことなんだろうな。
やはり広大な領地を維持するにはそれだけの人数が必要になる。
「いや、単に面倒だっただけだと言っておったぞ」
「え、そうなのか」
「父上は強い者にしか興味が無いのでな。
弱い者いじめをしたり、そ奴らを管理したりする気はないと言って最近では兄上たちと武の研鑚をする毎日じゃ。
あ、そうそう。
おじさまについても今度招待しようと言っておったぞ。
娘の婿になるかもしれない男なら早めに確認しておく必要があるなと言ってな」
「は?」
娘の婿?いったいどこからそんな話になったんだ?
そもそも龍王様の娘で知り合いって言ったらチックルちゃんしか居ないんだけど、以前見た時は小学校低学年であれから多少成長したとは言えまだ1年と経っていない。
あ、でもこの世界なら数か月で子供が大人に成長できるのか。
ただ体は成長で出来ても心もそうとは限らないしなぁ。
チックルちゃんはちゃんと理解できているんだろうか。
「わらわの心配なら無用じゃぞ。むしろこの件はわらわから父上に奏上したのじゃ」
「そうなのか。いつの間にそんなフラグが立ったんだ?」
「なはは。フラグなら立ちまくりなのじゃ。
初めて会った時から何も聞かずにわらわを匿ってくれたし、次に会った時にわらわの身分を知っても態度を変えず見返りも要求する様子もない。
それだけでおじさまの心の清廉さは疑いようも無いというものじゃ。
父上や兄上、男達は武力が気になるようじゃが、わらわ達女性は心に重きを置くのでな。
世界を見分してもおじさま以上の殿方は居らんかったしな。
それにそもそも、龍人族が背中に乗せる異性は伴侶として認めた者のみじゃ」
そうだったのか。
ただこうして話していてチックルちゃんから照れや恥じらいは感じられず、むしろ堂々としている。
これについては文化の違いのようで、後ろめたいことが無いなら胸を張って宣言するのが当たり前のようだ。
ミツキあたりだったらもっとモジモジ……してないか。
チチカといい、意外とうちの女性陣はみんな強い人が集まってるな。
唯一知り合いで恥じらいそうなのはシルクさんか。
知り合いの中では一番年長だと思うんだけど一番初心なのも彼女だ。
今度そういう話題を投げてみようかな。なかなかに面白い反応が見れそうだ。
でもやっぱり国や種族が違えば文化や常識が違ってくる。
仮にチックルちゃんをうちに迎え入れるのなら、そういった違いについても伝えておいた方が無用な誤解や衝突が起きずに済みそうだ。
いっそのこと異文化交流みたいなことをしても良いかもしれない。
この世界って人間の国同士でもあまり交流が無いし、人間と魔物では皆無だろう。
神の意向としては争い合わたいのかもしれないけど俺達がそれに従う必要もない。
不死の王も話の分かる人だし、シルクさんの国も交えれば良い感じに盛り上がるだろう。
「そういえば龍王国にも流れ星というか神って出現したのかな?」
「うむ、来たぞ。
『我は龍神様だ崇め奉るが良いぞ。グハハハハ~』とか言い出したので父上がそれはもう楽しそうに決闘を申し込んだら、余りにも弱くて残念がっておったのじゃ」
「それはまた相手が悪かったな」
キャンキャン鳴くだけの子犬とよく訓練された戦闘犬じゃ勝負にもならないだろうに。
この感じだと不死の王も似たような感じかな。
『死神?ふむ、そういうことは死んでから言ってもらおうか』
なんて言って首をすっぱり切り落としている様が目に浮かぶ。
シルクさんのところは、あれでカリスマあるからな。
中途半端に女神が現れても、誰も靡かないだろう。
つまりどこも心配要らないってことだな。神聖教国以外は。
「お、見えてきたのじゃ」
チックルちゃんの言葉に前を向けば、他よりも標高の高い山が見えてきた。
あれがガッテム山か。
あの山の麓、おそらく向こう側に神聖教国の首都があるはずだ。




