97.空の再会
どこかで登場させたいなと思っていたので、ちょっと強引ながらも呼んできました。
暗い夜の森の上空を俺はひとりフラフラと飛び続けていた。
俺の翼は無事に両翼出来たとは言え、左右非対称で不安定極まりない。
特に黒い方の翼は周囲の穢れの状況によって大きさや強さが変化するので調整も難しい。
せめて白い翼が主翼、黒いのが補助翼というかブースターとしてそれぞれ1対ずつになってくれたら良いんだけど、空を飛べるだけで贅沢というものか。
いやでもそれを言ったら神とか天使とかはデフォルトで空が飛べるんだからズルいよな。
まあ文句を言ったところでどうなるものでもないけど。
ちなみに俺がどこに向かっているかと言えば神聖教国の首都だ。
サカガミ領から見て20領地分くらいの距離があるので、歩いていこうと思うと相当な時間が掛かる。
そこで空を飛べる俺だけ向かっている感じだ。それでも数日は掛かる見込みだけど。
しかも少しでも向こうの国に見つからないように、なおかつ俺がリュウジュ王国の人間だとバレないようにするために、真っすぐ向かうのではなく少し迂回しているので10日くらいは掛かるかもしれない。
その間、みんなにはルクセン領から攫われた人たちの救出をお願いしてある。
予定では明日中に部隊を配置して、捕虜を人質にされないように手を回してから救出作戦を実行するので遅くともあと3日くらいで向こうは片が付く。
ただこちらから攻撃されたとなれば奴らも黙っていないだろうからな。
ブリジス達の連合軍に主力を回していると言っても余剰戦力だけで恐らくこちらよりも多い。
伊達に大国を名乗っては居ないからな。
「だから本格的に戦争が始まる前に何とかしたいんだけど、この翼がなぁ」
言う事を聞いて大人しく飛ばないなら燃やしちゃうぞ、なんて言っても意味無いし。
せめてセスナ機並みの速度が出せたら良いんだけど。
と思っていたらまさにその理想を体現したかのような速度で飛んでいる影が左後方に見えた。
「ちっ、もう見つかったか」
それ程高いところを飛んでいる訳でもないので俺の姿は地上から丸見えだ。
ここが誰の領地の上空かは知らないけど、空を見上げれば何か変なのが飛んでるんだから気になるだろう。
ただ幸いと言うべきか、こちらに飛んできているのは天使ではなさそうだ。
魔獣っぽいというか、あれはドラゴンか。
この世界のドラゴンの位置づけってどうなんだっけ。
不死の王国にはボーンドラゴンが居たし、龍王国は魔物の国のはずだけど、住んでいるのは龍人族と呼ばれる種族で、人化できる龍なのか龍化できる人なのかどっちか分からない。
それに大災厄の時のゴ〇ラ。あれもドラゴンの一種と考えても良いだろう。
という事は魔獣か魔物か。
いずれにしてもあの飛行速度を見ても間違いないけど、戦いたくはない相手だ。
でも完全にこちらをロックオンしているようだし、逃げ切るのは不可能だろう。
「やあやあやあ。そこのへんてこな翼を生やした人間よ。止まるが良い!」
お、どうやら言葉が通じるらしい。
というか普通の人間の声っぽいけど今どこから声が出てた?
兎に角、下手に逆らって敵と認識されても困る。
話し合いで解決するなら有難い限りだ。
俺は空中で止まってドラゴンの方を向くと、向こうもある程度の距離を空けて止まってくれた。
やはりかなり理性的な存在のようだ。
「こんばんは。すみません、もしかしてあなた方の国に無断で入ってしまっていましたか?」
「うむ。正しくは我が国の傘下の傘下くらいの国ではあるがの。
まあそれは良いのじゃ。
空は誰のものでもない。鳥が勝手に飛んでいても怒るものでもなかろう。
……あいつらの糞には辟易することもあるがな」
「あはは」
鳩の糞被害みたいなものか。
鳥にトイレマナーを教え込むのは無理そうだしなぁ。
「我は領空を変な鳥が危なっかしくフラフラと飛んでいると連絡があったのでな。
面白そうだから見に来たのじゃ。
それに最近は神だとか天使だとか名乗る者たちが増えて来ておる。
奴らは中々に好戦的らしいので、ただ飛ぶことにも難儀しているお主では見つかったら大変であろう」
「お心遣いありがとうございます」
どうやらこのドラゴン。
面白半分、俺の事を心配してきてくれたようだ。
と、そこで何故か目を細めてジッと俺を見るドラゴン。
何か気に障ることでもあっただろうか。
「お主、もしかしておじさまか?」
伯父様?……はて。
この世界に家族は勿論、血縁者も義兄弟も居ないんだけど。
それにドラゴンの知り合いと言ったら建国祭で会った数人しかいない。
ってまさか。
「もしかしてチックルちゃんか?」
「そうじゃ。こんなところで会うとは奇遇よの。
にしても、へんてこな翼に目が行って気付くのが遅れてしまったのじゃ。
まさかおじさまの翼がこんなへんてこだとは思わなくてのぉ」
へんてこを連発するチックルちゃん。
建国祭の時に見た龍の姿は1メートルほどだったけど、今では4、5メートルくらいまで成長している。
「チックルちゃんも随分大きくなったな」
「うむ。我もようやく成龍の仲間入りと言ったところなのじゃ。
それで?どこかへ向かっておるようじゃったがどこへ行くのじゃ?」
「この先にあるらしい神聖教国の首都までちょっとね」
「神聖教国?あぁ、あの身の程を弁えぬ馬鹿どもの国か。
なんじゃ、夜襲でもかけに行くのか?」
「まあそんなところかな」
「あはははっ」
俺の返事に笑い出すチックルちゃん。
人間の姿だったら膝を叩いたり転げまわったりしてそうなくらい楽しそうだ。
「いやぁ。流石おじさまじゃ。良いのぉ。
ならそうじゃ。我がそこまで送り届けてやろうぞ。
そのへんてこな翼では時間が掛かるじゃろう?」
「おぉ、それは有難いな」
まさに渡りに船といった感じだ。
俺はチックルちゃんの厚意に甘えて運んでもらう事にした。
「しっかり掴まっておるのじゃぞ」
「わかった」
チックルちゃんの背中に乗って肩に手を置いて身体を固定する。
足は翼の付け根のちょっと下。人間で言えば脇か腰の辺りを挟み込むようにする。
「くふふっ。ちょっとくすぐったいのじゃ」
身を捩って笑いながらもチックルちゃんは翼を羽ばたかせて一気に高度を上げると、そのまま南へと飛び始めた。
うーん、流石ドラゴン。さっきまでとは速度が雲泥の差だ。
むしろこれ、早く着き過ぎるんじゃないだろうか。
妹か娘かってくらいの歳の差の女の子の背中におんぶになる主人公です。




