96.反撃の準備
ルクセン領襲撃事件から1週間。
遂に待ちに待った報せが届けられた。
「陛下!潜入していた隠密隊から連絡がありました。
どうやら市民が連れ去られた先はここより5領地分南の場所のようです」
「みんなは無事なのか?」
「はい。どうやら奴ら、労働力を欲していたようで、連れ去られた者たちは肉体労働に従事させられているそうです」
「そうか」
どうやら最悪の事態は回避できたようだな。
でも変な話だな。
人間でいう所の村人。魔物でいう所のゴブリン。曰く労働力になる人材は国の規模が大きくなれば自然と増えるものだ。
どこからどうやってという説明は出来ないけど、この世界ではそういうものだ。
だから別段他所を襲撃して労働力を手に入れる必要は皆無と言っていい。
それなのにこうして周辺の領地を襲っているということは、神の国にはそういった労働力がないのか国の規模に不相応な何かを建造しているかのどちらかだ。
「ま、どっちにしろ俺達に喧嘩を売って来たんだ。早々に叩き潰そう。
ミークとチチカの進捗はどうだ?」
「今朝の段階で最終調整に入ったと伺っています。恐らく明朝には完成するかと」
「よし。では出立は明朝だと連絡を頼む」
「はっ」
伝令を送り出した後、俺はチチカ達の様子を見に行くことにした。
彼女達にはこの1週間、長距離転移門の調整をお願いしている。
なんでも流れ星の影響なのか、長距離転移門の仕様が変更になったらしい。
門の模様が変わったとか言われても俺にはさっぱり分からなかったけど、魔法に関して言えばチチカの右に出るものはこの国には居ない。
俺に出来るのは応援することくらいだ。
「どうだ。捗っているか?」
「はいにゃ。後はもう動作確認をして問題なければ完了にゃ」
「ま、私がやったんだから大丈夫よ。という訳ではい、入った入った」
「え、お、おう」
よく分からないけどチチカに背中を押されて長距離転移門の中に入った。
門の中は以前と同様に、自由広場の他プロステイン領など幾つかに繋がる出口があるだけだ。
あ、いや。
いつの間にか胸の高さくらいまである石の台座みたいなのが出来てるな。
側面は真っ黒だけど上面だけ複数の色が混じり合っている。
「チチカ、これは?」
「座標指定装置よ」
俺に続いて入って来たチチカに聞いてみればそんな答えが返って来た。
チチカはそのまま台座の上面の右上の方を指さした。
「ここを見て。縦長に緑色が付いてるでしょう?
ここが私達が今いるリュウジュ王国よ」
確かに。小さくそこだけ鮮やかな緑色になっている。
縦長なのはうちの国が縦に3領地分を有しているからだろう。あ、ルクセン領も領地自体は奪い返してある。
それとその緑を囲むように黄色く色づいているな。
他にも青くなっている場所や赤い場所などがある。
「この色には何か意味があるのか?」
「ええ。緑が自国領、黄色は中立、青は同盟国、私達で言えば天上王国やあまり認めたくは無いけど不死の王国も多分青く表示されているわ」
盤面の1/5程が青く塗られている。
なるほど、流石大国と言ったところか。
「じゃあ赤は?話の流れから言って敵国って感じか?」
「ご明察。神聖教国の領土よ」
「へぇ。意外と広いんだな」
先日の大災厄でかなり被害が出ていたはずだし、元々勇者王国と一緒に魔王国と戦ってたくらいだから、魔王国の半分くらいの国力だと思っていた。
しかし実際には青く塗られている部分とそれほど変わらない。
つまり大国2つ分くらいの領土を持っていることになる。
他の大国がどれくらいずつかは分からないけど、恐らくこの世界で一番の大国じゃないだろうか。
あ、もしかして。
「勇者王国の跡地を吸収したのか」
「そうみたいね」
「でも勇者王国を滅ぼしたのはブリジス王国とパスティン王国じゃなかったっけ?」
「滅ぼすだけで統治はしなかったみたいよ。大災厄で相当荒れ果ててたみたいだし」
そうかそれで。
国の領土は一気に倍に膨れ上がったけど、中身はボロボロスカスカな状態で、だから他所から人手をかき集める必要があったんだ。
そこに更に先日の流れ星から神と天使たちの登場。
神が世界統一を掲げ、それに付き従う形で神聖教国が活動を活発化させた。
減った軍事力は天使たちという名の航空戦力で補って、機動力に物を言わせて広い国土を維持しているんだろう。
俺はじっと赤く塗りつぶされた範囲を眺めた。
リュウジュ王国から少し南に下った場所も赤く塗られている。
先ほどの報告と併せて考えて、恐らくこの辺りがルクセン領の人たちが連れて行かれた場所だ。
赤色全体から見れば北の端って感じだし、敵が戦力を集中させているとは考えにくい。
恐らく全戦力で攻め込めば落とせるだろう。
だけどそれをすれば本格的に神聖教国と戦争状態に突入する。
今は良くても長期的に攻められたら先に潰れるのはこちらだ。
なら国力が分散している今のうちに電撃戦を仕掛けるべきかもしれない。
「ミーク。神聖教国の首都がどこか分かったりしないか?」
「あいつらはいつも参拝に来いって喧伝してるから有名にゃ。
ガッテム山の麓だからこれが世界地図ならこの辺りにゃ」
赤く塗りつぶされた領域の右端。真ん中じゃないんだな。
宗教的な聖域とかって確かに秘境というか普段人が寄り付かない場所にあったりするからな。
ここに神聖教のご本尊の何かがあるかは分からないけど。
「この近くに長距離転移門で移動することは可能だろうか」
「それは流石に無理にゃ」
当然か。そんな虫の良い話は無いよな。
「長距離転移門で移動できるのはこの国の人間が言ったことのある場所で、なおかつ小さくても良いけど村とかが必要にゃ」
まぁそういう制約は当然付いてるよな。
じゃないと今日にでもどこかの国が王都に直接乗り込んでこれることになる。
「だから先日ルクセン領の人たちが連れ去られた場所の近くには行けるにゃ」
「……ん?」
「向こうから連絡をくれた隠密隊の人が多分秘密基地か何かを作ったみたいだからそこには行けるにゃ」
なるほどなるほど。
その程度で十分なのか。
ならどうにかなるかもしれないな。




