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95.隠密隊レポート

〇月×日


その日の俺はルクセン領の領都の南側で哨戒活動に従事していた。

俺は隠密隊の中でもまだまだ新人で実力も大した事は無い。

ハトリ隊長と戦えば1合と打ち合う事は出来ないだろうし、1分逃げられるかも怪しい。

いや恐らく逃げようと思った時には既に捕縛されているだろう。

その程度の腕前だ。

ただそれでもかくれんぼなんかは得意だったので隠密隊へ編入された。

なので主な任務も危険度の低い領都の近郊を担当することが多い。

と言っても昨日何もなかった所に突然敵対勢力の村が出来ている可能性はあるし、先日の大災厄の影響で野生の魔獣の危険度も1段階上がっている。

油断はできない。

と、その時。一瞬太陽が陰った。

俺は急ぎ身を隠す。

こういう時に呑気に空を見上げて影の正体を探すのは命取りだ。

その一瞬があればハトリ隊長なら俺を殺せる。

身を隠し、気配を殺したうえでようやく俺は影の正体を確かめた。


(いったいなんだ?鳥?いや違うな)


視線の先に居たのは翼を生やした人間だった。

一瞬獣人族の鳥版かと考えたけど、あんな白い羽は見たことが無い。

そういえば陛下がスキルで白と黒の翼を生み出せるそうだけど、それを両方真っ白にしたらあんな感じかもしれない。


(って、そんなこと考えている場合じゃないだろ)


鳥人間たちは南の空から北へと向かって飛んでいる。

それが1体や2体ではなくさっきからひっきりなしに飛んでいるので数百かもしかしたら千を超えるかもしれない。

この先にあるのはルクセン領の領都だ。

奴らの目標が領都だとして目的は何かと考えれば1つしかない。

友好的な使者なら大挙してくるはずがない。これはどう見ても侵略行為だ。

ただ。今の俺に出来ることはほとんど無い。

なにせ俺よりも空を飛んでいる奴らの方が移動速度が速いので先回りして領都に危険を知らせることは出来ない。

かと言ってここで大声を上げたところで奴らの足止めにすらならないだろう。

個々の強さは分からないが、多少弱く見積もってもあれが10体も襲ってきたら俺に勝ち目は無い。

ならどうするか。

俺の仕事を全うしよう。俺は隠密隊だ。

幸い俺の存在はまだ奴らには気付かれていない。

ならこのまま隠れて奴らの監視を続けよう。

奴らがどこから来たのか。なぜルクセン領に来たのか。大将は誰で戦力はどれくらいか。

そう言った事を確認し報告を上げる。それが俺の仕事だ。


ただ残念なことに領都の守備隊は鳥人間達の急襲に対応できずに奴らの侵入を許してしまった。

ルクセン領はサカガミ領とは違って市民一人一人が騎兵並みに戦える、なんてことはない。

大半は生産活動のみに従事しているので普通のオーク程度には勝てるかもしれないが、オーガと戦うのは厳しい。

そして鳥人間達はその飛行能力を活かして一気に領主館を襲撃し占拠すると同時に街全体を占領してしまった。

奴らは大人も子供も関係なく捕縛していった。

乱暴に扱ってはいるがいますぐ殺さないということはどこかに連れて行く気なのか?

やっぱりそうだった。

真っ先に領主館を占拠したのはどうやら長距離転移門を奪取する目的もあったらしい。

奴らは門を調整して、恐らく自分たちの国に繋げたのだろう。

門を開き捕虜となった市民をその中へ送り込んでいった。


(……まずいな)


遠くから監視しているだけでは門の先までは分からない。

ここは危険を冒してでも潜入してみるべきか。

俺はここまでの情報を書き留め、隠密隊にだけ伝わる目印と共にその場に残すと、奴らの隙を突いて捕虜の列へと紛れ込んだ。

そうして辿り着いた門の先は最低限度の小屋が建つだけの荒れた荒野だった。


「良く来たな愚民どもよ。

貴様らにはこれから神の都の建築に従事させてやる。

せいぜい感謝し、死ぬまで働くが良い。がっはっはっ」


1段高い場所からそう言って来たのは法衣を身に纏った男性だった。

あれは確か神聖教国の正装じゃなかったか?

ということはここは神聖教国のどこかということか。

だけど神聖教国に鳥人間が居るなんて話は聞いたことが無い。

兎にも角にもその日から連れて来られた人たちは強制労働させられることになった。

周りを見ればうちの国以外から連れて来られた者も大勢いる様だ。


(なんとか抜け出して調査が必要だな)


幸い彼らの監視の目はザルだった。

多少隠密の心得があれば隙を突いて抜け出すのはそう大変でもない。

他の一緒に連れて来られた人たちが協力してくれたお陰でもあるけど。

そして少なくとも労働力として連れてこられたという事はここが完成するまでは殺されることは無いはずだ。

済まないが少しだけ辛抱してほしい。

俺は陛下たちが1日でも早く救援に駆けつけて来てくれるように努力しよう。

その為にまずやる事は身の安全の確保。

奴らに見つからない場所に拠点を作ってから本格的な活動開始だ。

大切なのは現在地の確認。

長距離転移門で移動したからサカガミ領からかなり離れている危険性もある。


(えっと、目印になる星は……あった)


俺は隊長から教えてもらった(隊長も陛下に教えてもらったらしい)天体観測からある程度の現在位置を割り出す方法を試すことにした。

有難いことに転移門を抜ける前と後で太陽の位置はほどんど動いていなかった。なので東西に大幅に移動しているという事は無さそうだ。

元々鳥人間達は南の空から飛んできたし、間違いは無いだろう。

そして南北については重しの付いた紐を指に結んでその指で夜空で時間が経っても動かない星を指す。

確かポールスターとか呼ぶんだっけ。

その時の指の角度からどれくらいの距離を移動したのかが分かるらしい。

言われてサカガミ領とルクセン領で試してみたら確かに若干ではあったけど角度に違いがあって驚いた。

ただ本当に微妙な差ではあるんだけど。


(これは……うーん、2領地、いや3領地分かな。6は無いだろう)


若干ではあるけどサカガミ領とルクセン領で比べた時よりも違いが大きいように感じた。

でもそれだけ分かれば十分だ。

俺は早朝に長距離情報伝達手段の一つ、伝書ポッポを取り出し5領地分北の地に向けて飛ばした。

鳥人間達は朝起きるのが遅いみたいだから気付かれることはないだろう。

そしてこの伝書ポッポが飛んでいるのを見れば隠密隊の誰かは気付いてくれるはずだ。

無事に連絡が取れれば明日の夜には返事が来るはず。

俺はそれまでの間に出来るだけ多くの情報を手に入れる為に再び潜入を試みることにした。



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