93.生まれて飛び出て
慌てて集まった俺達の目の前で流れ星の卵にヒビが入っていく。
ちなみにこの場にはイメーコは居ない。
あいつには何かがあった時の為に城の方で待機してもらっている。
もしかしたら他の流れ星も同時期に孵化してる可能性もあるから、そうなったら各地の報告が一気に集まってくる。
俺の脳裏にはイメーコが愚痴をこぼしながらそれを処理している姿が浮かんでくるけど、まぁ頑張ってもらおう。
と、いよいよ孵るみたいだな。
「出来る事なら友好的な雛鳥みたいなのだったら良いんだけどな」
「そうね。でもこのサイズの卵から孵る雛鳥って相当な大きさよね」
「いざとなったら焼き鳥にしてしまいましょう」
チチカがぼっと手のひらの上に火球を作りながら笑う。
相変わらず食べたいみたいだな。
今度料理番の人達にチチカの食事に付いて相談してみよう。
そして遂に流れ星の全体にヒビが広がり。
バキバキバキッ、カッ!!
「うわっ」
「まぶしっ」
割れると同時に眩い光が放たれた。
咄嗟に手で光を遮りつつ、何が起きても良いように魔法障壁を全開にしておく。
そんな俺達に厳かな声が届いた。
『跪け愚民どもよ。我は神である』
「……はえ?」
突然の言葉に思わず変な声が出た。
眩んだ目を擦りながら改めて生まれてきた存在を見れば、ああ、なるほど。
確かに神と言われて納得できなくもない姿の何かが居た。
ただ神は神でも3面6臂の曰く阿修羅みたいな感じだ。しかも。
「なあ、その姿で神だっていうなら司っているものがあったりするのかな?」
『ふん、これだから愚民は。見れば分かるだろう。
我はお前達人間の神に決まって、おや?そっちにいるのは魔物か?それに通常慣れ合わないタイプの魔獣まで。
こ、これはいったいどういうことなんだ!?』
うーむ。いたく混乱しているようだ。
そもそもこの神、3つある顔のうち、正面のは確かに人間っぽいんだけど、左側は鬼つまり魔物っぽい。さらに右側の顔は熊だ。
どうやら何かの手違いで人間と魔物と魔獣が混じって今の姿になったと思われる。
「ここは色んな種族が共存する国だから」
『そんな馬鹿なことがあるか。
人間と魔物は敵対する。魔獣はそのタイプごとに味方にも敵にもなる中立の立場のはずだ』
馬鹿なと言われても事実だし仕方ない。
「それで、間違って来てしまったらしいけど、素直に還るならこちらも何もせずに見送るけどどうする?」
『そんなこと出来る訳ないだろ』
そうなのか。
神のくせに意外と出来ないこと多そうだな。
『だが我が来たからにはこの国をより良い方向へと導いてやろう』
「あ、いや。そういうの要らないんで」
『なんだと!?
我が居れば家内安全、商売繫盛、国家繁栄間違いなし!
そこの女だって我の寵愛を受ければ夢のような未来がまっているのだぞ』
なんだかインチキ商売みたいなセリフが出てきた。
それと指差されたミツキから負のエネルギーがビシビシ伝わってくる。
「お兄さん。神って生贄にしたらすっごい効果ありそうじゃない?」
「まぁ捕まえた天使を人柱にして力を奪うって話はちょいちょい聞くよな」
「そうね。あれは流石に焼いて食べても美味しく無さそうだし」
ヨサク達の顔を見ても反対意見は無し、と。
よし。じゃああれに関してはサクッと潰して無かったことにしようかな。
『ま、待て早まるな』
武器に手を掛け始めた俺達を見て慌てる神。やっぱ威厳とかはないな。
『それに我は神だぞ。
生まれながらに至高の存在。お前たち如きが我に勝てると思っているのか』
「……なるほど」
確かにいかに見た目と態度以外に神っぽい要素が無いとは言え、神だと名乗るんだ。
こう見えて実力はあるのか?
「試してみようか」
『へっ?』
地上に落ちた流れ星はこれ1つじゃない。
仮にそれら全部から今目の前に居るのと同程度の存在が出てくるのだとしたら、今のうちにどれくらい強いのか確認しておいた方が良いだろう。
もしかしたら本当に神の力があって手も足も出ないかもしれないけど、その時はその時だ。
こいつは既に目の前に居るし、見た感じ友好的な存在という訳でもない。遅かれ早かれ衝突は避けられないと思う。
なら上手くしたら孵りたてで本調子じゃない今戦うべきだ。
「みんな。最大限警戒しつつ攻撃を仕掛けるぞ。決して油断はするな」
「「はいっ!」」
『ちょっ、まっ』
なんか全然強そうじゃないけど、もしかしたら演技って可能性も捨てずに俺達は全力で攻撃を開始した。
と言っても、殺さない程度にボコボコにするだけだけど。
というか、あれ?
俺達に2回くらい殴られて地面に倒れてしまったぞ。
「なんか本当に簡単にボコボコに出来ちゃったんだけど」
『だ、だから。待てと言っただろうが』
返事が出来るくらいには生きてるけど、碌な抵抗もされずに終わってしまった。
殴った感じで言えば部隊長クラスくらいの力はありそうな気もするけど、逆に言えばその程度。
ちょうどこの世界に来たばかりの俺なら勝てないかなってくらいの強さだ。
つまり村長から領主になる手前くらい。
今までも時々500人規模の村とかが突然発生することがあったけど、それと似たような感じだ。
ん?あぁそうか。
「神には村人というか、部下はいないの?天使とかさ」
俺がそう聞くと神は倒れたままそっぽを向いた。
『貴様らが勝手に我を領域内に引き入れたのだろうが。
本当ならここには神殿が出来、我と共に使徒が出てくる予定だったのだ』
なるほど。他人の家の庭を勝手に占拠することは出来なかったのか。
有難いような情けないような、まぁこっちに害が無いからいっか。
「それで、これからどうする?
選択肢としてはサクッと首を切り落として昇天するか、ヨサク達同様にうちの住民として生活するかなんだけど。
あ、もちろん神とか関係なく能力相応の扱いになるから」
普通の人なら死んだらそれで終わりなんだけど、神なら天に帰るだけで何ともないのかもしれない。
そう思って聞いてみたんだけど、話の途中で顔を青くしていたので神でも死は死らしい。
『ふんっ。仕方ない。しばらくの間は貴様の元で逗留してやるとしよう』
偉そうに言ってるんだけど地面に這いつくばったままだと威厳も何もないな。
でもなぁ。
こいつが近くに居ると疲れそうだよな。
よし。こういう時はイメーコに押し付けよう。
と決めたところで丁度良くイメーコがやってきた。
「いつもながらナイスタイミングだ。イメーコ」
「……なんかものすごぉく悪いタイミングで来た気がします」
「まぁまぁそう言わずに。お前の新しい部下だ。
名前は……『カミッチ』でいいや。
存分にこき使ってやってくれ」
『なっ!?』
なんか神改めカミッチがさっきより絶望的な顔をしているけど名乗らないお前が悪い。
精々頑張って働いてくれ。
「それで、イメーコは何かあって来たのか?」
「はい。良い知らせが1つと悪い知らせが2つあります」
「良い方から聞こうか」
「はい。では、国内の各地に落ちてきた例の流れ星を確認しに行ったハトリからの報告です。
流れ星の落下地点にて背中に羽の生えた軍団を発見。
コンタクトを試みたところ、良好な関係を構築出来そうにないと判断し殲滅したそうです」
「そうか。ハトリ達に被害は?」
「多少負傷者が出ただけで済んだそうです」
「それは良かった」
恐らくカミッチが言ってた使徒を引き連れていたパターンだな。
でもやっぱりそれでもハトリ達の隠密隊で十分殲滅出来る規模だったか。
まぁハトリも敵対されても大丈夫だと考えて姿を見せたのだろうからな。
「で、悪い報告は?」
「神聖教国が全世界に対し宣戦布告をしました。
また、それと時を同じくしてルクセン領が謎の軍団に襲撃され占領されました」
「それは一大事だな」
神聖教国はどうでも良いとして、ルクセン領が襲われたのは見過ごせない。
早急に対処しなければ。




