87.そうしてボス戦は……
怪獣との戦闘開始から1時間が経過していた。
ここまでは空を飛んで怪獣の意識を向けつつ、ちょいちょい攻撃を仕掛けていた訳だけど、作戦を変えないといけないかもしれないな。
それというのも想定外の怪獣の眷属達の登場にヨサク達が攻めあぐねてしまっている。
怪獣の尻尾を切断するにはそれなりに溜めが必要だろうし、油断していた最初の一撃で達成できなかったのは痛かったな。
そしてブレス攻撃を阻止するために背ビレを狙っていたミツキも先ほど大きめの雷を受けて地上に落ちたところだ。
「チチカ。俺も攻めに転じる。援護を頼む」
「ええ。あ、ちょっと待って。どうやらミツキがやる気みたいよ」
「ん?おぉ」
チチカの指す方を見れば、ミツキが飛び跳ねるように怪獣の背ビレを駆けあがっていくのがちらちら見えた。
あの勢いならものの数分で頂上に辿り着けるだろう。
「ならこっちは援護の為にももうちょっと前かがみになってもらおうか」
俺は収納から取り出した鉄球付きの鎖を振り回して怪獣の頭に叩き込んだ。
とは言っても単純に当てただけじゃあ、大したダメージにもならないか。
ただそれで気を引いたところでそれとなく斜め下方に後退してやれば、奴は俺を追いかけて前かがみになる。
これで少しはミツキも登りやすくなるだろう。
と言ってる間に無事に到着したみたいだ。
ミツキには俺とチチカが協力して開発した成形炸薬効果を発揮する魔道具を持たせたから上手くやってくれるだろう。
ドドーンっ
「おおぉ」
激しい爆発と共に背ビレが1枚吹き飛んだ。
どうやら見事ミツキがやってくれたみたいだな。
そのお陰で地上にいた奴の眷属達も姿を消していく。
ただ、あれ?
あの魔道具、煙の類は一切出ないはずなんだけど……って違うな。
あれ煙じゃなくて穢れの塊だ。あまりに濃すぎるせいで煙のように見えているだけだ。
それがまるで掃除機に吸い込まれるようにミツキへと集まっていく。
あれはまずい。
「逃げろミツキ!!」
「GAUU」
「ちっ、邪魔をするな!」
慌てて駆けつけようとした俺を怪獣が邪魔してきた。
その間もどんどん穢れがミツキに吸い込まれていく。
こいつをさっさと倒さないと。
「ヨサク、マスオ。そっちは行けるか!?」
「もちろんです!」
「次で決めるだよ!!」
眷属が居なくなったことで自由になったふたりが再び尻尾へ迫る。
先に飛び掛かったのはマスオだ。
手に持ったウォーハンマーを高く掲げて飛び上がり、一気に振り下ろした。
「『粉骨撃』」
その一撃が尻尾の骨をバキバキに打ち砕いた。
すぐさま飛びのくマスオ。
そこへ静かに剣を構えたヨサクが踏み込む。
「この怪獣に余計な属性など要らなかったんだ。
大切なのは純粋な切断力のみ。
故に、『切る』ッ!!」
それはスキルだったのか。
遠くから見た姿はただ剣を振りぬいたようにしか見えなかった。
だがしかし、それは確かな威力を持って見事怪獣の尻尾を両断してみせた。
「GYOAAAッ」
悲痛な叫び声と共にバランスを崩して前へと倒れ込む怪獣。
よし、これで後は頭を潰せば終わりだ。
「リュウジュ、避けて!」
「え、なっ!?」
武器を構え急降下して落下エネルギーを加えた一撃で一気に決めようとした俺を追い越して、真っ黒い雷が怪獣の頭に落ちて行った。
慌てて地上に降りてみれば、怪獣の首から上が跡形もなく消え去っていた。
怪獣自身も雷を操ったりブレスを放っていたのだから相当に耐性も高かったはずなのに、そんなのお構いなしに完全にオーバーキルだ。
そして頭があった位置に佇む少女がひとり。
「ミツキ?」
「……」
ミツキは俺の声に反応することなく、サッと左手を横に振るうと怪獣の胴体部分が尻尾を残して黒い煙に変わってミツキの中へと吸収されていってしまった。
それがなにを意味していたのか。それは俺に向ける殺気の篭ったミツキの視線が物語っていた。
「フッ」
「ぐうっ」
短い呼気と共に突撃してきたミツキを間一髪避けた。
あ、いや。よけきれてない。左腕が切り裂かれたか。
「「陛下!」」
「来るなっ!」
慌てて駆けつけようとしたヨサク達を止める。
ヨサク達では今の一撃を避けることが出来ないし、防ぐのもギリギリだろう。
ミツキは穢れに取り込まれて理性を失っているようだし、穢れに取り込まれた先輩として俺が面倒を見てあげよう。
「ミツキは俺が何とかする。
みんなは残りの後始末を頼む」
それだけ伝えた俺はこちらに振り向くミツキを視界に収めつつ、北へと駆け出す。
まずはもっと王都から引き離さないと。
さっきの一撃も一瞬で100メートルを突き抜けてたし周りを気にしなくていい距離まで移動する。
「ハッ」
「よっ」
幸いミツキは木をなぎ倒して突っ込んでくることは無いようだ。
器用に木々の隙間が直線上に繋がった時だけ突撃してくる。
それさえ分かってしまえば避けるのは難しくない。
こちらから誘うように動けば思考が回っていない今のミツキは面白いくらいに釣れてくれる。
「ガァッ」
バキバキッ
ただ、避けた先の木も岩も悉く粉砕していくので自滅を誘うのは無理なようだ。
もっとも最初から死なせる気も大怪我を負わせる気も無いんだけど。
都合17回ほど避けたところでミツキの様子に変化が起きた。
突撃の速度は衰えてないけど、その後に態勢を崩すようになった。
「ようやく穢れを消化出来てきたか……いや、ちがうなこれ」
てっきり吸収した穢れを体内で浄化して純粋な力として取り込めてきたから穢れによる暴走が終わりかけてるのかと思ったけど違うようだ。
「そう言えば」
ミツキのスキルは物凄く燃費が悪くてスタミナを消費するんだっけ。
通常なら連続で5回も使えば10キロくらい走って来たように疲労困憊していた。
それが今は17回。怪獣との戦いでも背ビレの破壊にスキルを使っていただろうからそれ以上を短い時間で使い続けている。
今は穢れの影響で動けているけど、肉体は限界だろう。
自力で穢れを浄化するか発散するのを避けながら待とうと思ってたけどダメらしい。
仕方ない。次で止めるか。
俺は回避の為に動き続けていた足を止めてミツキに向けて手を広げた。
「さあ来い」
「ウワァーーッ」
グサッ
ミツキの剣尖が俺の脇を貫く。
俺は血が噴き出すのも気にせずに飛び込んできたミツキを腕ごと抱き締めて受け止めた。
「つか、まえた、ぞ。っと」
突撃の運動エネルギーを流しつつ身体を捩って地面に倒れ込めば、まるでミツキを組み伏せたような態勢で馬乗りに抑え込むことに成功した。
「ア、アァっ、ヤアァ!!」
「ほら暴れるな。大人しくしろ」
暴れるミツキの両足に自分の足を絡めて両手も地面に押さえつけた。
いくら穢れで暴走しているとはいえ、疲労困憊の女性を馬乗りの態勢で抑え込むのは難しくは無い。
ただ。これよく考えると絵面がヤバい?
誰も居ない森の中で抵抗する女の子を無理矢理組み伏せてるって。
現代日本なら即刻通報されてもおかしくないな。
まぁ幸いヨサク達は王都の方に居てここには誰も居ないから大丈夫だけど。
「……バウ?」
「あれゼフ。何でいるんだ?」
「バウッ、バウ」
「穢れの抜けた厄獣を解散させてきた帰り、か」
「バウ」
「て、ちょっ」
ごゆっくりどうぞじゃないから。
ゼフは何も問題は無かったという感じで立ち去って行った。
いや確かに狼の魔獣であるゼフからしたら外で繫殖行為を行うのは普通だろうし、戦いで血が騒いだ後は余計そういう衝動に駆られるって聞いたことあるし、犬の繁殖行為って見た目アレだって話もあるけど。
違うんだってば。聞いて!!
なぜか話が変な方向に行ってしまってボスの存在感が可哀そうなことに…。




