86.雷と競う少女
一方、ミツキはというと、絶賛山登り中であった。
「山登りというよりロッククライミングよね、これ」
愚痴りながらもせっせと岩肌、もとい怪獣のゴツゴツした体に手を掛けて頂上を目指していた。
「これ剣とか鈎爪とか使えたらもっと楽なんだろうけど、それするときっと攻撃になって見つかるのよね。
そうしたら折角お兄さんが囮をやってくれてるのが無駄になっちゃうし」
視界の端ではリュウジュがふらふらと風に舞う木の葉のように飛びながら怪獣の攻撃を避けていた。
最初に1度叩き落されていたし、ちらちら見ていたら何度も危ない場面があった。
「確かお兄さんの飛行スキルって片翼しかない欠陥品だって話だし、長時間安定して飛ぶのは無理なのよね?
あ、でも今は白と黒の翼があるから安定して、無いみたいね」
先日黒い翼が追加されたリュウジュの翼は左右非対称で見るからに不安定そうだ。
特に左の黒い翼は白い翼の倍近いサイズがある。あれじゃあどう頑張っても綺麗には飛べないだろう。
今も出来の悪い紙飛行機のように斜め下に回転したり急上昇したりと見ていてハラハラする。
また下を見ればヨサク達が大量に出現した雷で出来た眷属たちと激闘を繰り広げている。
さっきヨサクから凄い光が放たれていたけど、それも連発は出来ないのかあの1回しか見ていない。
眷属との戦いは今のところヨサク達のほうが優勢ではあるようだけど、眷属達は何度でも召喚されるらしくこのままではスタミナ切れで倒されてしまうかもしれない。
つまり勝負の鍵は怪獣の雷を止められるかどうかに掛かっているということだ。
「あたしの責任重大ってことね。
って、それは良いんだけど、さっきから何度も電気がビリビリ痛いのよ!」
ミツキが居るのは怪獣の脇腹よりも背中寄り。
なのでさっきから怪獣の背ビレに電気が走る度にミツキにも余波が飛んできていた。
魔力障壁を展開しているとはいえ痛いものは痛い。
パリパリパリッ
「いたたたっ。もう、パンチパーマになったらどうするのよ。
絶対に皆に笑われるじゃない!」
そんなどうでもいいボヤキを入れつつ頂上、もとい首の後ろ辺りを目指してせっせと登る。
だけどやっぱり慣れてない岩登りはなかなか進まない。
「うぅ~やっぱりこのままじゃ駄目ね!」
思いきりの良いミツキはさっと両手に鈎爪を装着するとガンガンと叩きつける勢いで怪獣の肌に引っ掛けて登り始めた。
お陰で登る速度はさっきまでの倍だ。
「あはははっ。やっぱ最初からこうすべきだったのね!
って、ちょっ」
得意満面に笑うミツキに真上から特大の雷が降って来た。
バチッ!!
「きゃ~~~っ」
余りの衝撃に吹き飛ばされるミツキ。
そしてそうなれば当然待っているのは地面への落下だ。
地上30メートルからの落下は普通に考えれば即死だ。
その点、ミツキは元領主で通常の将軍よりも更に1ランク能力が高い。
柔軟性に富んだ獣人族なのも相まって叫びながらも態勢を整えてクルクルと回転しながら見事地面に着地した。
「はっ!10.0!!」
ビシッと両手を上げてポーズするも観客はゼロだ。
それよりもまたここを登るのかと山のような怪獣の背中を見上げるのだった。
「う~ん。またこれを1から登るの?無理じゃない?」
そうぼやくも諦めるという選択肢は無い。
ならどうしようかとじっと怪獣の背中をみていて閃いた。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず?ちょっと違うか。
……うん。『雷より早く』これだわ!
ということで、たあっ!!」
気合を入れた掛け声と共にミツキは怪獣の背中に生えるギザギザの背ビレの上を駆け上がった。
そこは先ほどから何度も雷が走り抜けていく危険地帯だ。
走るミツキは残念ながら何度も雷に追い抜かれていく。その度にハンマーで叩かれたような衝撃が全身を襲うけど、何とか歯を食いしばって耐え抜いた。
「来ると分かっていれば耐えられなくは、ない!
でもやっぱり痛いものは痛いのよ。いい加減にしなさい!!」
誰も聞いてないけど叫ばずにはいられない。
ただその甲斐あって岩登りしていた時とは比べ物にならない速度で頂上へと辿り着いたのだった。
「さて、後はこの背ビレを破壊すればミッションコンプリートね」
ミツキは改めて破壊目標の背ビレを見た。
太いところで厚み2メートル以上の岩の塊。
対してミツキの武器はレイピアとまでは行かないまでも突きを主体とした細剣だ。
スキル込みで考えたとしても余りにも心許ない。
「まあそんなこともあろうかと、チチカから秘密兵器を貰って来てるのよ」
そう言いながら取り出したのは筒状の爆発魔道具。
親切にも説明書きまで付いている。
「えっとなになに。
『魔道具がしっかり刺さるくらいの穴を掘り、そこに魔道具をセットして安全装置を解除した後、背面に強力な衝撃(魔法)を当てると大爆発を起こすわ。
爆発は指向性を持たせているから背面側にはほとんど爆風が行かないから安心して。
あ、前後間違って使用すると死ぬから気を付けるのよ』か。
穴を開けるだけなら私の得意分野ね!
せいっ。やあっ。もういっちょ!」
得意の突きスキルで硬い背ビレに直径20センチほどの穴を3カ所空けてから魔道具をセット。
安全装置というかシール?を外して起爆を、と思ったところでちょっと思い留まってしまうミツキ。
(これ、本当に安全なのよね?)
チチカのことを信頼していない訳じゃないけど万が一という事はある。
あとおっちょこちょいな自分が逆向きにセットしてしまった可能性も無いとは思うけど安心は出来ない。
かと言って逃げ場はないのだけど。
「うぅ。ええい、女は度胸よって、ちょっ!」
ミツキの覚悟も虚しくもう何度目かも忘れた雷が背ビレを伝って登って来た。
その衝撃で勝手に魔道具が起動してしまった。
ドドーンっ
「GYAAAAッ」
流石の衝撃と痛みに怪獣が叫ぶ。
魔道具は見事、背ビレを1枚完全に破壊していた。
そしてミツキはというと、
「げほっ、げほっ。
爆発は、確かに大丈夫だけど、煙が酷いわね。
これはチチカにキチンと苦情を言っておかないと」
そう言いつつも、無事に依頼を完遂出来てほっと一息ついていた。
だがそんなミツキをあざ笑うように背ビレに再び雷が走り抜けてきた。
雷はミツキが破壊した場所まで来て、そして止まった。
「ふぅ。焦らせないでよ」
ミツキは安堵と共に持っていた剣を魔道具で抉れた怪獣の背中に突き立てた。
プシュッ
「え?」
突然噴き出してくる煙がミツキを包み込む。
それは本来雷となって放出される筈だったエネルギーの不完全燃焼であり、エネルギーの素であった穢れであった。
「ぐっ。これ。これが、お兄さんが受け続けていた穢れなの!?」
ミツキの全身を電撃よりも激しい怒りと憎悪が痛みとなって駆け巡る。
これに比べたら先ほどまでの雷のなんと生ぬるかったことか。
抵抗など無意味だと言うようにミツキの意識は完全に穢れの闇に飲み込まれていった。




