85.地上を走る漢たち
リュウジュが上空に飛び上がり、チチカと一緒に怪獣の顔めがけて攻撃を開始すると同時に、ヨサクとマスオは地上を駆け抜けていた。
「よし。怪獣の意識が陛下たちに向かっている間に一気に近づくぞ」
「おら達が早くあれの尻尾を切り落とせば、それだけ陛下たちの危険が減る。
気合を入れて行くだよ!」
お互いに鼓舞し合うふたりだったが、流石にそう簡単に事は運ばないらしい。
リュウジュ達の魔法に対抗して怪獣から無差別に雷撃系の魔法がばら撒かれる。
それに対しヨサクは武器に魔法を付与して弾き返し、マスオは身体強化魔法で強引に耐え抜いた。
おかげでふたりとも大したダメージは受けずに済んだが、足が止まってしまった。
更に雷撃は落ちて終わりではなかった。
「「GRURURUッ」」
「どうなってんだこれは」
「まるで生き物のようだべ」
「さしずめ配下か眷属ってところか」
地上に落ちた雷撃は獣のような姿になり唸り声をあげた。
1体1体はそれほど大きくは無い。厄獣の第1陣と同じくらいだろう。
問題は数だ。
ざっと数百体は居る。
一騎当千のふたりとは言え、この数を相手にするのは時間がかかる。
それに出現方法を考えればおかわりがないと考えるのは楽観が過ぎるだろう。
ふたりはサッと顔を見合わせた。
「ここはおらが……」
「総員、一斉射!」
そうマスオが言いかけたところで横合いから矢の雨が敵に降り注いだ。
慌てて振り返ってみればイメーコが部隊を引き連れてやってきていた。
「まったく。おふたりももう将軍なのですから、自分だけで突っ込むのではなく、仲間を活用することも覚えてください」
イメーコはそうボヤキながらもサッと手信号で味方に指示を飛ばしていく。
「助かったぞ。イメーコ」
「雑魚は任せただよ」
礼を言って突撃を再開しようとする二人にイメーコはため息をこぼす。
「おふたりとも私の話聞いてました?」
「ああ、聞いた。適材適所だ。今回はうちの部隊の者たちもイメーコに預ける。
存分にこき使ってやってくれ。
ただあの怪獣の射程に入らないように注意してくれよ。残念だが護る余裕はなさそうだからな」
「おらの部隊も預けるだ。
あのデカいのは数で攻めてもダメだろうさ。
少数精鋭。おら達だけで行く方が確実で被害も最小限に抑えられるべ」
「いやまぁ、言ってることは一理ありますけどねぇ」
そうなのだ。
イメーコの目から見ても、あの怪獣に有効打を与えられるのは将軍級か良くて部隊長クラス。
それ以下の人たちでは傷一つ付けられないだろう。
それならそっちはヨサク達に任せて自分が部隊を率いて露払いをするというのは決して間違いではない。
というか、そんなことをゆっくり考えている間にもうふたりは走り出してしまっていた。
「一応ちゃんと考えてくれているみたいだからまだ猪武者とは呼ばないのでしょうか。
いやでも、後の面倒を見させられるこっちとしては苦労が絶えないんですけどねぇ」
はぁやれやれとため息をつきながらもイメーコは次々に指示を出して敵を怪獣から引き離し、次々と敵を撃破していくのだった。
そしてイメーコと別れたヨサクとマスオは無事に怪獣の足元へと辿り着いた。
「近くで見るとまるで壁だな」
「なら殴り壊すだけだ」
「違いない。行くぞ」
「おおっ」
怪獣の裏に回ったふたりはそれぞれの獲物で攻撃を仕掛ける。
しかしリュウジュと同様に普通に切りつけただけではかすり傷程度しかつかないのだった。
そして弱くても攻撃されれば怪獣もふたりに気が付く。
ふたりから見て一瞬離れるように動く尻尾。
それは逃げているのではなく、振りかぶる動作だ。
「来るぞ。避けろ」
「いや、任せるだ!」
回避を選択するヨサクに対してマスオは武器を振り上げた。
バキバキと周囲の木を薙ぎ払いながら迫る尻尾。
間近に迫るそれを見てなお、マスオの顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。
「全力全開。一点集中!」
全身から立ち上る湯気。
近くで見たヨサクは、マスオの全身が熱せられた鋼のように燃え上がっているように錯覚した。
そしてその熱がピークに達した瞬間。
「喝ッ!!」
裂帛の気合と共にマスオの武器が振り下ろされ怪獣の尻尾へと叩きつけられた。
瞬間。
てっきり鉄同士をぶつけ合ったような甲高い音が響くのを予想していたヨサクは、しかし意外な静寂に包まれたことに困惑していた。
先ほどまでの煩かった木々がなぎ倒される音が消えていた。
それはつまり確かに怪獣の尻尾を止められた証拠でもある。
マスオはと言えば、先ほどの位置から全く動いていない。
ならマスオの武器はどうだ。
「あっ」
マスオの持っていたウォーハンマーは、その先端部分が完全に怪獣の尻尾の中へと食い込んでいた。
あの硬い装甲を突き破る一撃は称賛に値するだろう。
流石マスオだ。と感心したのもつかの間。それだけで尻尾が止まるだろうか。
「ああっ!!」
ヨサクは2度驚きの声を上げた。
よく見れば怪獣の尻尾が半分近く地面に沈み込んでいた。
それも殴りつけた場所だけじゃない。その先の5メートル以上が沈んでいる。
それなら確かに尻尾も動けなくなるか。
「今のおらじゃ、ここまでか」
マスオの呟きはどこか不満げだった。
ならどこまで行ければ満足だったのか。
その答えは自分の手の中にあるとヨサクは考えた。
「おいおい、自分一人で手柄を持って行かないでくれよ。
陛下から依頼された尻尾の切断。
マスオが動きを封じてその上穴まで開けてくれたんだ。
今度は俺の番だよな」
「ああ、頼むだ」
ゴスッと武器を引き抜いて下がるマスオに対し、今度はヨサクがその大剣に魔力を込めていく番だった。
ヨサクの頭に過ぎるのは先日の模擬戦で自分が受けた一撃。
「あの時の死神の一撃。あれが放てればこんな肉の壁くらい両断出来るだろうか」
あの日から今度はあの一撃を切り返してみせると猛特訓を続けてきた。
今の自分はあの領域に届いているだろうか。
そう自問しながらヨサクは必殺の一撃を繰り出した。
「『極光斬』ッ」
キンッ
眩いばかりの光を纏った一撃が、マスオの開けた傷口に撃ち込まれた。
甲高い音を立てた後、その一撃は尻尾の向こうにある木々まで切り裂いていた。
「やったか?」
「……いや。どうやら俺もまだまだらしい」
光が消えた後を見えば切れたのは上半分ほど。
どうやら中心にある骨までは切り裂けなかったようだ。
そこに降り注ぐ雷撃。
必殺技を放った後のふたりはあえなく吹き飛ばされる。
「ぐっ。なんのこれしき」
「おら達は負けるわけにはいかねえだよ」
立ち上がったふたりの前には先ほどよりも大きいサイズの配下が立ち塞がっていた。
「その程度で俺達を止められると思うなよ」
「不死の軍団に比べればどうってことないさ!」
そうしてふたりは武器を構え突撃していくのだった。




