82.第1陣のご到着です
上空から北を見ればまるで森が黒く塗り潰されて行くように大災厄の魔獣が南へ向かって走っている。
所々で煙が上がっているのは、恐らく潰された村や集落だ。
流石に領内全部は守りきれないし、こちらに合流出来ていない新興の村までは何ともならない。
「さて。始めようか」
俺は魔法の光弾を空に放った。
それを合図にザワザワと森が動き出す。
正確には植物型の魔獣達が動いてるんだけど、とにかくそれによって森のなかに獣道が創られた。
「「ガウガウガウガウ」」
大災厄の魔獣……うーん、長いな。厄獣でいいか。
いま見える厄獣達は比較的小柄だ。と言っても小さい奴でも虎とかライオンとかの肉食獣サイズだけど。
ただそのサイズの彼らは木や岩を避けて走る。ぶつかればお互いにただでは済まないから当然だ。
なので積極的に獣道を使って移動することになる。
こちらが誘導してるとも知らずに。
そうして厄獣の群れはうちの領地が誇る2つの砦へと集まっていった。
砦の外壁の上にいるみんなはちょっと顔が引きつっているけど、大丈夫だろうか。
「よ、よし。みんな作戦通りいくぞ」
「「お、おう」」
「このサイズならそう簡単に壁を飛び越えることも出来ないだろうからそんなに心配しなくても大丈夫だからなっ」
「……あのー隊長。隊長が一番腰が引けてるように見えるんですけど」
「仕方ねえだろ。俺達に渡された武器は『猫じゃらし』だぞっ!?」
「あ、開き直った」
そう。厄獣の中でも比較的足が速いのが今砦に到着した訳だけど、ベースとなっている動物の性質が厄獣にも当てはまるので俊足な獣系の魔獣が大半だ。
そんな厄獣を相手に傷付けずに足止めしようと思って用意したのが猫じゃらし。
見た目的には釣り竿って言った方が良いのかもしれないけど、厄獣たちの手の届かない位置に獲物をちらつかせて注意を引き付ける武器(?)だ。
で、そうして時間を稼いだところで、チチカ達魔法隊が設置してくれた魔法陣が砦の周囲一帯を淡く包み込む。
ただ、魔法陣の光を浴びた厄獣の動きが止まったりはしない。
「効果はどうだ?」
「微妙ですね。やはり範囲が広すぎたのが問題かと思われます」
隣で観測を行っていた魔法隊の青年に尋ねれば渋い答えが返って来た。
「本当ならもっと景気よく噴き出してくれる予定だったんですけど」
「でもちゃんと機能しているみたいだぞ」
俺達が見守る先では厄獣たちから薄っすらと暗い陽炎が上空に昇っていくのが分かる。
あれはさっきまで厄獣に取り込まれていた穢れだ。
今回チチカ達に造ってもらった魔法陣の効果はただ一つ。
厄獣たちから穢れを引き剝がすことだ。
ルンルンの話の通りなら穢れさえ無くなってしまえば厄獣はただの魔獣に戻るか、そこまで行かなくても鎮静化してくれる可能性が高い。
この魔法陣の元ネタは先日の模擬戦で俺が不死の王に掛けられた魔法だ。
あの時のはこの土地に蓄積されていた穢れを引っ張り出して更に俺へと注ぎ込んでいた訳だけど、その前半部分の穢れを引っ張り出す機能だけを有効化した形だ。それだけならそんなに難しくなかったみたいなので規模を広げて砦に設置しておいた。
「……そんなこと言ってるとチチカ殿に刺されますよ?」
「あーはは。これが終わったら美味いものでも差し入れておくよ。
もちろん魔法隊のみんなにもこれが終わったら何か特別ボーナスを用意してやらないとな」
なにせ2日で魔法陣の構成を覚えて来て、そこからほぼ不眠不休で3カ所に設置してくれたんだから、いくら感謝しても足りないくらいだ。
しかしやはり出力不足か。
このままだと砦の外壁がもたないかもしれないな。
「ちょ、おまっ、マジでやるのか!?」
ん?砦の上で何やら騒ぎが。
ん~あれは確かよく馬鹿なことやってはヨサクに叱られてる中隊だな。
何をしてるのかと思えば、釣糸を中隊長に結んでる。
「さあ、張り切っていってみよう」
「ぎゃーーっす!」
厄獣の上空に投げ飛ばした。
うん、なかなか見事なキャスティングだ。
厄獣達の食い付きも凄い。
餌役の中隊長も飛び掛かってくる厄獣を踏み台にしながら空中でぎゃあぎゃあ叫びながら逃げ回っている。
って。
「お前ら。いじめじゃ無いだろうな」
「もちろんっすよ。ネタですネタ」
「なら釣り役と餌役を交代しながらやれよ」
「も、ももモチロンです」
「はーっはっはっはぁ。お前ら次は覚えてろよ」
「あっ、手が滑った」
「ぎゃーーっす」
まるでコントのようなやり取りだけど、ちゃんと成果は上がっているし、周りも笑いながらマネを始めた。
なるほど。
ヨサクが叱りはするけど止められないって言ってたのはこういうことか。
周囲を笑いの渦に巻き込み扇動し、尚且つギリギリのところで被害を出さないように調整している。
バカと天才は紙一重って奴だな。
と、そうこうしている内に砦を囲んでいた厄獣たちの動きが穏やかになってきた。
ならば作戦は第2段階だ。
ガンガンガンガンッ!!
「おいお前達。こっちだこっち!」
「まだ元気のある奴は追いかけてこいやぁ!」
「ガルルッ」
「キシャーッ」
砦の外から厄獣達に呼びかけてやれば、大半が砦を無視してそちらへと駆け寄っていく。
そして始まる追いかけっこ。
呼びかけを行ったのはうちの国でも体力と脚力に自信のあるメンツだ。
彼らにはこれから何度か折を見て交代してもらいつつ、プロステイン領の方へと厄獣達を引っ張って行ってもらう。
プロステイン領へ抜けた後は散り散りになって逃げることで厄獣達もばらけさせる予定だ。
そうなればもう、災厄としての脅威はほとんど無いのでゆっくり対処すればいい。
「よし。これで第1陣は何とかなったな」
ズコゴゴッ
バキバキバキバキッ
俺の呟きに応えるように地響きと森の木々がへし折られる音が聞こえてきた。
どうやら次がお出でなすったか。




