81.大災厄にむけて
大災厄に対して専守防衛から積極的に鎮静化へと方針転換を行うことを決めた。
ただ今分かっているのは狂暴化した魔獣から穢れを抜き取れば良いという事だけで、課題は山積みだ。
「そもそもの話、どうやって穢れを抜き取るのかって話よね」
「方法もだけど、1体1体相手にする訳にも行かないでしょ。
大災厄の魔獣は数百どころか数千は居るんだから」
「そうなんだよなぁ」
ほんの数体だけだというなら眠らせておいて1体ずつ浄化していくっていう作戦でも十分だ。
数体だけ助けて他を切り捨てるぐらいなら最初から全部諦めた方がいい。
「とすると、手作業では無理があるってことだ」
「手作業がってことは工業化?工場でも作るの?」
「工場というか施設、かな。魔獣を浄化する施設。
そう言うのが作れれば何とかなるかも」
「でもあんまり時間ないよ?」
「だよなぁ。複雑なのは作れないから単純な構造でなおかつ大量の魔獣を一度に扱えるもので……」
「そんな都合の良いものある?」
うーん、だよなぁ。
あれば既に誰かが作って大災厄対策として使ってそうだし。
「もういっそ魔獣たち自身に穢れを吐き出してもらえたらいいのに」
「そうそう。穢れなんていうんだからお風呂にでも入れてゴシゴシ洗ってやるとかね」
「いいねそれ。温泉とかサウナで汗をかいてサッパリすれば嫌な事なんて忘れちゃうしね!」
「温泉ってこの世界あるのかな」
「あるんじゃない?火山とかはあるんだし、その近くに行けば多分あるよ」
「じゃあその領地にどうやって行くか、だね。温厚な領主だと良いんだけど」
いつの間にか女性陣が脱線してしまっている。
俺も温泉は好きだけどそれはこの災厄を切り抜けてから考えような。
「後は海とか、大きな湖にも行きたいよね」
「海水浴かぁ。水着とかどうしよう。手作り?」
「いやだから二人とも」
「っ!そうだね。まずはダイエットしないと」
「あぁ~、確かにリュウジュに見られるならちゃんと絞らないといけないわね」
「いやふたりとも全然太って無いだろ」
女性に体重や体形の話をするのはどう頑張っても危険なんだけど、今はそんな話をしてる訳でも無くてだ。
今は大災厄の対策を考えないといけないんだが。
……ってそうか。
「よし、それでいこうか」
「「えっ?」」
「ダイエットとサウナで汗を流してお風呂で綺麗にする。
それで足りなかったら落ち着くまで運動をしてもらうってことで」
よし方針は決まった。
「ヨサク隊とマスオ隊は王都の東側にいつの間にか出来てる広場に山と穴を作って欲しい。
穴を掘って出た土で山を作れば丁度良いだろう」
「はいっ」
「ちなみにその広場は先日の不死の国との模擬戦で陛下が最後に放った攻撃の結果です」
あ、そうだったのか。
そういえばボーンドラゴンと戦ってたのはあの辺りだったか。
模擬戦からもうだいぶ経ったはずなのに草一本生えてこないんだけど。
「イメーコ隊は街を改造してほしい。まただいぶ壊すことになるのが心苦しいけど、終わったらみんなで直そう」
「無理に改造する必要があるのですか?」
「念のためな。やっぱり確実におびき寄せるなら餌は大きい方が良いだろう」
間違ってもここを無視して他に直行されると折角の用意が無駄になるからな。
多少慎重になり過ぎるくらいで十分だ。
「チチカは不死の王に弟子入りだ」
「はあ!?」
「面白い事好きなあの王なら協力してくれるだろう。
ひとつ魔法を覚えてきて欲しいんだ」
「魔法の習得ってそんな簡単じゃないんだけど?」
「魔法陣の設置も考えると習う時間は1日2日くらいしかないだろうが天才のチチカなら何とかなるよな?」
「あぁもう、やれば良いんでしょ。天才の私に任せなさい!」
なかばやけっぱちに答えるチチカ。
実際にはチチカひとりじゃなくて魔法が得意なやつも数名一緒に行ってもらうけど。
あとは魔獣には攻撃しないって言う話を信じてゼフ達には誘導をお願いして魔物たちには念のためこのタイミングでイレギュラーな村や集落が出来てないか見回りをしてもらうか。
後は……あ、さっきからルンルンが不安そうにこっちを見てる。
「何か心配事でもあったかな?」
「ううん。そうじゃないの。
そうじゃなくて、わたしの所為でパパたちが大変になっちゃんじゃないかなって思って」
「なんだ、そんなことか」
俺はルンルンの頭をぽんぽんっと撫でながら極力軽く言ってあげた。
「俺はパパらしいからな。
パパって言うのは娘のわがままに喜んで付き合う生き物なんだよ。
むしろ娘にわがまま言われないパパ程可哀そうなものはないってくらいだ」
実際に父親になったことは無いけど、こんな可愛い娘が出来たら親ばかになる父親の気持ちも分かるってもんだ。
ただそうは言っても娘からしたら無償で優しくされるのは心苦しいのだろう。
「わたしにも何か手伝わせてほしいの」
ルンルンはそう言ってきた。
ならしっかりお手伝いしてもらいますか。
「それなら穢れについて知っていることを教えて欲しい」
「っ!任せてなの。それなら私でも出来るの!」
俺の言葉にぱぁっと笑顔を見せるルンルン。
更にはぐいぐいと俺の腕を引っ張ってくる。
「そうと決まれば善は急げなのよ。
時は金なり。光陰矢の如しなの!」
意味が分かって言ってるのかはともかく楽しそうだから良いか。
でもそこから先の穢れについての説明はしっかりしたものだった。
「穢れっていうのは簡単に言うと悲しみや怒りと言った負のエネルギーの塊なの。
特に人間や魔物が苦しみながら死ぬとより多く蓄積されるみたいなのね。
そして繰り返しになるけど穢れっていうのは一種のエネルギーだから、上手く取り込めば一気に進化したり突然変異することもあるのよ。
生贄の儀式もこれを応用したものと言っても良いの。
でも失敗すれば穢れに身も心も浸食されて理性を失って暴れるだけの存在にもなり得るの。
大災厄の魔獣もこれに近い状態のはずよ。
そんな穢れを浄化するのに効果的なのが正のエネルギーと光よ。
光って言うのは太陽でも月でも、炎でも良いの。
そして正のエネルギーは負の逆。喜びや笑顔、感謝や元気と言ったものなの。
パパの国はこの元気や笑顔がいっぱいだから穢れも浄化出来てエネルギーに満ちているの!」
「あれ、てっきり戦争とか生贄とかしてた方が強くなるの早いと思ってたんだけど違うのか?」
「うーん、間違ってはいないの。
畑と狩りの違いって言ったら伝わる?」
「あぁ何となく」
つまり狩りの方が1回で得られる肉は多いんだけど、長期的に安定して食べ物を得ようと思ったら時間は掛かるけど畑を耕した方が良い。
狩りっていうのはつまり戦争であり生贄な訳だ。
うちの場合は地味で分かりにくいけどジワジワと地力が上がっていたって事だな。
ただ他の国と違って国民全員で生産活動をしている分、農業の割には早く成長出来てるってことか。
まぁそれは分かったけど、これは大災厄には活かせない話だよな。
どちらかというと光に関する情報の方が今は重要そうだ。
大災厄が始まって以来、だんだん雲が増えて暗くなっているから、この雲を吹き飛ばして太陽を出せば穢れも吹き飛ばせるかもしれない。




