79.妖精の願い
妖精が起きたと聞いて急ぎ温室に向かう俺達。
そこには魔獣に囲まれて楽しく笑う妖精の少女が居た。
彼女は俺を見つけるとぱぁっと笑顔になって駆け寄って来た。
「パパ~♪」
「「ぱ、パパ!?」」
突然のパパ発言に俺達は目が点だ。
呆然としてるうちに彼女は俺に抱き着いてきた。
「おはようなの。パパ。
いつもとっても気持ちいい事してくれてありがとうなの」
「「はあっ!?」」
更なる爆弾発言に驚きを通り越して殺気が俺に突き刺さる。
まさか妖精に見せかけた殺し屋だったのか。
「お兄さん。これはどういうことなのかしら」
「寝ている少女にいけない事をしていたとしたらちょっと矯正が必要ね。いえ去勢かしら」
「いや落ち着けお前達。俺は無実だ。
君もちょっと離れような」
「はぁい」
幸いにして妖精の少女は素直に離れてくれたので改めて話を聞くことにした。
「えっと、まずは名前からかな。
俺はリュウジュ。そっちにいるのはミツキとチチカだ。
君に名前はあるのかな?」
「わたしはルンルンよ。パパ」
「そのパパって言うのは?」
俺がそう聞くとキョトンと首を傾げた後にっこりとして言った。
「わたし知ってるのよ。
外の世界ではご飯を与えてくれる男性の事をパパって呼ぶんでしょ?
私が休眠している間に沢山魔力を与えてくれたのはパパだからパパで間違いないの」
「ああ、なるほど。じゃあ気持ちいい事っていうのも?」
「身体の中に溜まっていた穢れを祓ってくれたでしょ?
まるでマッサージしてもらえてるみたいで気持ち良かったの!」
それを聞いてようやくミツキ達も納得してくれたようだ。
よかった。俺の首は無事につながったようだ。
あとはルンルンの処遇だけだな。
「ルンルンの暮らしてた場所ってどこにあるか分かるか?
良かったら家まで送り届けようかと思うんだけど」
ルンルンは考え込んだ後、空を見上げたり深呼吸をしてみたりしていたけど、やがて首を横に振った。
「ここはきっと故郷からずっと離れてるの。
それに多分休眠してから数年どころか数十年経ってるの。
だから帰るのは大変だと思う」
数十年か。どうやら休眠状態では歳を取らないみたいだな。
妖精の寿命は分からないけど彼女の両親も既にこの世を去っている可能性もある。
それにその数十年の間に何度か大災厄も起きてる筈だから故郷が無事という保証もない。
ってそうだ。
「ルンルンをうちで養ってもいいかなとは思うんだけど1つ困ったことがある」
「どうしたの?」
「もうすぐ大災厄が起きるんだ。
もちろん俺達は万全の体勢で臨むけど、それでも絶対安全とは言い切れない。
俺達にとっては初めての大災厄でもあるからな」
「大災厄!!」
俺の言葉を聞いてハッとするルンルン。
「思い出したわ。
わたしは世界の穢れを祓うために故郷を飛び出してきたの!
大災厄は穢れが原因で起きるのよ。穢れさえ何とか出来れば大災厄も防げるかもしれないの」
「なんだって!?」
俺達はルンルンから詳しい話を聞いてみた。
どうやらこの世界で人間と魔物が争い合う事で穢れと呼ばれる負のエネルギーが増加するらしい。
妖精のご先祖様はその穢れを浄化しようと頑張ったけど失敗して魔獣になってしまったという。
なるほど。だからゼフ達は妖精であるルンルンに親身になっていたんだな。
そして魔獣となった後も穢れをその身に取り込むことで世界を守ろうとしているけど、穢れが溜まる方が早いようだ。
結果としてダムが決壊するように穢れが溢れ出し、魔獣たちも精神を穢れに浸食されて狂暴化して大災厄となるそうだ。
先日の噴煙が恐らくその穢れが溢れて噴き出した姿だったんだろう。
噴煙が上がったところでは今も魔獣の狂暴化と増殖が進み、その地域の許容量つまり第二のダムの決壊と同時に世界中に溢れ出すようだ。
「ということは既に噴煙が上がってしまった今、大災厄そのものを起こさないようにするのは不可能なのか」
「魔獣達は苦しくて悲しくて暴れてるだけなの。
わたしはみんなを救いたかったのに全然力不足なの。
折角目覚めることが出来たのに残念なの」
しゅんとするルンルン。
ルンルンを慰めようとゼフがルンルンの頬に顔を摺り寄せた。
「ふふっ。ふかふかで気持ちいいの」
それを見てふと思った。
「ゼフは魔獣なのに、穢れとかは大丈夫なのか?」
「バウ?」
ゼフ自身はいまいち分かっていないようだけど、代わりにルンルンが答えてくれた。
「大丈夫なの。ここに居るみんなは十分に穢れを浄化出来てるの。
魔獣は体内で穢れを浄化してエネルギーに変換するのだけど、みんなは十分にその機能が働いてる状態なの。
きっとここは争いごとが少ないからなの!」
「なら狂暴化した魔獣も浄化機能が上手く働けば助かるかもしれないのか」
「出来る事なら助けてあげたいの。でもそれには時間が掛かるの。
一度狂暴化してしまえば浄化機能も麻痺してしまってるわ。
わたしにしてくれたみたいに穢れを抜き取るのなら少しは早く回復するし浄化機能も復旧出来ると思うけど簡単じゃないの」
「でも少しでも穢れを抜ければ多少は沈静化できる可能性はある訳だよな」
「うん。でも危ないの。穢れは人間や魔物に対する怒りや憎しみだから、パパたちを見つけたら間違いなく襲ってくるの」
それはつまり魔獣どうしでは争い合わないってことか。
それなら正常な魔獣を使って狂暴化した魔獣だけ上手く隔離してやれば俺達も魔獣たちも被害を最小限に食い止めることが出来る?
ただその為には国の皆を危険に晒さないといけないわけで、そこまでして凶暴化した魔獣を救う必要があるかと言われたらそうでもない。
俺が色々考えていたらルンルンが俺の腰にしがみついてきた。
「危ないことはしてほしくないの。
でももしかしたらパパだったらみんなを助けられるの?
わたしを起こしてくれたみたいにみんなの穢れも祓ってくれる?」
「ふむ」
ルンルンの頭に手を置きながら周りを見る。
するとなぜかニヤニヤ笑っているミツキに呆れ顔のチチカが居た。
ヨサクやゼフ達は、なにも言わずに俺の次の言葉を待っている。
うーむ、俺ってそんなに分かりやすいだろうか。
「よしみんな。
娘に頼られたら頑張るのがパパってものだ。
みんなにはまた苦労を掛けるがよろしく頼む」
「「はいっ」」
俺達は大災厄に対して積極的に攻めに転じることが決まった。




