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77.妖精の眠り姫

突然ミークが持ってきた棺桶は、曰く吸血鬼が入ってそうな立派なものでは無くてもっと簡素なものだった。

ただ間違いなく俺はこんなものを頼んではいないし、誰かのプレゼントだとして、こんなものをプレゼントしてくるのは嫌がらせかはたまた超絶悪趣味な人だと思われる。


「送り先を間違えた、とかじゃないんだよな?」

「はいにゃ。不死の王から先日の模擬戦で勝利した褒美として送られてきましたにゃ」

「勝利?いや、どう考えても俺達の負けだったはずだけど」


俺も最後は記憶が無いから断言できないけど、あの状況から勝てたとは考えにくい。


「うちは見てにゃいけど、ボーンドラゴンが総大将だったって聞いてるにゃ」

「ああ、それなら確かに私達の勝ちね」

「チチカ?」

「あの時、覚醒したあなたが放った一撃でボーンドラゴンが倒されたらすぐに戦争が終わっていたの。

なんでかなって思ってたけど、敵の総大将が倒れたからだって考えれば納得だわ」


なるほど。

てっきりその場に不死の王も居たから彼が総大将だと思っていたけど違った訳だ。

その戦法を使えば今後は俺も気兼ねなく前線に出れる、ってだめか。俺が死んだら結局敗北なのだから。


「まぁ経緯は分かったけど、棺桶なんて貰っても困るんだけど」

「プレゼントとは棺桶じゃなくて中身にゃ」

「いや死体を貰っても困るよ」

「まぁまぁ詳しい話は座って落ち着いて話すにゃ」


という訳で俺達は場所を王城へと変えた。

あ、王城もつい先日完成したものだ。

ただそんなに豪華なものじゃないし、俺は今まで通り領主館の方で寝てるから職場って感じだな。

その応接室にミツキ達も呼んで棺桶を囲んだ。


「で、棺桶の中に何か入ってるんだっけ。開けても爆発とかしないよな」

「大丈夫にゃ。危険なものが入って無いのは確認済みにゃ」

「そうか。なら」


俺は慎重に棺桶の蓋を開けた。

そうして中に入っていたのは、人間大のお人形だった。

透き通るような肌に深緑色の髪。着せられているワンピースは淡い若草色のネグリジェは薄っすらと肌が透けて見える。

って、いや。この歳で人形遊びとかしないんだけど。特に美少女の人形とか、絶対に事案じゃないか。あ、まさか俺を社会的に抹殺しようという罠だったのか?

不死の王はなぜこんなものを寄越したんだ。

首を傾げる俺達の中で、チチカだけは驚いたように目を見開いていた。


「これって、まさか……」

「ん?チチカはこの人形がなにか知っているのか?」

「人形じゃないわ。多分この子、伝説の妖精族よね。生きてるの?」


恐る恐る聞くチチカに対してミークは静かに頷いた。


「そうにゃ。今は生きてはいるみたいだけど休眠状態にゃ。あと伝言も預かってるにゃ。

『先日奴隷商で見つけた妖精の少女をそちらに預ける。

君ならきっと何か面白い事を起こしてくれると期待しているよ。

そうそう。その少女は曰く付きでね。

過去に買い取った王や領主は悉く突発的な災厄に襲われ魔獣の餌食になっているそうだ。

君もそうならないように十分注意したまえ』」


え、なにそれ。

この子が居ると魔獣が引き寄せられるのか?

昔見た映画で魔獣の子供を攫って敵国に押し付けて、怒り狂って取り戻しに来た親魔獣に敵国を滅ぼさせる、なんてのがあったけど、それに近い状態か。

なら早めに起きてもらわないと危険だな。


「休眠状態って言ってたけど、起こす方法は分かっているのか?」

「残念ながら、今までの所有者もどうにかして彼女を起こそうとしたみたいだけど、成功した話は聞かないにゃ」


まぁそうだろうな。今もまだ眠ったままなのがその証拠だ。

物語なんかだと眠り姫を起こすのは王子様のキスだと相場が決まっているが、俺は王子様って柄じゃない。

ならどうするか。


「あの。この子が居ると災厄に襲われるのであれば、引き取りを拒否するのも手ではないでしょうか」


確かにそれも手か。ただなぁ。


「ヨサクの言う事は尤もだし、それが一番安全なのは確かなんだけどさ。

仮に俺が受け取りを拒否したらどうなるんだ?」

「奴隷商に送られて、次の買い取り手の元に行くだけにゃ」


この状態の少女を買い取るのって言ったら人形愛好家の変態だろうか。

それも普通の人形愛好家ではなく人形に性欲を覚えるタイプの。


「ちなみに元プロステイン領領主も顧客候補のリストに入ってたにゃ」


あ、だめだそれは。

あんなロリコンの変態野郎の同族の元に送るのは可哀そう過ぎる。

仕方ない。引き取るのは確定だな。


「休眠状態って話だったけど、栄養補給とかしなくても大丈夫なのか?」

「ひ、引き取るおつもりですか!?」

「まぁ、何とかなるだろう。今なら災厄に襲われても簡単にやられたりはしないだろうし」

「それは勿論、いざという時は我々が国を守ります」

「うん。頼りにしてる。で、この世界には栄養剤の点滴なんてある訳ないしどうすればいいんだ?」

「心配しなくても周囲の魔力を吸収して生命活動を維持してるみたいだから大丈夫にゃ」


どうやら手間いらずらしい。

よし、そうと決まったらまずは。


「ミツキ、チチカ。悪いんだけど彼女をお風呂に入れてやってもらえるか?

いくら寝ているとはいえ、女の子は綺麗な方が良いだろう」

「分かったわ」

「あなたの事だから自分で洗うとか言い出すのかと思ったわ」


チチカの中で俺はどういう男なのか今度ゆっくり聞いてみよう。

まあひとまずこの場は解散して、俺は妖精の少女を抱き上げるとミツキ達を連れて浴場へと向かうのだった。


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