75.(閑話)神様の神様
世界を外側から見つめる無数の存在。
その目に映るのは地上で活動する人間と魔物、そしてそれを眺める神(?)たちの様子が映っていた。
「最近また観測者たちから苦情が増えてきましたな」
「言うだけはタダだからな。
それだけが彼らが出来る唯一の役割ともいえる。
まあ仕方ない。そろそろあれをやるか」
「うーむ、私としてはもう少し機が熟してからの方が面白いとは思うのだがね」
「例のあの国ですか」
「ああ」
「決して強い訳ではないが奇抜ではある」
「お前やるかと聞かれたらやらないがね」
彼らが見つめる先では人間と魔物と魔獣が共存する不思議な国があった。
本来であれば人間と魔物は敵対関係。または良くて不干渉が精々のはずだ。
魔獣にしても絶対に人間にも魔物にも与しないタイプの者までが一緒に居る。
ただそう。決して強国というわけではない。
言ってしまえば器用貧乏。
軍事力で言えば同程度の国力でもっと強力な軍隊を揃えている国は幾つもあるし、多様性に富んでいる為に、作らなければならない施設や育てないといけない技術も多岐に渡る。
応用は効くかもしれないが、それも地力があってこそだ。
事実、先日の模擬戦では圧倒的大差で敗北している。
貴重というより珍妙。それがあの国に対する彼らの評価だった。
「誰か何か弄ったのかね?」
「いえ、そのような話は聞きませんし、手を加えた痕跡もありません」
「ということは最初からこの可能性が盛り込まれていたということか」
「一体何のために……」
「こうなった原因は何かは分かっているのか?」
「推測で良ければ幾つかあります」
「聞こうか」
「はい。これまで同様の現象が起きたことが無いことから、あの国の王が行っている想定外の行動が原因ではないかと考えました。
その結果、まず最初に兵士を生み出していないというものがあります。
続いて領内に出来た人間の村や魔物の集落に対して降伏勧告を行っている、というのもこれまで例を見ない行動です」
「だろうね」
「他にも細々とした動きはありますが、そちらは他の国でも似たようなことはしています。
もしかしたら複合効果も考えられますが、そうなるとバリエーションが複雑になって追いきれません」
「とすると一番怪しいのは降伏勧告か?」
あの世界において降伏勧告をする意味はない。
人口を増やしたいだけなら住居の空きを作って置けば勝手に増えていくのだから。
むしろ積極的に攻め滅ぼした方が戦闘経験も積めるし資源の回収も出来て一石二鳥だ。
魔物を殺して得た魔石を神に捧げることで様々な特典を得ることも出来る。
「……そういえばあの国は神殿も祭壇も作っていなかったか」
「はい。神に何かを捧げたという記録もありません」
「というか、あそこの観測者は何をしているんだ?」
「それでしたら先日連絡が来ました。
『こっちの言葉を聞きもしないし、飽きた。帰る』だそうです」
「ふむ……」
「はぁ……」
「まあいつものことか」
あの世界で観測者が出来ることは多くはない。
そんなことは最初から分かっていたはずだが、それでもなお実際に体験してみたら期待していたものと違ったと早い段階で投げ出す者は一定数居る。
観測者も完ぺきではないからそれは仕方ない事ではあるし、居なくなったとしてもあの世界の者にとって大きな痛手になることはほとんど無い。
「別に彼らは親という訳ではないから育児放棄だと怒るのもお門違いですしな」
「それで後任は決まっているのか?」
「それが、かの王が求めない限り空席にせよと通達が来ています」
「通達が……そうか」
通達とはつまり、彼らの更に上位の存在からの命令だ。
彼らにそれを拒む権利は無い。
「それと、もう一つ通達が来ています」
「珍しいな。聞かせてくれるか」
「それがその……」
「どうした。早くしなさい」
「はい。『君たちもただ管理するだけも飽きてきただろう。だから……』」
それを聞いた彼らは一様に驚き慌てふためいた。
まさに寝耳に水。驚天動地とはこのことかと。
「し、しかし。それでは……」
「そうだ。一体何を考えているのだ。我々が今までどれだけ苦労してきたかと……」
「……は誰がするというのだ」
「それについても通達の続きがあります。
『君たちに自分たちが居なくなった後のことを心配する余裕があるとは、驚きを通り越して感動してしまいそうだ』
以上です」
まるでこちらの言動を予見していたかのような文面。
いや、実際に分かっていたのだろう。
そしてその言葉の通り、その決定を覆せないのなら自分たちには一刻の猶予も無い。
彼らはドタバタと部屋を飛び出していき、残ったのは2人だけ。
通達を読んだ人ともうひとり。
「おや。あなたは行かなくて良かったのですか?」
「まあね。慌てて準備しても大して変わるとも思えない。
なによりその辞令が効力を発揮するのはもう少し後だろう?
なら私はまだあの世界の管理者だ。
それを勝手に放棄するのは余りにも無責任じゃないか」
「ふふっ。なるほど。
ちなみに、もしあなたがあの国の観測者だとしたらどうしますか?」
「ふむ……そうだね」
それからふたりは遅くまで楽しそうに議論を交わしていた。




