74.王の在り方と神様
先達の王様が2人も居るのだから質問だけじゃなく相談とかもして良いだろうか。
良いよな。少なくともこのふたりは多少の事があっても敵対してきたりはしなさそうだし。
「あの、一つ悩んでいることがあるのですが話を聞いてもらってもいいですか?」
「ええ、私で良ければ」
「うむ」
俺の言葉に頷いたのを見て先を続ける。
「俺は国の皆には死んでほしくないと思っています。
でも実際には死ぬなと言いつつ、戦場に送り込んでいることに矛盾を感じるんです。
戦場は敵だけでなく、味方も死ぬのだから。
それでも戦争を行っている自分はただの偽善者なんじゃないかって思うんです」
「そうですね」
「ふむ」
あきれる事もなく、ただ静かに頷くふたり。
恐らくふたりも過去に経験があることなのだろう。
俺だって分かってはいるつもりだ。
この世界では周辺の領地や他国との戦いは避けては通れないものだってことは。
だから犠牲が出ることも避けては通れないことだ。
それでもなお死ぬなって言い続ける自分は間違ってるんじゃないかって思ったりもする。
「リュウジュさんの仰りたい事は分かります。
例えそれをすれば死ぬと分かっていても国の為に命令しなければならない時はあります。
私達に出来るのは彼らの犠牲を無駄にしないことでしょう」
「我々は王だ。ならば何かを諦める必要はない。
一切の犠牲を出さないと決めたのであれば、そうなるように全霊を尽くせばよい。
それを自国の者が否定するならその者は国を出て行けば良いし、他国の者が批判して来たらうるさい黙れと言ってやればいい。
他国を批判する奴に限って自分が出来ないことをやろうとしている者の足を引っ張りたいだけなのだからな。
王とは道しるべだ。
最悪な王とは傲慢で民を苦しめる王ではない。
優柔不断で何も決めず民に道を示さない王だ。
そんな王のもとに居る民は例え生きていても不幸でしかない。
だから思うようにやってみるのだな。
骨くらいは拾ってやる」
はっはっはと笑う不死の王。
骨くらいはって不死の王が言うと冗談じゃなくなりそうだ。
でも……そうか。
望むことに傲慢でも良いのか。
なら俺は俺なりに今のままやらせてもらおう。
俺はふたりに礼を言った後、先ほどの不死の王の言葉で思い出したことがあった。
「この世界に魔王って居たんだな」
「まあ自称だがな。彼こそ傲慢の塊のようなものだ」
「自称なんだ」
「3つある魔物の大国のうちの1つが勝手にそう名乗って居るだけだ」
つまり特にその魔王を倒したからと言って何かがある訳でもないってことか。
そこに付け加えるようにシルクさんが言った。
「人間の方にも自称勇者国がありますよ。
あと、自分たちは神の御使いだという神聖教国も」
「どっちも自称なんですね」
「ええ。その2国は同盟を結んで魔王国と日夜戦争に明け暮れています。
ただそれだけなら良いのですが、同じ人間の国なんだから協力して当たり前だろうとか言って物資を強奪していこうとするので私の国を含めた残りの人間の国3国とは仲が良くないのを通り越して険悪になりつつあります」
彼らとしては自分たちこそが正義だって思ってるんだろうな。
正義だから何をしても許されるかと言えばそんなことは無いんだけど。
そんな事すら分かってないんだろうなぁ。
「魔物の国は結託して人間の国を滅ぼそうとかないのか?」
「無いな。そんなことに大した価値はないし、やるなら自分達だけでやる。
特に私は神に見放された存在だ。
自由にやらせてもらうさ」
神様ねぇ。
結局神様が何者かも分かってないし、俺も最初以外恩恵らしい恩恵も受けてないんだよな。
「シルクさんの方はどうなんですか?
神様って何かしてますか?」
「ええ。恐らく私は比較的神様とはよい関係を築けていると思います。
今でも小まめにアドバイスを頂いて居ますし、他の方が仰るような無茶な命令もされません」
「そうなんですね。神様も一概にこうだって決めつける訳にも行かないのか」
横暴な神。不干渉というか放置する神。親身に気を掛けてくれる神。
どうやら領主や王ひとりに付き神様もひとり居るらしい。
最初の頃に感じたゲームの雰囲気から考えると神様から見て俺達はゲームの登場人物か小さな檻の中で走り回っているペットのようなものかもしれない。
ま、どっちにしろ神様の思い通りになってやるつもりは無いんだけどな。
ただ一つ気掛かりがあるとすれば。
「神様が自分の意に沿わないこの世界を滅ぼそうとすることはないだろうか」
俺の言葉にハッと顔を上げるふたり。
笑い飛ばされないということはその可能性は否定しきれないということ。
長年この世界で生きてきたふたりだ。
もしかしたら心当たりがあるのだろう。
「以前自称『神の国』だと言って攻めてきた国があった。
まあ返り討ちにしてやったんだが、かなり歪な国だったのを覚えている」
「歪って?」
「小国で見るからに歴史の浅い国であったにも拘わらず、強力な将軍を複数従え装備も高級品を揃えていた。
更にはこちらの領地の位置を知っているかのように的確に狙って転移して来たりとやりたい放題だったな」
「それでよく勝てたな」
「そこは経験の差だな。
ゲリラ戦を始め、夜襲、陽動、偽装工作にトラップ。
数だけはこちらが圧倒的に勝って居たからな。
1カ月間、休む間もなく攻撃し続ければ神の如き強さの敵と言えど疲弊するさ。
ちなみにその時倒した敵将の何人かは今の我が軍の将軍として働いている。
模擬戦の1回戦の骸骨将軍がそのひとりだな」
マスオを倒したあいつか。
でもあの戦いを見る限り戦闘技術も確かなものがあった。
それはきっと不死の王国に帰属してから相当な鍛錬を積んだ結果か。
ただそんなこともあって不死の王国は今の強さになっているんだな。
「ちなみに大災厄ももしかしたら神が一枚嚙んでいる可能性はあるな」
「そうなのか?」
「ああ。これまでの傾向では世界が大きく荒廃した時と安定した時に大災厄が発生している。
一見真逆に見える2つの状態だが、仮に神々が適度な戦乱が続く世界を望んでいて、その為に一度リセットさせようとしているのだとしたら納得がいくというものだ」
「そうですね。今のこの世界はだいぶ落ち着いてしまっていますから。
勇者国と魔王国の戦いも膠着状態ですし、他の大国は自国に篭ってのんびりしています。
新興国家も目立つところはリュウジュさんの国くらいしかありませんし」
神様の目的は世界平和でもなければ、この世界の発展でもない、か。
果たしてそんな神様は必要なんだろうか。
少なくともこの世界に生きる俺達からしたら迷惑この上ない。
とは言ってもこちらから何かすることが出来る訳じゃないからな。
出来る事と言ったら祈ることくらいか。
神様に「神様が余計なことをしませんように」って祈るのは、祈られた神様はどんな気持ちだろうな。




