73.出て行った者と残った者の差
それから俺は、改めてシルクさんと不死の王と会談する機会を設けた。
「シルクさん。先日は救援に駆けつけて下さりありがとうございました」
「いえ。結局あまり役には立てませんでしたから」
「それ以外にも難民を受け入れてくださったりと色々助かりましたから」
「あー……」
ん?
何故か視線を反らされたけど何かあっただろうか。
もしや難民達が迷惑を掛けているのか。
そう首をかしげたら不死の王がその答えを言ってくれた。
「リュウジュ王よ。
難民とは、王が討たれた後の領地から脱出してきた者を言う。
どんな理由があれ、王の命令以外で王と領地を捨てて来たものは逃亡者だ。
難民には寛容だが逃亡者に冷たいのは当然だと思わないか?」
あ、そうか。この世界ではそう認識されるのか。
俺は確かに逃げるなら今のうちだと言ったが、天上国に避難しろとは言ってない。
だから彼らは勝手に出ていったことになっているのか。
「それで、その後彼らがどうしているかは分かりますか?」
「はい。全員纏めてまだ領主も決まっていない領地に送って自分たちの手で開拓するようにと伝えてあります。
ただそのほとんどが魔物などの襲撃に遇いこの世を去っているようですが」
「フッ。指導者なき群衆など、牙を持たぬ豚の群れも同然。
襲われれば悲鳴を上げて逃げ惑うしか出来ぬであろう」
あっちゃあ。それじゃあわざわざ逃がした意味は無かったのか。
それに彼らが戻ってこないってことは人口は減ったままか。
「もしかしてこれが手術の効果なのか?
不死の王は最初からこうなるのことを見越していたのか」
「まあな。王の意に沿ぐわず自分勝手に振る舞う馬鹿は尻に火をつけてやればすぐに慌てふためいて逃げ出すものだ。
またそういう者に限って我が物顔で帰ってくるから始末しておくのが一番だ」
不死の王らしい言い分だ。
でも確かに明確な罪を犯してないのに追い出すのは他の反感を買いそうで難しい。
勝手に出ていってくれる方が何かと楽だ。
「ただこのままだとまた心無い国民が勝手に増えていきそうだけど、打てる対策は何か無いだろうか」
「それなら入国審査を行えば良い。
流入する人間に対して、ある程度の条件付けをしてそれを満たせない者は国民として認めず、国が管理する街や村に入れないようにすることが出来る」
「それで弾かれた人はどうなるんだ?」
「他の領地に行くか領内に勝手に村を作ることになる。
そいつらは基本的に敵対してくるからな。村を作ったなら早めに潰すと良い」
なるほど。
言ってしまえば今までだって勝手に領内に村は作られていた訳だし、その成長速度がちょっと上がるだけと考えれば特に問題はないな。
どういう条件が良いかは帰ってヨサク達と相談しよう。
でも不要な人材を排除するだけだったなら戦争を中止しても良かったんじゃないだろうか。
というか、そうだ。あれも確認しておかないと。
「先日の戦争、あれは『模擬戦モード』だったというのを聞いたけど、その内容はイメージ通りなのかな?」
「そうですね。
模擬戦は、本当の戦争と同じ体験が出来つつ、その戦いでの戦死者と施設の被害は終了後に全て回復します。
矢や薬といった消耗品は戻りませんが、それ以外のデメリットもありませんので、国内の軍を2分して行ったり、同盟国と行う事は良くあります。
ただ明確に敵対していないとは言え、何の条約も結んでいない相手とは普通行いません。
お互いの手の内を晒すことになりますし、弱点が見つかれば模擬戦終了後に即座に宣戦布告される危険性もありますし。
長い歴史を見ても人間の国と魔物の国で模擬戦が行われたのは初めてなんじゃないでしょうか」
「うむ。歴史に名を遺す一大イベントという奴だな」
尤もらしく大仰に頷く不死の王だけど、俺としてはそんなに素直に喜ぶことは出来ない。
「それならそうと最初に言ってくれれば良かったのに。
こっちとしては次々に仲間が殺されていくし、試練だなんだって言っても結局そっちの手のひらの上だったから気が気じゃなかったんだが」
「だが先に教えてしまってはあれほど本気にはなるまい」
「それは、まぁ確かに」
自分たちの戦いが仲間と国の存亡を左右すると思ったから全員死力を尽くして戦ったのは確かだ。
「人も魔物も死に瀕した時が一番成長するものだ。
あの戦いを通じてお前の国の民はかなり成長している。
次に戦えばかなりの苦戦を強いられるだろう。
それにお前自身も最後は覚醒していたようだしな」
「覚醒?」
「覚えていないのか?
私の呪いを打ち破ったお前は背中に白と黒の翼を生やし、天高く飛び立ったのだぞ」
そう言われても意識が無かったのだから仕方がない。
ただヨサク達も口を揃えてそうだったと言うし、何より俺の持っているスキルの一つが変化しているので間違いではないのだろう。
『嘆きの翼王:アクティブ/パッシブ(休眠状態)
この地に眠る多くの怨念を吸収し失われた翼の代わりとして空を飛ぶ者。
その性質上、光あるところでは本来の力を発揮できない。
しかしひとたび闇に包まれれば空は彼の意のままとなるだろう』
うーむ。なにか中二病を発症しそうなスキルになっているな。
実際にその姿を見ていたミツキも似たような感想を抱いていたし、この歳でそれは若干恥ずかしいものがある。
出来る事ならもうちょっと普通で良かったんだけどな。
「人と魔物が共存する国の王なのだ。
それを象徴するような姿なのだし良かったのではないか?」
「あ、言われてみればそうか」
ただその本質はどちらかというと魔獣に近い気がしている。
もし仮に生きている人があの呪いをその身に宿したなら悪魔のようになってしまってもおかしくない。
魔獣たちも元はこの世界に普通に生きていた生き物みたいだし魔獣というのもそうやって生まれてきたんじゃないだろうか。
ふと思ったその仮説をふたりに伝えてみたところ、賛否両論と言ったところだった。
「お前の言ってることは間違いではない。
魔物の国の一つである魔王国は自分たちと、攻め込んだ相手国の負のエネルギーを吸収して自国の軍隊を強化している。
強い魔獣も大きな戦争があった跡地で見かけることが多く、そのほとんどが攻撃的だ」
「ですが全ての魔獣が負のエネルギーで動いているかと言えばそうでもありません。
犬や馬、鳥と言ったように温厚で友好的な魔獣は多く見つかっています」
「つまり魔獣と一言で言っても2種類居るという事か」
「もしくは友好的な魔獣も負のエネルギーを吸収して狂暴化するのかもしれません」
「じゃあ狂暴化した魔獣から負のエネルギーを抜けば元の温厚な状態に戻るのか?」
「無理だな。狂暴化すれば意思の疎通は出来ん。殺すしかない」
うぅむ、そうなのか。
仮にそれが出来るなら大災厄で狂暴化した魔獣たちを救えるのかな、なんて思ったりもしたけど、そんな甘い話ではないか。
そうやって色々考えていた俺は不死の王がニヤリと笑ったのを見過ごしていた。




