71.不死の王からの最後の試練
俺が不死の王の前に辿り着いた時、彼は楽しそうに笑っていた。
「不死の王よ。なにか楽しい事でもあったか?」
「ああ、あったとも。
やはり何事も散り際というのは美しい。
人も花火もその最後の瞬間が最も強く美しく尊いものだ。
そうは思わないかね?」
「否定はしない。
が、散る側としては喜んでは居られないな」
もしかしたら不死の王はそれを見る為に今回の事を提案してきたのかもしれない。
彼にとってはほんの余興のようなものか。
そうだとしたらそんな事の為に無残に仲間を殺されたのを許すわけには行かない。
「不死の王よ。俺の実力でどこまで行けるかは分からないがお相手願おうか」
「良いだろう。ここまで来れた褒美だ。
直々に相手をしてあげよう」
「では行くぞ!」
俺は飛躍スキルを使って一気に距離を詰めるとミツキにも負けない程の鋭い突きを放った。
だが不死の王は軽々と受け止めてしまう。
「おっと中々に速いじゃないか」
「くっ、ならば」
俺は飛躍スキルで縦横無尽に不死の王の周りを駆け抜けながら剣戟を放っていく。
しかしそれも悉くがあっさりと受け止められてしまう。
なんだこれは。
まるで素人と有段者の戦いのようじゃないか。
「まさかここまで実力に差があるものなのか」
「それはそうさ」
「なに?」
「お前と私ではまずタイプが違う。
お前は恐らく万能型だろうが私は戦闘特化型だ。
それに圧倒的に戦闘経験にも差があるだろう。
何よりもお前はまだ限界突破も覚醒も経験していないだろう?
それではどんなに頑張っても私に勝つことは叶わぬ」
ふっと振り降ろした不死の王の1撃で俺の剣は半ばから切り落とされた。
更に振り上げた剣が俺を捉え上空へと吹き飛ばした。
真っ二つにされなかったのは手加減でもされたのか……
ドサッ
「ぐふっ」
僅かな滞空時間の後、地面に叩きつけられた。
そこはつい先ほどイメーコ達と別れた場所だったらしい。
視線を横にずらせば仲間たちの死体で視界が埋め尽くされた。
「く、うっ」
これが俺がやったことの結果だと改めて見せ付けられたようだ。
結局仲間を道連れに無駄死にしただけだったのか。
もう立ち上がることも出来ない俺に追い打ちをかけるように不死の王が声を掛けてきた。
「と、そうだ。一つ試練を追加しよう。
リュウジュ王よ。
これからこの地に眠る怨念をお前にぶつけよう。
それを受けてまだ生への執着を手放さないこと。
それが今回私がお前に与える最後の試練だ。
お前が死を受け入れるまでこの戦争の終結は待つことにしよう」
その言葉と共に不死の王が俺に手をかざした。
すると先ほどまで降っていた血の雨が集まり赤黒い魔法陣が出来上がる。
魔法陣から這い上がるように伸びてくる無数の黒い手。
それが俺の全身を絡め捕り、覆い尽くし、吞み込んでいく。
そうして俺の意識は完全に闇に包まれてしまった。
無数の化け物に生きながら食い散らかされる痛みとおぞましさ。
いつ終わるのか、そもそも終わりがあるのかも分からない地獄。
それでもなお意識を保ち続けられたのは、多分胸の内にほんの小さく灯る明かりのお陰だ。
それは俺がこの地に降り立ってから共に生き、そして志半ばで倒れていった仲間たちの思い。
彼らはこの程度じゃ死なせないと祝福を掛けてくれた。
……どれくらいの時間が経ったのか。
俺はもう泣き叫ぶことすら出来ず、いつ終わるとも知れぬ拷問を受け続けていた。
これがこの地に眠る怨念。
まるで生きている者の存在の一かけらも許せないと言っているようだ。
それは一体どれほどの苦しみと悲しみと怒りが積み重ねられたのだろうか。
この地はそれ程までに罪深い土地なのだろうか。
だとしたら。
ああ、そうだ。
俺は王なのだから。この怨念も含めてこの国を治めていく必要がある。
「いいだろう。どんな事情があったのかは知らないが、お前達の怒りも嘆きもみんなひっくるめて受け止めてやる。
纏めて掛かって来い!」
その言葉に応えるように、更に闇は鋭い牙を剥きリュウジュへと襲い掛かっていった。
……
…………
………………
不死の王は静かに魔法陣の様子を眺めていた。
戦争はほぼ終わりを迎え、リュウジュ王国で立っている者は既に居なかった。
それでもまだ戦争が終わっていないのはリュウジュが生きることを諦めていない証拠だった。
そして、不意に黒い半球状になった魔法陣にヒビが入ったのを見て不死の王は口元に笑みを浮かべた。
「ほぉ。まさかこんな短時間で克服するとはな。
甘い男かと思っていたがなかなかどうしてやるじゃないか」
術を行使してから1時間。
常人なら数分で発狂死してもおかしくないものだ。
それを1時間も耐え、なおかつ自力で解除できるとは期待していた以上だ。
そしてボロボロと崩れ去ったそこから這い上がってくるリュウジュらしき人影。
「こふぅ~。こふぅ~」
虚ろな瞳にまともとは思えない呼吸音。
何よりも人間にはあるはずの無いものがその身から生えていた。
「リュウジュ王……。その背中の翼は、まさか人族ではなかったのか?」
不死の王の言葉に、しかしリュウジュは答えなかった。
「ぐるる……があっ!」
「ちっ、どうやら意識が混濁しているようだな」
咆哮を上げたリュウジュはバサッと背中に付いていた白と黒の翼を広げ一瞬にして数百メートル上空へと飛び上がっていった。
それを見たボーンドラゴンが翼を広げ後を追う。
だが空の王は自分だとでも言うように空中で腕を組んだリュウジュがカッと目を見開くと、その黒い翼から幾つもの漆黒の銃弾が生み出されボーンドラゴンを地面に叩き落した。
「GYAOOOッ!」
ボーンドラゴンが怒りの咆哮を上げ、上空に居るリュウジュに向けて口を開けた。
それを見たリュウジュは逃げることなく両手を天へと向ければ、そこには太陽の如き光の弾が生み出された。
「消えろ」
リュウジュらしからぬ冷たい一言と共に放たれる光弾。
ボーンドラゴンもブレスで対抗するが、その軍配はリュウジュに上がった。
ブレスを吹き飛ばした光弾はそのまま地上で大爆発を起こしボーンドラゴンを粉々に粉砕。
それと同時に空の雲まで吹き飛ばされた。
すると差し込む陽光に溶けるようにリュウジュの片翼、黒い方の翼が消えてなくなり、リュウジュはそのまま地面へと落下していくのだった。




