68.希望の光は消えた
そうして気が付けば戦場の中央にはヨサクの部隊と死神率いるゴースト部隊だけが残っていた。
それに気が付いたゴースト部隊の隊長の死神は静かにヨサクに尋ねた。
「戦力を分断すれば勝てるとでも思っているのかね?」
「思っていたら悪いか?」
「悪くはないさ。ただそこに希望が無いと言うだけでね」
「っ!?」
全員が武器に魔力付与を行って走るヨサク達に対し、ゴーストたちはサッと右手を前にかざした。
そしてそこから撃ち出される魔弾の雨。
その1発1発は致命打になるほどでは無いが、硬式の野球ボールをぶつけられるように重く防がない訳には行かない。
当然防ごうとすれば足が止まる訳で、そうなると良い的でしかない。
「くっ」
舌打ちするヨサクの前に、大型の盾を持った仲間が壁を作った。
「将軍。俺達が道を作ります!」
そう言って盾を掲げたまま突撃を開始する仲間たち。
しかし彼らとて魔弾の集中砲火を受ければ一溜りもない。
それでも果敢に前を走る彼らに付いていく事でヨサク達は敵に接近することに成功した。
「よし。剣の届く距離に来れたら」
「勝てると思うのはちょっと早過ぎだね」
「なっ」
魔力付与した剣で切り掛かるヨサク達。
しかしゴーストたちもいつの間にかその手に持ったナイフで応戦してきた。
更にゆらゆらと動く独特のリズムが普段の感覚を狂わせる。
「舐めるなよ!」
「ギャーーっ」
ナイフを弾いたヨサクが返す剣でゴーストの1体を切り裂いた。
「よっしゃあ。将軍に続け~~」
「「おおっ」」
勢いづくヨサク隊はゴースト隊と互角の戦いを繰り広げ始めた。
だけどそれでも死神には余裕があるように見える。
それもそのはずだ。
「そんなにゆっくり戦っていて良いのかい?
どうやら左翼も右翼も長くはもたないようだぞ」
その言葉にちらりと左右を見れば、魔獣隊はゼフと数体を残すのみで魔物隊の方も大将のグレートトロル以外に立っている者は居なかった。
残念だが敵将に大ダメージを与えられた様子は無い。
このままではどちらも後数分持てば良い方だろう。
それが過ぎれば折角引き離してくれた敵の両翼によって挟撃され一瞬で勝負が終わることは目に見えている。
「どうする?一か八か私のところまで突撃してみるかい?」
「いや。どうやら時間稼ぎはこれくらいで良いみたいだ」
「んん?」
ヨサクがニヤリと笑ったと思ったら、敵部隊の後方からハトリ率いる隠密隊が飛び出してきた。
「ほぉ。別動隊が後ろに回り込んでいたか」
「お命頂戴する!」
ハトリの鈍く光る剣が死神の背中を捉えた。
しかし。
「なっ。切れぬ、だと!?」
「残念だな。私が普通の将軍だったなら今ので大ダメージになっていただろう。
だが、私にダメージを与えたいのならもっと魔法の練度を上げる必要がある。
なにより、属性が影では私と相性が悪い」
静かに説明をした死神は持っていた大鎌に魔力を込めてハトリの胸に突き立てた。
「これが本物の魔力付与だ。冥土の土産に覚えておくがいい」
「ぐふっ。
ふ、ふふ。これはかたじけない。
だが申し訳ない。実は私も囮なんだ」
口から血を吐きながらも自分に突き立てられた鎌を掴むハトリ。
同時に死神の背後で眩い光が放たれた。
そこでようやく死神は本命が誰だったのかを理解した。
振り返ればハトリの部隊の相手をしている間にヨサクが光る剣を携えてすぐ近くまで来ていた。
「影属性がダメなら光属性なら通るだろう」
「ふむ。なるほど、悪くない練度だ。確かにそれなら私を切り裂くことも可能だろう」
余裕そうに言う死神だが、その手に自慢の大鎌はない。
恐らくそれでもなおヨサクの一撃では倒される心配はないという事なのだろう。
そう、ヨサクを始めまだ息のある仲間たちは考えた。
だが現実は違った。
「『死の大鎌』」
「なっ。がはっ」
死神のスキルによって生み出された漆黒の大鎌が地面ごとヨサクを真っ二つに引き裂いた。
その威力はすさまじく、遠く離れた砦の壁まで破壊する。
「すまぬな。
良い一撃があるなら受けてやっても良いと主上から言われていたが、お前達に手加減をする方が失礼というものだろう」
そう言う死神の元に、左右両軍の大将が集まって来た。
どちらも特に目立った怪我も無いようだ。
そしてそのまま残った者たちも抵抗虚しく殲滅されていった。
『ふむ。実に惜しいところまで行けたが残念ながら第2の試練は失敗だったようだね。
まったくうちの者たちは手加減が出来ない者ばかりで困る』
やれやれとため息をつく不死の王を俺は拳を強く握りながら見つめていた。
くそっ。最初から分かっては居たんだ。
この戦いは圧倒的に不利で真面に戦えば勝ち目はゼロだって事は。
それでもきっと不死の王はどこかで加減して俺達に花を持たせてくれるんだろうと、どこかで期待していた。
それがこのザマだ。
不死の王は試練をクリア出来たら助けると言った。つまりクリア出来なかったこの戦争が終わっても助かったりはしないという事だろう。
こんなことなら最初からこんな戦いするべきじゃなかった。
ヨサク達を死に至らしめたのは他でもない、俺だろう。
『さて、では最後の戦いを始めようか』
後悔の念に駆られる俺に、不死の王の言葉が容赦なく降りかかった。




