67.ぶつかり合う両軍
不死の軍団が大地を黒く染める。
「あ、ああ……」
その瞬間、砦の防衛隊からうめき声が漏れた。
それも仕方ないだろう。
今度の敵は一目で強大だと分かる。
2メートルを超える大鎌を携えた死神率いるゴースト軍団。
獅子の身体にワイバーンの翼を生やしたキメラ率いるガーゴイル軍団。
5メートルを超える鋼鉄の巨人率いるゴーレム軍団。
そのうちの1つでも勝てるか怪しいのに3軍を1度に相手にすることになるんだ。
戦う前から絶望してしまっても仕方ないだろう。
そしてそこに拍車を掛けるように死の王が笑う。
『フッ。別に恥じることは無い。
人は誰しも死を目前にして平静で居られぬものだ。
さて。聞けば君たちの国は人間と魔獣と魔物が共存しているという。
私は長い事生きてきた、あいや死んではいるが、とにかくそんな国は見たことが無い。
そこでその事に敬意を表してこちらも属性の違う3部隊を用意した。
精々楽しんでくれたまえ』
なるほど。
人間とゴースト、魔獣とガーゴイル、魔物とゴーレム。
それぞれ若干似ているかもしれない。
ただ物理攻撃が効かなそうだったり空が飛べたり体格が圧倒的に違ったりと間違いなくこちらが不利だけど。
『そしてお待ちかねの第2の試練だ。
【こちらが用意した大将3体のうち、いずれかに大ダメージを与えること】としよう。
ああ、安心したまえ。
彼らには積極的に前に出るように伝えてある。
砦で守りに徹していても攻撃を与えるチャンスはあるだろう』
それを聞いたヨサクはすぐさま全軍に指示を出した。
「全軍砦を放棄。
野戦にて敵を迎え撃つ」
「はっ。しかしよろしいので?
自ら有利な地形を放棄することになりますが」
「構わん。むしろあの敵をよく見てみろ。
この砦では足止めにもならん」
言われて副将は改めて敵を見た。
そして自分たちの砦を見返して理解した。
この砦では空からの攻撃には有効な対抗策は10基のバリスタしかなく、大質量の攻撃には外壁は3発と耐えられず、物理を無視する敵は止める事すら出来ない。
「次に砦を造る時は対空兵装や魔導砲、魔力障壁にも力を入れましょう」
「ああ。その為にもこの戦、勝ちに行くぞ」
「はっ!」
砦を出て改めて敵と相対すると、その威容に足がすくみそうになる。
そんな自分を叱咤するようにヨサクは剣を高々と掲げた。
「魔獣隊は左翼、魔物隊は右翼、ヨサク隊は中央の敵を倒す。
フォーメーションはC-。
行くぞ。全軍突撃!」
「「おおっ!!」」
ヨサク達の突撃に合わせて、それまで体勢が整うのをのんびりと見守っていた不死の軍団も動き出す。
「見事なる蛮勇。
強者に小細工など不要。
全軍、敵を蹂躙せよ!」
「おうさっ」
「ガウガウッ」
一斉に動き出した両軍だったが機動力の差からか、先に衝突したのは魔獣部隊とガーゴイル部隊だった。
一口に魔獣部隊と言ってもその内容は様々だ。
動物型のもの。植物型のもの。それと鬼火や光玉、小さな竜巻などの一般には精霊に分類されそうな存在もこの世界では魔獣という括りで存在しているらしい。
先日は見かけなかったものも居るからつい最近合流したのかもな。
「バウバウッ」
「キーキーッ」
「ラ~~~」
ただ魔獣たちは必ずしも戦闘が得意ではない。
最初の衝突で、あっという間に3割近くの魔獣が吹き飛ばされた。
それでもなお、彼らは果敢に立ち向かい、機動力を活かして逃げ回り、そうして少しずつだけど左へ左へと中央からガーゴイル達を引き離していった。
続いて衝突したのは意外にも右翼の魔物部隊だった。
魔物はゴブリンなどの人間に近いサイズからトロルなどの大型種までさまざまで、最近ではここにインプやサキュバスと言った悪魔系の魔物も加わり賑やかになっている。
「魔物がなぜ人間の国に居る?」
鋼鉄の巨人が問いかける。
彼に明確な表情は無いが、あるとすればそれは驚きなのか怒りなのか。
その問いかけに魔物の大将として活躍するグレートトロルが答えた。
「主様は言った。
人も魔物も魔獣もちょっと個性があるだけで同じだと。
折角友達になるなら少しずつ違ってて良いだろうと。
もし世界が一緒に居るのを許さなくても、俺は許すから、それで満足してくれと。
それで俺は、俺達は満足だと思った。だからここに居る。
人間の国だからじゃない。魔物の国だからでもない。
主様が居る、ここが俺達の居たい場所だ」
その言葉を聞いた鋼鉄の巨人は、確かに笑った。
そして右手に持った巨大な柱のような武器を大きく振りかぶったのだった。
「面白い。ならば見事その居場所とやらを守ってみせよ」
「言われなくても!」
巨人同士が武器を打ち合えば、トラックが衝突したかのような音と共に地面が揺れる。
彼らを中心に、他の魔物たちもゴーレムと激しいぶつかり合いを繰り広げては、じりじりと右へと戦場を移動していった。




