66.骨の海に沈む
敵5万に対して、こちらはたったの7千。単純に数だけで言えばその戦力差は7倍だ。
それでも敵の出した骸骨兵は見た目通り1体1体は強くない。
戦いが始まってみれば砦で守りを固めるこちらの攻撃で骸骨兵たちは簡単に崩れ去っていく。
それを見て一瞬このまま行けば勝てるかもしれないと喜ぶ防衛隊だったけど、再び魔法陣から出てくる骸骨兵を見て自分たちの考えが甘かったことに気が付きだした。
「なぁ、あれってもしかして幾らでも出てくるのか?」
「いや、流石にそんなことは無いと思うんだが」
「ククッ、正解ハ魔力ト材料ガアル限リ無限ニ出セルノサ」
律儀にもこちらの疑問に答えてくれる敵の魔導士。
その手には杖の他に、いつの間にか大量の魔石があった。
つまり魔力はまだまだ尽きることは無いって事だ。
そうこうしている内に、砦に押し寄せた骸骨兵たちは死を恐れる心が無いのだろう。仲間の骸骨を踏み台にするように数にものを言わせて砦の壁を乗り越えてきた。
すると決壊したダムのように骸骨兵が砦の中になだれ込んでいく。
「うわっ、来るんじゃねえ!」
「クソ。押すな!つぶれっ」
抵抗虚しく押し寄せる骸骨に防衛隊が飲み込まれていった。
それはもう個の武力など関係ない人海戦術。砦が骨の海に沈んでいく。
このまま初戦は有効な反撃も出来ず完敗で終わるかに見えたがそうはならなかった。
「おらが居る限り、この旗は折らせねえだ!」
旗の前の細い通路に陣取ったマスオがハンマーを振り回して骸骨兵を押し返していた。
このまま行けばマスオの体力が切れるのが先か、戦争が時間切れになるのが先かの勝負になりそうだ。
しかしそこでようやく敵のもう1人の将軍が動き出した。
「フム、向こうにもなかなかに骨のある奴が居るようだな」
ニヤリと笑う骸骨将軍は3メートルはある剣を担ぐと前方を埋め尽くす骸骨兵を薙ぎ払いながら一直線にマスオの前へと駆け付けた。
「我は不死の国の将軍がひとり、ドロンボーン。ひとつお手合わせ願おうか」
「リュウジュ王国第2将軍マスオだ。誰が相手であろうと負ける訳には行かねえだ」
「その意気や良し。ならば受けてみよ!」
「おおおぉっ!!」
2人の大剣とハンマーがぶつかり合い、その衝撃で周囲の壁が破壊されていく。
その打ち合いが10を超えた頃には通路だったそこは、すぐに瓦礫が埋め尽くす広場へと変わってしまった。
お互い一歩も引かない攻防だが、マスオが肩で息をし始めたのに対してドロンボーンはまだまだ余裕そうだ。
不死者は体力という意味でも生身の人間よりも優位なのかもしれない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「フハハッ。人の身でありながら我と互角に打ち合うか。
なかなかに見所がある。ただまだ粗削りだ。
身体強化の魔法とスキルの併用なのだろうが、如何せんまだ腕の力に頼り過ぎだな」
「何を、言ってるだ?」
「全ての力を正しく使えば、これくらいは出来るという事さ」
「ぐはっ」
大きく踏み込んだドロンボーンの1撃がマスオを10メートルも離れた壁まで吹き飛ばした。
更に地面を砕くほどの踏み込みで空いた距離を一瞬で詰めるとその勢いのまま大剣を下から切り上げてマスオを天井へと叩きつける。
「パワーにスピード。それを1点に集約すれば、山をも砕く1撃となる。
冥土の土産に受けてみるがいい」
大上段に構えた剣を落ちてくるマスオに合わせて全力で振りぬいた。
「……え?」
それは誰から漏れた声だったのか。
全員の視線の先からマスオの姿が消えた。
それだけじゃない。砦にも直径3メートルの穴が外まで続いていた。
「フム、今ノヲ受ケテ尚死体ガ残ルトハ中々ニ丈夫ナ体ダ」
よく見れば最初の位置から移動していない魔導士の足元にマスオの姿があった。
どうやら今の一瞬であそこまで吹き飛ばされたらしい。
そしてマスオが敗れたことで第1の砦を守っていた者が全滅したことになり不死の国の勝利となった。
魔導士が骸骨兵を消し去れば後には砦を守っていた守備隊の死体が地面を埋め尽くしていた。
それを見て不死の王が厳かに声を上げた。
『ふむ。第1の試練は全員通過してしまったようだな。
ただこれは逃げなかったというよりも逃げる間もなかったといった感じだったね。
期待外れというべきか予想通りと言うべきか。
まあドロンボーンをあそこまで本気にさせたことは褒めてあげよう。
ドロンボーンの出番が無いことも想定していたからね』
冷静に評価を下す不死の王の言葉を聞きながら俺はマスオ達の姿を目に焼き付けていた。
誰が何と言おうと彼らを死地に送ったのは俺だ。
だから彼らの雄姿から目を逸らさないのは最低限の俺の義務だろう。
『さて、第2戦を始める前に30分だけ猶予をあげよう。
先の戦いを見て改めて逃げようと言う者が居るなら今の内だ。
私も暇ではないのでね。戦わずに逃げる者を追うようなことはしないと約束しよう』
不死の王の言葉を聞いたみんなは、しかし誰一人として動く者はいなかった。
みんな第1の砦の惨状に怒りや悲しみはあっても恐れてはいなかった。
むしろここで逃げ出す弱い心を恐れていたのかもしれない。
『無謀に立ち向かうは若さゆえか。
では次は更なる戦力差で蹂躙するとしようか』
そう言って不死の王が手を上げれば、第2の砦の前に今度こそ不死の軍団の本隊が姿を現したのだった。




