64.ふるいに掛けられる国家
領主館の各階の説明は第9話です。
若干勢い余った感じはありますが後悔はしません。
不死の王国が攻めてくる。
その情報は瞬く間に国内の全領地へと広がった。
それを聞いた市民の反応は大きく3つに別れた。
1つはただただ驚きあわてふためく人達。
「大変だ大変だ!」
「俺達はどうすれば良いんだ」
「誰か助けてくれ」
「きっと王様達が何とかしてくれるさ」
「俺は何も悪いことはしてない」
彼らは建設的な事はなにもせず、騒いで混乱を助長させるのみだった。
続いて急いで逃げ出そうとする人達。
「5つの大国から使者を招待出来た凄い国だって聞いたから来たのに、とんだ期待外れの貧乏くじだ」
「こんな国と心中なんてまっぴら御免だ」
それが彼らの言い分だった。
これらの人達は主に新規で俺の国にやってきた人達だ。
うちに恩も愛着も何もないだろうし仕方が無いだろう。
そして最後に文句ひとつ言わずに防衛戦の準備を進める人達。
彼らのほとんどはここが国になる前から一緒に頑張ってきた人達だ。
領主館の自室の窓からそれを見た俺は外に出てヨサクを呼んだ。
「みんなだいぶ混乱しているな」
「そうですね」
「今後は情報統制も考えて行かないとな」
情報の流出元はミークだ。
あいつが「大変にゃ大変にゃ!」って駆け込んできたから、戦争の事を口止めする間もなかった。
お陰で中途半端に話が伝わってしまった。
後でお仕置きだな。
「まずは全国民向けに告知を行う。
1時間後に行うので、集まれる者は中央広場に集まるようにと連絡してくれ」
「はっ、直ちに」
そうして集まった人達に向けて俺は演説を始めた。
ちなみにここに来れなかった他の村や領地にも放送が届くようになっている。
「国王のリュウジュだ。
混乱しているのは分かるが、これから言うことをよく聞いてほしい。
今流れている噂。不死の王国が攻めてくるというものだが、それは事実だ。
私は直接不死の王からその話を聞いた。
だが今日明日ではない。1週間後だ。
だからこの地を去る者は十分に準備をする時間があるから慌てなくても問題ないぞ」
戦争までに猶予があると分かると皆少しは落ち着いたようだ。
だけど安心するのはまだ早い。
「不死の王国と我が国が戦った場合、勝敗は時の運、ではない。
たった1週間の準備では何をどう頑張っても我々に勝ち目はない。
向こうが本気なら1時間と掛からずに壊滅させられる事だろう。
こちらとしては向こうに少しでも被害を出せたら拍手喝采ものだ。
不死の王が提示したこの1週間という猶予も逃げたければ逃げろという意味なんだろう。
逆を言えば残っているなら女子供でも容赦しないという事だ。
ここまでの話を聞いて死にたくない、逃げたいと思った者は3日以内にこの国を出てほしい。
友好国である天上王国なら難民の受け入れもしてくれるだろう。
俺を含め誰もそれを咎める事はしないし、無理に残ってくれと引き留める事もしない。
自分達の命をどう使うのか、自分でよく考えて決めてほしい。
俺からは以上だ」
俺の放送が終わると同時に、最古参の村人が中心となって、引き留め行為はしてはならないと改めて通達して回ってもらった。
お陰で期限の3日が過ぎた頃には国の人口は約半数にまで減っていた。
出て行ったほとんどがプロステイン領とルクセン領の住民だ。
喜んでいいのか悲しむべきなのか、サカガミ領からはほとんど離れた者は居なかった。
そして困ったのは妊婦や子供などの非戦闘員が残っていることだ。
「お前達は逃げなくて良かったのか?」
「はい。私達はこの国と共に生き、そして死んでいくと決めていますから。
お腹の子もそれを望むでしょう」
「ちちうえといっしょに、くにをまもります!」
むんっと気合を入れる幼稚園児くらいの子供の頭を撫でながらその親子に告げた。
「その意志は嬉しいが、前線には出るな。子宝はその名の通り国の宝だ。何としても生き抜け。
子供達も両親が国を守るために戦うなら、子供は戦えない母親達を守るのが仕事だ。しっかり頼むぞ」
「「はい!」」
そうして残ったもの達に改めて放送を行った。
「諸君。俺はこれだけ多くの人が残った事に驚きを隠せない。
みんな馬鹿だ。死にたがりのバカ野郎だ」
「なら陛下も今ここに居るってことはバカ野郎って事ですね!」
「ああそう言うことだ!」
誰かが入れた茶々を胸を張って答えればそこかしこで笑いが起きた。
「そう言えばまだ、王として皆に命令を下したことが無かったな。
王の命令は絶対であり破ることは許されない勅命ってやつだ。
せっかくだから今のうちに使っておこう。
耳をかっぽじって良く聞け。
リュウジュ王国に生きる者よ。我リュウジュの勅命である。
『死ぬな』
こんなくだらない戦争如きでお前達を失うのは国として大きな損失だ。
精々生きて生きて生き抜いてやれることをやり抜いて、それからやっと死ね。
中途半端に生きて中途半端に死ぬなんてことは許さん。
それは次の戦争が終わった後もだ。
お前達の中にはこの戦争で国の礎になって死ぬんだ、なんて考えてた奴もいるかもしれんがそんな楽はさせてやらないから覚悟しておけ!」
「「はっ、喜んで!」」
全国民が背筋を伸ばして敬礼するのを見た後、俺はその場を後にし領主館の自室へと戻った。
ドカッとソファに座って休んでいると、ドアのノックと同時にミツキが部屋に入って来た。
「お疲れ様、お兄さん」
「おう。どした?」
「うん、ちょっとね」
そう言いながらミツキはお茶を淹れてくれた。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
ミツキはそのまま俺の隣に座りチビチビとお茶を飲みながら上目遣いに俺を見てきた。
何か気掛かりなことがあるのか、俺に何かを伝えたいのか。
コトンっとカップを机の上に置くと、ようやくミツキは話始めた。
「それで、勝ち目は本当に無いの?」
「無いな。戦力差があり過ぎる」
「そっかぁ。先日見た王様は見た目怖いけど優しい人だと思ったんだけどなぁ」
「個人としての顔と王としての振る舞いは別ってことなんだろう」
今回の件で不死の王が何を考えているのかははっきりとは分からない。
手術の成功率はほぼないとも言っていた。失敗すれば滅亡だとも。
それにあの王のことだ。戦となれば手加減などしないだろう。
それに向こうからしたら別に失敗しても何の損失も無いしな。
「それより、ミツキは逃げなくて良かったのか?
さっきはああ言ったけど、ここに居たら冗談じゃなく死ぬことになるぞ」
本当はミツキには逃げて貰いたかった。
ミツキとはもう何カ月も一緒の家で暮らしてきたし、肩を並べて戦場を駆け抜けたこともある。
だからそれなりに情が湧いているし出来れば幸せになって欲しい。
それにミツキは元領主だからこの国が滅んでもまた1から領主として再興できる可能性がある。
先日の建国祭の時にシルクさんとも面識を作れたから今度はその傘下に入れてもらえればある程度安泰だろう。
そんな俺の想いをよそにミツキはあっけらかんと言うのだった。
「いいよ。元々事故で1回死んでるんだし。
それにお兄さんを一人置いて行くのも嫌だしね。
後はそう。ちゃんと心残りは無くさないと死んでも化けて出てきそうだから」
「心残り?」
冗談めかして言うミツキは、顔を赤らめながら俺の首に抱き着いて耳元で囁いた。
「お兄さんは領主館の3階に住む意味って知ってるんでしょ?
あたし何時来てくれるのかなって、ずっとドキドキしながら待ってたんだからね」
それを聞いて今度は俺が顔を赤らめる番だった。
この後どうなったかはご想像にお任せします。




