63.国が罹る流行り病
シルクさんとの会談を終えて久しぶりにゆっくりと自分の村、いやもう街だな。その様子を見ていてふと違和感を覚えた。
(……あれ、以前と何かが違う?)
いや違うって言ったら街並みも様変わりして規模も膨らみ人口も増加している。
俺の創った国だから専業兵士の姿はなくみんな村人……いやこれも村じゃないから何て呼ぶか。
「平民、でしょうか」
俺の疑問にヨサクが答えてくれた。
平民、平民かぁ。
なんだろう。確かに彼らを見てるとその言葉がしっくり来るんだけど、なにかこう、なぁ。
喉元まで出かかってるんだけど、あとちょっとが出てこない。
「ヨサクやマスオは何か感じないか?」
「いえ、特には」
「いつも通りだべ」
「ミツキはどうだ?」
「うーん、あたしもお兄さんが何を言いたいのかちょっと分からないかな」
「そうか……」
俺の勘違いなのか、俺のほうが変なのか。
少なくとも街を行きかう人たちはみんなそれなりに幸せそうだし、子供連れの親子がのんびりと散歩していたりと実に平和だ。
先日ワカメも無事に出産を終え、元気な男の子にマスオの親ばかっぷりが大変なことになっている。
というかこの世界では子供が生まれるまでに半年もかからないらしい。
さらに半年で成人、この場合は15歳くらいまで成長するという。
ベビーラッシュかと思ったらすぐに新成人ラッシュが来るってことだ。
子供時代が短いのは寂しい気もするが、そこを俺の力でどうすることも出来ない。
「親子連れが増えた事が原因か?いや独り身の人からももやっとするものを感じるな」
うーん、やっぱりわからないな。
こういう時は全く違う視点でアドバイスをくれそうな人に相談してみるか。
「はははっ。それで私のところに来たのか」
カラカラと笑う不死の王。
いやだって仕方ないじゃないか。
俺の知る限り、この人以上に人生経験豊富な人がいない。
ひとしきり笑った不死の王は嬉しそうに頷いた。
「よしよし。予想以上に早く気付けて良かった言っておこう」
「ということは、あなたにはもう俺の国で起きている現象が何か分かったのですか?」
「ああ。思い当たることは幾つかある。
そのどれかか、すべてか、言えるのは放置しておけば大災厄を前に内部崩壊を起こす可能性があるということだ」
そんなにか。
先日の建国祭の時はべた褒めだったのに、あれからたった1か月でそこまで国が傾いていたのか。
「あの、それはいったい何なのですか?」
「まあそう慌てるな。
まず聞くが君はこの1か月の間、何をしていたのかね?」
「事務作業です。朝から晩まで執務机に張り付いて寝る間も惜しんで書類と格闘してました」
「そうかそうか。では1か月、国民と交流を持たずに引きこもっていたわけだ」
「はい。もしかしてそれが原因ですか?」
「うむ。それが原因でもあるが、いち早く気付けた理由でもある」
どういうことだろうか。
「君は植物の観察日記を付けたことはあるかい?」
「えっと子供のころに教育の一環としてやりました」
「うむ。では毎日観察していてもほとんど変化はなかったんじゃないかね?
だけどちょっとさぼって1週間空けて見るといつの間にか新たな芽が出ていたり花が咲いていたりしただろう」
「確かにそうですね」
「しかし放置していたら雑草だらけになったり無駄な脇芽が出ていたり、右に左に曲がりくねって酷い見た目になってしまっているかもしれない。きちんと世話をしていた友達とは違ってね。
それと同じさ」
つまりみんなは毎日見ていたから日々の小さな変化の積み重ねに気付かなかったし、俺は時間を空けたから気付けた。
でも俺が関わらなかったから、今の危険な状態に陥ってしまったということか。
「じゃあ俺がちゃんと目を掛けていたら問題は起きなかったってことですか?」
「いやそうとも言えない。
たとえ君が頑張っていても、やはり問題は起きていただろう。
それは急拡大した国家には避けては通れない問題だ。
もう病気と言ってもいい。この世界に限らずどこでも発症しうる病気だ。
麻疹のように1回罹れば免疫が出来るか、癌のように治療しても再発を繰り返したり次々と転移するかは分からないがね」
しみじみと語る不死の王は、きっと自分の過去を思い出しているんだろう。
それにしても病気かぁ。あ、だから早く気付けて良かったってことか。
病気は早期発見、早期治療が肝心だものな。
そしてここまでの話から考えて俺が感じた違和感は、国が俺の期待していない方向に成長してしまったから感じたものなんだと思う。
……でもそれはそんなに悪いことなんだろうか。
俺は子育ての経験はないけど、子供が親の期待通りに成長しないというのはよく聞く話だ。
それでも子供はしっかりと成長するのだから必ずしも悪いこととは言えない気がする。
不死の王にそのことも確認してみた。
「国造りと子育ては別だね。
子供は成長すれば親から離れていくが、国は切っても切り離せない謂わば我々王の体のようなものだ。
体に好き勝手成長されて、右足が4メートル、左足が1センチでは歩くことも儘ならないだろう?」
「それは困りますね」
「まあ折角そういう表現が出たので、体に例えてどんな病気なのかを言えば、急激に大きくなった国家には様々な血液が混ざり合って流れドロドロに濁っているんだ。
そして安定した国家に慢心した国民はブクブクの脂肪と同じで、メタボに成って糖尿病直前だ。
こうなったら死ぬ気で体質改善をするか、大手術をするか。何もしなければ腐って果てるだろう」
あぁ、そうか。
俺が自分の街を見て感じたのはそれだったんだ。
俺は全員で村づくりも戦いも一丸となってやり遂げていく国家を目指していたけど、新規の民はまだその考え方が浸透していない。
だから既存の住民が特別で新規の住民は普通なんだという双方向の差別意識が生まれてしまう。
平和を謳歌するを通り越して平和に胡坐をかく国民の姿。これも違和感の元だったんだ。
不死の王の言う通り、このままでは危険だな。
「ちなみに大手術ってどうするんですか?」
「やるかい?やるなら手伝うよ」
俺の質問には答えず、やるかどうかだけを聞いてくる不死の王。
ニヤリと笑うその悪い顔からは副音声で「チャンスは一度きりだぞ」と聞こえてきたのはきっと気のせいじゃないと思う。
頭の中で本当に大丈夫かと葛藤が過るが、自力で解決出来るか分からないし、解決するにしても時間が足りないかもしれない。
ならば多少危険はあっても俺は頭を下げた。
「お願いします」
「わかった。
では私の不死の王国は、リュウジュ王国に攻城戦を申し込むとしよう」
「…………え?」
「手術の成功率は1%も無いだろう。失敗は君も含め王国の滅亡だ。
精々滅ぼされないように生き足掻くことだな」
実に楽しそうに去っていく不死の王。
あれ、俺もしかして死亡フラグを踏んだ?




