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62.先達の話を聞いてみよう

建国祭は大盛況のうちに幕を閉じ、各国の王たちも自分の国へと帰っていった。

帰り際にシルクさんと不死の王とはまた後日会談する機会を設ける約束をし、チックルちゃんは「しばし待たれよ!」と謎の決めポーズを残していったのはきっとそういうお年頃なのだろう。

そして残ったのは祭の跡。

全ての領地で大々的に祭をやったので当然片付けも大変だし消費した食料の確認なども必要だ。

と思ったんだけど、その辺りはヨサク達がやってくれるらしい。

代わりに俺は俺でやる事が山積みだ。


「さあ陛下。本日中にこの書類の確認をお願いいたします」


まさに山と積まれる書類。

内容は資材の配分、人員の配置、村や町の増改築の確認、新規領地から編入された兵士の教育計画書、王城建設の草案などなど。

イメーコがなかなかにいい笑顔で俺を攻撃してくる。


「いやぁ、面倒なのはいやだなぁ~っていう私を宰相にしたのは陛下じゃないですか。

仕方ないですから、任された仕事はキッチリこなしますよ~。ということで書類追加です」

「ぐ、他に適任が居なかったんだから仕方ないだろう」

「そうですねぇ。これまでは領地を存続させることでいっぱいいっぱいでしたから。

でも国になったのですから今後は運営にも力を入れて行ってもらわなければなりません。

最低限の法律を作らないと、国民は好き勝手に動きますからね」


組織が大きくなれば全員一丸となるのは難しくなるし、末端まで意思を正確に伝えるのも大変になる。

でも最初にしっかり整えておかないと後からではどうにもならないのも事実だからな。

生みの苦しみという奴だ。

そうして1月もの間、俺は休む間もなく書類と格闘する羽目になった。

お陰で何とか書類地獄からは抜け出せたと思う。


「なるほど。それでそんなにお疲れなんですね」


お茶を飲みながら深く息を吐く俺を見てシルクさんは可笑しそうに笑っていた。

今日は気分転換も兼ねてシルクさんの元を訪ねているところだ。

シルクさんは大国の女王なので俺以上に忙しいんじゃないかと思っていたが、手紙を送った2日後にはこうして時間を作ってくれていた。


「やっぱり慣れないことをすると大変ですね」

「そうですね。私は今でも大変です」


そういうシルクさんからは何というか年季みたいなのが感じられる。

というか、大国に名を連ねるほどなんだから、実際に何年何十年と苦労をしてきたんだろう。

あ、何十年は言い過ぎか。どう見てもシルクさんは俺と同年代だし。


「女性に歳の話をするのは失礼かもしれませんが、シルクさんがこの世界に来てから随分経つんですよね?

とすると、最初はそれこそ中学生とか高校生くらいですか?」


流石に小学生って事は無いだろうと思って聞いてみたら、シルクさんは一瞬キョトンとした後にポンっと手を叩いた。


「そっか。リュウジュさんはまだこの世界に来てから日が浅いんですものね。

この世界では領主や王と言った、つまり別の世界から来た人は歳を取らないんです。

なのでここでは『永遠の17歳』みたいなのがリアルに言えるんですよ。

それにダンジョンで見つかるマジックアイテムの中には年齢を変えられる『赤いキャンディー』とか『青いキャンディー』なんて言うのもあります」

「なるほど、そうだったんですね」


見た目年齢と実年齢は全くの別物って事なのか。

ただちょっと気になるのは『あめイジング』もそうだけど、この世界は飴が好きなのか?

そのうち性別を変えられたり、姿や種族を変えられる飴なんかも出てきそうだな。


「ところで、先日の建国祭はもしかして前の世界のお祭りを真似たのですか?」

「あ、やっぱり分かりますか。

シルクさんもどこか懐かしそうにされていたので同じか近い世界の出身なんだと思ってました。

『日本』って言ったら通じますか?」

「ええ。私も日本人でしたから。まさかこんなところで同郷の人に会えるなんて驚きました」

「ほんとですね!

ちなみに建国祭の時にシルクさん達を案内していたミツキって女の子も日本人なんですよ」

「そうなんですか!?羨ましい。

私なんて、いま初めて同郷の人に会えたんですよ」


奇しくも同郷だったと分かってテンションが上がる俺達。

更に懐かしの日本の話で色々と盛り上がってしまった。

飲み会や合コンでも出身が同じだと地元トークで盛り上がるけど、まさにあんな感じだ。

ミツキの場合は同じ日本人でも年代が違ったけど、シルクさんとはそれも大体同じみたいだ。


「じゃあシルクさんも飛行機事故がきっかけでこの世界に来たんですね」

「ええ。リュウジュさんもなんて凄い偶然ですね!」

「なんかここまで同じだと他人って気がしないですね」

「本当に」


生き別れの兄妹とまでは行かないけど、かつて背中を預け合って死線を潜り抜けた戦友とかそんな感じだ。

共感がハンパない。

と、そこで良い事を思い付いたって感じでシルクさんが手を合わせた。


「あ、そうだ。折角なので同盟を結びませんか?」

「同盟、ですか?」

「そう。リュウジュさんにとって悪い話では無いと思うんですけど」


寄り親寄り子と違って同盟は対等な共存関係、なんだけど力関係に極端に差がある場合はどうなんだろう。

俺にとっては良い話かもしれないけど、シルクさんにとっては何の旨味も無いんじゃないだろうか。

そうなると一方的に利益を受け取る状態になる訳で、人それをヒモと呼ぶ。

それにぽっと出の弱小国家が大国と手を結んだとなると周りの僻みも激しいだろう。

負の感情が俺にだけ向けば良いけど、シルクさんの方にも多少なりとも行くと思う。

それは俺の望むところではない。


「ここはひとまず友好国くらいで手を打ちませんか?

それで俺の国が世界的にも認められるくらいになったら改めて同盟を結ぶという事で」


俺の言葉を聞いて何を懸念しているか理解したシルクさんは渋々頷いてくれた。


「……分かりました。でもそれなら急いでくださいね」

「急ぐ、というのは?」

「はい。早ければ半年後。遅くても来年には大災厄が起きると予想されていますから。

今のままでは相当厳しいと思います」


大災厄……そうか。

人間や魔物との戦争だけじゃなく、そっちもあったんだった。

というか、こういう時って共通の敵が居るんだから人間と魔物で手を組んで対処するとかしないんだろうか。


「大国同士で同盟を結んだりはしないんですか?

その方が災厄への対応も楽ですよね」

「ええ、何十年か前にはあったそうですよ。

でも結果は足の引っ張り合いや責任の押し付け合いで喧嘩になって同盟は崩壊。

大災厄の最中なのに各地で人間同士の戦争も頻発して被害は甚大。

大災厄が終わる頃には体制を維持できなくなった大国が分裂を起こして戦国時代に突入することになったそうです。

以来、大国同士では組まないのが暗黙の了解ですね」


どこの世界でも人間のやることは変わらないってことか。

ましてこの世界の国のトップは元日本人だったりそれなりに教養のある人間だ。逆を言えば悪知恵も働く。

他人よりも幸福になるのは、自分を豊かにするより他人を不幸にする方が早くて楽だ。

それに俺がこの世界に来て最初に感じた『ゲームみたいだ』というのを他の人も感じていたなら、より一層他人に勝つことを意識してしまうだろう。

幸いシルクさんにそういった感情は無いように思える。


「出来ればリュウジュさんの国が大きくなっても争わずに済めば良いのですが」

「大丈夫ですよ。

たとえ世界や神がそれを望んでも俺達がそれに従う必要は無いんですから」

「そう、ですね」


シルクさんはまだスッキリとはしていないようだったけど、それ以上は言わなかった。

もしかしたらまだ俺が知らない何かがあるのかもしれない。


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