58.さまざまな家族たち
新たに増えた2つの領地を見て回った後は、改めてサカガミ領へと戻って来た。
うちの領地は大きく分けると最初から俺が居た人間の村と、ミツキが居た獣人の村、そして後から吸収合併のような形で増えた人間の村の他に、魔物たちが暮らす集落と、ゼフ達魔獣が生息する地域が出来ている。
人間の村や獣人の村はなんだかんだで俺が持ち込んだ文化が浸透してきたので心配はしていない。
気になるのは魔物と魔獣だ。
魔物は幸いにしてある程度は言葉が通じる。
それにうちの仲間になってくれた奴らは穏やかな気質の者たちが大半なので今のところ大きなトラブルは無い。
「やあみんな。元気にやっているかい?」
「これは主様!お陰様で皆仲良くやっております」
出迎えてくれたのは身長が3メートルを超えるグレートトロル。
彼は先日の遭遇戦で領主館を守る任務を見事やり遂げてくれた奴だ。
あの時はまだ普通のトロルだったけど、それから進化を果たして上位種になっていた。
お陰で言葉遣いも流暢だ。
「戦があれば先日頂いたこのこん棒で次も敵を蹴散らしてやりますよ」
ブオンッブオンッと景気よく振り回すのは大きなトロルより更に大きい大木を要所に金属で補強して持ち手を作ってやったものだ。
重量もかなりのはずだが、まるで小枝のように軽々と扱っている。
「おいおい、周りに迷惑かけないように気を付けるんだぞ」
「おっとすみません」
「それより、いつの間にかまた増えたのか?」
村の中にはゴブリンやオーク、オーガ、トロルの他にも下半身が蛇のナーガや背中に羽の生えたインプかグレムリンなんかも居る。
一体どこからやってきたんだろうか。
「彼らはここの噂を聞きつけてやって来たみたいです。
恐らくは集落のランクが上がったことがきっかけでしょう」
そうか集落にもランクなんてものがあったのか。
人間の村だって、ただの小さな村から領地を代表する村になったり領都、つまり都と呼ばれる大きさになったり、果ては国になるんだから魔物の集落も同じようなものだろう。
ここだって既に2千人規模にまでなってるんだから場所が場所なら一帯の領地を治めていても不思議じゃない。
「後は主様の人柄のお陰でしょうな。
集まってくる奴らもみんないい奴ですよ」
「俺だけの力じゃないさ。
先に暮らしているお前達が良い奴だから、ここなら安心して暮らせるって思ったんだよ。
類は友を呼ぶとも言うしな」
それにしても実ににぎやかだ。
人間と違って魔物はその種族ごとに得意分野が違うようなので、人間以上に共同作業が捗るようだ。
大きいものはトロル達が動かし細かい部分はゴブリンが作業して木の上などの高いところには羽のある種族が率先して協力している。
「ところで何か困っている事は無いか?」
「そうですなぁ。集落の中は特にないですが、他の所とあまり交流を持ててないのが残念ですね」
「ん?ああ」
他と言えば人間の村だ。
元敵対関係にあったんだ。同じ国民だからと気安く遊びに行く訳には行かないか。
何かきっかけを作ってやる必要がありそうだな。
「なら今度、運動会でもやるか」
「運動会?」
「そう。人間と魔物と魔獣をごちゃまぜにしてチームを作って、リレーをやったり狩りの成果を競ったりな。
そうすれば仲間意識と一緒にお互いの良いところも見えて仲良くなれるだろう。
他の村に友達が居るなら今後は気軽に遊びに行けるようになるだろうしな」
「おおっ、それは良いなぁ」
「ま、すぐにとは行かないから少しだけ待っててくれ」
「分かった。あー、いや。俺達でも今から出来ることをやってみるよ」
「そうだな。共に出来ることに全力を尽くそう。そうすればきっと何でもできる」
「はいっ」
力強く頷く彼を見ると頼もしいと共に嬉しくなる。
と、そこで集落のみんなに見つかってしまった。
「あ、主様だ!」
「ほんと、主様~~」
「主~~~遊ぼう~~」
わあっと集まってくるゴブリンを始めとした集落のみんな。
彼らは人間以上に出産と成長が早い。
今集まって来たのもこの集落で生まれた子供たちだろう。
「仕方ないなぁ。ちょっとだけだぞ」
「やった~~」
「やった~~~~」
「じゃあ、みんな。突撃~~~」
「……え?」
「「わあぁ~~~い」」
どの子が言ったのか、ひとりの掛け声と共に飛び掛かってくるゴブリンにオークにハーピーにその他たくさんの子供たち。
俺は逃げ回りながら飛んでくる子供たちを投げ飛ばす。
投げ飛ばされた子供は新手のアトラクションだと言わんばかりに楽しそうに悲鳴を上げている。
着地もきちんと受け身の練習をしてあるから問題ない。
気が付けば大人たちもやってくる始末だ。
「ミツキ、ヨサク。応援を要請する!
近隣の村から暇そうな奴ら引っ張ってきてくれ」
もう運動会でも何でもないけど、こうしてみんなで遊んでれば仲良くなれるんじゃないのか。
って、重いって。オークは子供でも60キロあるんだから飛び乗ってくるんじゃない。
そして翌日は仲良くなった魔獣が多く生息する森へとやってきた。
魔獣はゼフなどの一部を除いては森の中に好んで住み着く。
まぁどうやら魔獣になる前は普通の動植物だったみたいなので、自然の中が一番って事なんだろう。
驚いたのは犬や鳥など、曰くペットとして飼えそうな生き物からナメクジや食虫植物など、そもそも意思の疎通も無理だろうと思える魔獣たちも居る事だ。
「……確か大災厄で世界を混乱に陥れるのも魔獣だって話だったよな?
皆を見てるとそんな危険な存在には見えないんだけど」
「バウ?」「きぃ?」「クルルッ」「シャーッ」
蛇と蛙が一緒に居たり魔獣になったから食物連鎖から外れてしまったのかもしれない。
もちろんサイズが1メートルを超えてたり鋭い牙や角があったりする。
でもやっぱり楽しそうに飛び回っているのを見ると動物園の中に迷い込んだ錯覚も覚える。
ただ、やっぱりただ温厚な存在という訳ではない。
「報告します。近くに敵対する魔物の集落が出来たそうです」
「そうか……」
「バウッ!」
「キキーーッ」「ガルルッ」「キシャーッ」
俺が動くよりも先にゼフ達が飛び出していく。
1000体近い魔獣が突撃すれば200人規模の集落ならあっという間に押しつぶされてしまう。
その様子を見れば確かに彼らの大軍に襲われれば多少大きくても人間の街だって一溜りもないだろうなとも思う。
「でもならどうして俺達とこんなに仲良くしてくれるんだろうか」
「フミュゥ」
うーん、分からないな。
何となく居心地が良いと思ってくれているようだけど、その理由は今一つ分からない。
まぁいっか。
お互いに助け合いながら幸せに生きていけるなら些細な理由なんて気にしなくても良いだろう。
もしかしたら大災厄の時には敵対することになるのかもしれないけど、そうなってから考えよう。
少なくとも今は彼らも俺の仲間であり家族だ。




