57.地方遊説
思いがけず3つの領地を管理下に置くことになり、ミークの提案で国へとランクアップすることにした。
でもその前に改めて改めて各領地の様子を見ておきたい。
特にルクセン領は棚ぼたで手に入った領地で、俺自身はほとんど顔すら出してない。
これで明日から同じ国民で俺が王様だって言っても「へー」で終わりだろう。
やはり人間関係の構築は顔を突き合わせてやるに限る。
そう思ってルクセン領の領都にやってきたのだけど。
「これはこれは陛下自らご足労頂けるとは感激の極み。
さぁ陛下こちらへ。歓迎の準備は出来ております」
転移門で移動してすぐにずらっと伏礼で待ち構えられていた。
そして連れていかれた先では豪華な歓迎の宴が行われる。
沢山の料理に大勢の女性が俺の周りを囲む贅沢。
それを見て俺はやっぱり来て良かったと思ったのだった。
「この地を元々治めていたのはさっき挨拶してくれたお前か?」
「は、左様に御座います」
「そうか。なら一度その任から解く」
「は?」
俺の言葉が理解出来なくて呆然とする男性。
だけどまぁ仕方ないだろう。
彼としては最上級のもてなしをしたつもりなのだから。
「先に言っておくが、別に怒っている訳ではないから」
「は、はぁ」
「ただ俺の方針と真逆だったから、一度ゼロから俺のやり方を学んで見てほしい。
その上でなお今と同じ価値観で生きたいのであればそれ相応の役職を考えるから」
「わ、わかりました」
まだ何一つ納得出来てなさそうだったけど仕方ない。
彼らはそういう生き方をしてきたのだから。
後は周りにいる女性陣もだな。
「君達も俺の国では可愛いだけでは生きていくのは厳しいから頑張るんだよ」
「わ、私達もですか!?」
「うん。肉体労働や泥臭い仕事もやってもらおうと思ってる」
「……それはこの国では美しさは評価されないと言うことでしょうか?」
つり目が特徴的な少女が尋ねてくる。
それに対して俺はニヤッと笑い返す。
「少なくとも言われたことにただ従うお人形はそれ以上の価値はないな。
はっきり言っておくが、美しさが評価されるかといえばされる。
でもそれは10科目あるうちの1つが100点満点だというだけだ。
他の9科目が0点では意味がない。
美しさを活かすためにも他の能力も必要だと思うがどうかな」
「そうですね。
ならそれらを身に付けた上で改めて私の美しさを評価して頂きたく思います」
そう言って恭しく礼をする少女。
どうやら既に美しさだけでなく気品も身に付けているようだ。
「君の名前は?」
「まだありません」
「では今後はコチョウと名乗るといい」
「はいっ」
力強く頷くコチョウに見送られて外に出た俺はサカガミ領から出向してきてるメンバーに声をかけた。
「お前たち分かっているな?」
「はっ!」
「俺は全部を壊せなんて言わないし、全部を取り入れろとも言わない。
だが壊さなければならないところは心を鬼にして壊せ。
今の時点で妥協はしなくていい。
富や名声だけじゃなく、心も豊かに幸せな国になるように全力を注いでくれ」
「承知致しました!」
その後、領都を離れて小さな村にも顔を出してみた。
ただこの世界。元の日本とは違って田舎だからと言ってその土地固有の永い歴史がある訳じゃない。
むしろ歴史の浅い生まれたての村ばかりだ。
お陰で素直で癖があまりない。
「あとでこっちにも指導員を送るようにするから、そうしたらもうちょっと畑も効率的に耕せるようになってもっと美味しいものも食べられるようになると思うよ」
「ははぁ~。ありがとうございます~」
まぁさっきとは違う意味で頭が低いけど。
これは多分時間が解決してくれるだろう。
ルクセン領を見た後はプロステイン領も見て回る。
こっちは何というか規律が厳しい軍事国家という感じだ。
この世界に争いごとは無くならないし、軍事力があるに越したことは無い。
だから彼らには軍事訓練の一環として農業や林業をやってもらうようにすると精神的にも安定するようだ。
ただちょっと問題な点と言えば、いちぶ村人を見下す奴が居るようだ。
仕方ない。
「ちょっと模擬戦をしようか。
サカガミ領から村人を100人と、プロステイン領で腕に自信のある奴100人だ。
武器は木製のもののみ許可する。防具は自由だ。
見事プロステイン領が勝てば何か褒美を出そう」
「「おおおっ」」
湧き上がるプロステイン領の兵士たち。
我先にと手を挙げた中から適当に100人選び、サカガミ領からも古参メンバーに100人来てもらった。
「いいか。無用な追撃は禁止だ。殺し合いではないから間違えるな。
特にサカガミ領のみんなは加減を間違えるなよ」
「チッ」
俺の追加の言葉にプロステイン領の兵士たちは面白く無さそうな顔をした。
まあ今は仕方ないだろう。
理由はすぐに分かる。
「では両軍構え。はじめっ!」
「「おおっ!!」」
両軍が一気に駆け出しぶつかり合った。
片や全身重甲冑の兵士たち。片や皮鎧に身を包んだ村人たち。
重量という意味では実に倍近くの差があるだろう。
しかし最初の1撃で吹き飛んだのは兵士たちの方だった。
「はっ?」
模擬戦に参加できずに観戦していた兵士たちの口が塞がらない。
更に木刀によって破壊されていく金属鎧たち。
ちゃんと手加減していたようで中の人は軽傷で済んでいるようだけど、改めて自分の持っている半ばから切られた木刀を見て首を傾げていた。
「よし、そこまで!」
開始から10分で模擬戦は終わってしまった。
もちろん村人たちの圧勝である。
「次の100人、前へ出ろ!」
「は、え?」
「なんだ。さっき出たがっていただろう。
今なら彼らは連戦で疲れているかもしれないから勝機はあるぞ。
ほら、早くしろ!」
「は、はい!」
そうして都合5連戦を行って村人側で脱落したのはたった10人だった。
「すみません。最初に飛ばし過ぎました」
「まだ同時は3人が限界でした」
「プロステイン領の兵士もなかなかやりますね!」
朗らかに笑いながら彼らは戦った兵士たちと握手を交わして帰っていった。
これでプロステイン領の意識も少しは改善されたらいいのだけど。
だめだったらまた何度でもコテンパンにのしてやればいいか。
領地人口:
サカガミ領 :約10000人
プロステイン領:約30000人
ルクセン領 :約15000人




