51.夜陰に蠢く者
ヨサクに本隊を任せた俺は森の中に潜んでいた。
その遠目に獣道よりもちょっと広い程度の道を歩きにくそうに敵の兵士たちが進んでいるのが見えた。
狙いはその先頭より少し後ろの位置だ。
俺達は40人ほどで長弓を引き絞って矢を放った。
その際、弓と矢に強化魔法を付与しておくのがポイントだ。そうすることで飛距離も威力も格段に上がる。
お陰で敵は鉄の鎧を纏っている筈なのに貫通してしっかりダメージを与えている。
「敵の一部が迎撃に来ます」
「よし下がるぞ」
「はい!」
迎撃に来た敵は200人ほど。
近付く敵に更に矢を放ちながら後退すれば敵はまんまとこちらだけを見て追ってくる。
「――っ!」
「なっ、がはっ」
そこへ罠と一緒に隠れていた残りの仲間が一気に襲撃。
1人も逃がさずに息の根を止めた。
「よし。上手くいったな。敵が大外から回り込んでくる気配はないか?」
「はい、大丈夫です」
「なら襲撃ポイントを変えながら日暮れまで繰り返すぞ」
「はいっ」
俺達がチクチクと襲撃を掛ければそのたびに敵の追撃部隊は足を止め、迎撃部隊を出してくる。
こちらが少数だと誤認させているから仕方ないんだけど、いっそ1000人位を迎撃に出せばこちらも逃げるしかなくなるのになと思ってしまう。
「ミツキ様達の方は上手く行ってるでしょうか」
「確認する術は無いからな。信じよう」
ミツキ達には反対側から同じように敵の進行を遅らせる為にちょっかいを掛けてもらっている。
敵の様子を見るに、俺達が仕掛けていない時にちょいちょい行軍が止まっているみたいなのでまだ無事だとは思うが。
そうして日が暮れる。
これ以上は敵が別動隊を出して俺達の背後を囲もうとした時に気付くのが遅れるのでこの作戦は終了だ。
位置的に考えてそろそろ川のある場所だし、ヨサク達は無事に川の向こうに渡る頃か。
とその時。隠れている俺達の元に単独で近付いてくる影があった。
「領主様」
「隠密隊か。どうした」
「はっ。幾つかご報告があります。
まずヨサク様率いる本隊は無事にイメーコ様が派遣した後詰め隊1000人と川を越えたところで合流しております。
重傷者はそのまま領都まで搬送し、残りは迎撃の為に陣地を形成しております」
「後詰め隊か。特にそんな指示は出していなかったが流石イメーコだな。助かる」
「それとゼフ様率いる魔獣隊200とハトリ様率いる隠密隊の内、実戦部隊100も今夜中に到着する見込みです」
「至れり尽くせりだな。
……よし。各隊に連絡を頼む。今夜中にケリを付けるぞ」
「はっ」
後の動きを指示した後、俺達は敵の残した鎧を身に纏って夜陰に乗じて敵部隊へと潜入を試みる。
さっきの迎撃部隊のフリをすれば良い感じだろう。
敵の兵士は俺達を見ても特に違和感を感じていないようだ。
そもそも横の繋がりが薄いのか個別認識していないのか。まぁ顔まで兜で隠しているこの姿だと誰が誰かなんてすぐには分からないか。
「報告します。右手の森に潜んでいた敵部隊の殲滅に成功しました」
「そうか」
敵の将軍と思われる男に報告をするとあっさりとした返事だけが返って来た。
向うからしたら俺達なんて煩い蝿みたいなものだろうからな。
と思ってたら反対側からも報告に兵士が数名やって来た。
って、先頭にいるのはミツキか。
「ほうこ……」
「おっと、足が滑ったーー」
「むぐっ」
口を開こうとしたミツキに飛び掛からんばかりに覆いかぶさった。
かなりわざとらしかったけど、大丈夫か?
「何をやっている馬鹿が。
おい、その隣にいる奴。代わりに報告しろ。何があった」
「あ、はい。左手の敵勢力も無事に殲滅が終わりました」
「そうか。ならお前達はさっさと列に戻れ」
「はっ」
将軍はもう関心がなくなったようでそのまま先へと進んでいった。
(あぶないあぶない。あとちょっとで潜入がバレるところだったぞ。
ミツキは女の子なんだから。気を付けないと)
(お兄さん、女性差別反対!)
(そうじゃなくて、敵兵に女性はほぼ居ないんだよ。うちの領地と違うんだから)
(あ、そっか。忘れてた)
小声で説明するとミツキも納得してくれた。
この世界は男尊女卑というか、兵士は男が成るものって認識が強い。
女性兵が居たとしても輜重隊とかに回されて金属鎧のフル装備は支給されないだろう。
だから体格はともかく声は怪しまれる。
敵軍に潜入した俺達600人は列の最後尾に続いて行った。
そして川に到着。
よしよし、報告にあったとおり、無事にヨサク達は対岸に渡っているな。
こちらも川を挟んだこちら側で今夜は夜営をすると。
もちろん俺達も夜営の準備には積極的に参加し、夜の見張りにも立つことになった。
そして深夜。
俺達が敵兵とペアになって見張りをしていると森の中で何かが動いた。
「なぁ、今何か動かなかったか?」
「そ、そうだな」
「ちょっと見て来いよ」
「えぇ、お前行けよ」
「仕方ないなぁ」
渋々俺は森の中へと分け入る。そして身をかがめつつ相方の敵兵を呼んだ。
「おい、ちょっと来てくれ」
「ん?なにかあったのk」
ドサッ
草陰に隠れていたゼフ子飼いのグレイウルフが音もなく敵兵の喉笛を噛み切った。
流石夜のハンター。味方に居てこれほど心強いものもいない。
何食わぬ顔で見張りに戻りつつ確認すれば他の見張りも徐々に数を減らし、俺達だけになった。
それと同時に篝火を気付かれないように少しずつ小さくして行けば、森の中からいくつもの影が音もなく駆け抜けていく。
そして翌朝。
俺は日の出と共に敵大将の居るテントへと声を掛けた。
「将軍、起きてください。緊急事態です」
「む、何があった」
すぐに武装した状態で出てくる敵大将。流石というべきか。
やっぱり大将だけは夜襲を掛けても反撃された可能性があったみたいだな。
「それが、朝になったらほとんどの兵士の姿が忽然と消えております。
残ったのは600ほどかと」
「なんだと!?」
慌てて確認すれば確かに昨夜は4000人程度が居たはずなのに、今は自分を取り囲むように600人が居るのみ。
自分を囲むように?ああ、そうかと将軍はすぐに事態を察した。
「つまり夜の内にお前達に倒されたという事か」
「ご明察です」
「夜陰に乗じて蠢くなど、まるで魔物のようだな」
「誉め言葉として受け取っておきましょう」
ふっと笑う敵大将に、こちらもにっと笑い返す。
「では最期に俺の首を取る貴様の名前くらいは聞かせてもらえるのか?」
「サカガミ領領主、リュウジュだ」
俺の言葉を聞いた敵将軍は笑い出した。
何かそんなに面白かっただろうか。
「ふ、ふはははっ。そうか。貴様が。
てっきり味方の兵士を捨てて逃げ帰っていたと思ったが、なかなかの強者ぶりではないか。
ならば相手にとって不足なし。俺はプロステイン領第2将軍ソウボウ。推して参る!」
そうして激しい抵抗の末、遂に敵大将ソウボウは地面に倒れ伏した。




