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50.追う者、追われる者、邪魔する者

敵の追撃を振り切り、何とか自分の領地に戻った俺達。

といっても村までは数日の距離があるし、その間に更に敵の追撃があるだろう。


「ヨサク。無事に付いて来れたのは何人だ?」

「2000と少しです」

「そうか……」


元は3000人だから約1/3も失ったことになる。

そしてマスオも。

あの状況で生きて戻って来れるとは思えないからな。


「それと、命の心配はありませんが重傷者が500人程。

彼らは村で治療を受けないと戦闘は無理ですし、行軍速度も遅くなります。彼らについては……」

「置き去りにするのは無しだからな」

「……でしょうね」


ヨサクの言葉を先回りして答える。

確かに動けなくなった者をここに残していけば多少なりとも敵の足止めになるし、無事な者たちが助かる可能性は上がる。

歴史を振り返っても戦争ではよくある作戦だ。

だけどそんな作戦を俺は取る気はない。

ただそうすると村に帰るまでに確実に追撃部隊に追いつかれる。


「ミツキ」

「呼んだ?」

「ああ。まだ元気は残っているか?」

「もちろん。それで何をすればいいの?」

「もうひと頑張りってところかな」


ミツキとヨサクにこれからの作戦を伝える。

ふたりの反応は対照的だ。ミツキはやる気満々だけどヨサクは渋めだ。


「作戦の内容は分かりました。

しかし、領主様自らが行うのは賛成しかねます。

せめて私と役割を交代してください」

「怪我人を連れての行軍は俺よりヨサクの方が優れているし、

こういう加減が難しい行動は俺達の方が向いてる。

万が一失敗しても俺達なら逃げられるがヨサクだと最悪敵将軍と心中しようとするだろ。

今ヨサクまで失う訳には行かないからな。分かってくれ」

「……必ず無事にお戻りください」

「ああ、もちろんだ」


渋々頷いたヨサクに心の中で謝りながら、俺達は部隊を3つに分けて行軍を再開した。

ヨサクを大将とした怪我人500を含む本軍1400人は引き続き北上を続け最短距離で領都への帰還を目指す。


「途中に大きめの川があったな。あそこを渡り切ったところで長めの休憩を取ると良い。

敵に追いつかれても川を挟むことで防衛は有利になる。

にらみ合いを続けている間に怪我人だけ先に移動させればその後の撤退も楽になるしな」

「なるほど、分かりました。

今日中には何とかそこまで行きます」


ヨサク達を見送った俺とミツキの隊各300人は敵の遅滞作戦を開始した。



########



「……逃げられたか」

「はっ。しかし敵にはかなりの負傷者を出しています。行軍速度は間違いなく遅くなるかと思われます」

「すぐに追撃部隊を編成せよ。領都からの応援と合流する前に叩き潰し、すぐには再起出来ないようにしてやれ」

「ははっ」


プロステイン領将軍は憮然と北の森を睨みつけた後、先ほどまで戦場となっていた戦場を見た。

本当ならサカガミ領主に逃げられることなど無かった。

全てはそこで暴れていた怪物のせいだ。


「まさかあれが兵士ではなく村人から将軍にのし上がった存在などと誰が想像できるか」

「は?」

「いや、何でもない。準備は出来たか。出撃するぞ」


恐らくあれがサカガミ領最強の将軍。

領主なんて戦場では後ろから指揮するのが仕事で前線に立つのは勝利が確定した最後の見せ場だけだ。

どうせ実戦は大したことが無い。村長宅から逃げおおせたのだって従者が頑張ったとかそんなのだろう。

今頃は確実に生き残るために兵士たちを囮にして領主だけは別で逃げているだろう。

だがそれでも今撤退している敵の本隊を潰すのは価値がある。

兵士が壊滅した領地など蹂躙するのは難しくはないからな。


「敵の負傷兵は見つかったか?」

「いえ。どうやら連れて行っているようですね」

「ふん。戦場の常識も知らぬ素人か。これなら予想よりも早く追いつけそうだな」


負傷兵を連れていては行軍速度は半減する。

これなら日が暮れる前に追いつけるかもしれないな。


「て、敵襲!」

「なにっ!?」

「右手の森から矢による攻撃を受けています」


まさか撤退せずに反撃に出てきただと言うのか。

馬鹿め。彼我の戦力差は倍以上。奴らに勝ち目は無い。


「すぐに迎撃態勢を取れ」

「は。しかし……」

「どうした?」

「想定よりも数が少ないもので」


少ない?ふむ……。

そうか。別動隊でこちらを足止めするつもりか。


「敵の想定数は?」

「はっ。50程度かと」

「よし、迎撃に200ほど出して蹴散らせ。本体はそのまま前進だ」

「了解しました!」


ふんっ。たった50で足止めなど片腹痛い。


「報告。左手の森から矢の攻撃を受けています。その数約50」

「さっきのとは別の部隊か。そちらにも200ほど出して蹴散らしてやれ」


400減ったところでまだ4000以上居る。

敵本隊を殲滅するには十分過ぎる数だ。


「報告。再び右手の森から攻撃を受けています」

「なに!?さっき追撃にやった部隊はどうした」

「まだ戻ってきていません。恐らく先ほどとは別の敵かと思われます」

「くそっ。こざかしい。迎撃部隊を出してやれ」


落ち着け。それだけ敵本隊が近い証拠だ。

それに別動隊を出せば出す程、敵本隊の戦力だって減っているんだ。

追いつけば一瞬で蹴散らしてくれる。

しかしその後、更に数度左右の森から襲撃に遭い、その度に少しとは言え足を止めていた為に、敵本隊に追いついたのは日もどっぷり暮れた後。それも川を挟んだ対岸だ。

見たところ川幅は広いが流れは穏やかで水深も渡れない程ではない。

だがそれでも鎧を来た我が兵では動きが遅くなるしそこを矢で攻撃されると被害は大きくなる。

それに度重なる襲撃のせいで兵の疲労も溜まっている。

ここで突撃するのは下策か。

奴らは簡易的に野戦陣地を組み上げていることから、逃げきれないと踏んで迎え撃つことに決めたようだ。

なら焦らなくても良いだろう。既に射程に収めた。

先ほど敵の襲撃部隊も殲滅出来たという報告があったから、もう後ろを攻められることも無い。


「よし、今夜はここで夜営する。

早朝に突撃を掛けるので今のうちに体を休めるように伝えておけ」

「了解しました」


待っていろよ。

明日が貴様らの命日だ。



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