5.国造りの基礎
ここから本格的に領主活動開始です。
そして既に最初の構想を無視し始めてます。
もっとこう、底辺での期間を続けたかったのですが。
なお本作品では主人公たち以外、人の名前がちょっとあれですが気にしないでください。
さて。さっき蹴り飛ばした木札が神様のイタズラで無ければ、ここに来てからのこれまでの活動がこの世界の基本だと言うことだ。
つまり資源を回収して村を拡張し外敵を倒す。これだけだ。
今後村が拡張したら出来ることも増えるのだろうけど、基本はこのルーチンワークである。
「まぁある意味、元の世界と同じか」
ここに飛ばされて来る前だって特に趣味らしい趣味も無かったから、朝起きて飯食って会社行って仕事して帰ってきたら風呂に入って飯食って寝る。それの繰り返しだった。
仕事の内容が住み込みで村作りになっただけと考えれば、そんなに悩むことでもない。
ただ一番の違いを挙げるとすれば。
「あの、領主様。私達は何をすれば良いでしょう」
そう。平社員から主任にランクアップしたことだ。
今目の前に居る4人は俺の部下みたいなものだろう。
ならしっかり俺が面倒を見てやらないとな。
ただそうやって考えた事がきっかけだったのかもしれない。
さっきまでは最初の4人と同じようにただの村人としか見えなかったのに、いまは少しだけ個性らしきものが感じられるようになっていた。
少なくとも勝手に動くマネキンが4体あるのではなく、感情を持った人間が4人居るとはっきり自覚できる。
そうなってしまえば例えここがゲームの世界で、彼らが替えの利く存在だったとしてもそうは扱いたくないと思ってしまった。
出来る事なら元気に、そして少しでも幸せに笑えるようになってほしいと思う。
この地を発展させていく為にもそれは重要になんじゃないだろうか。
なにより、俺がその方が楽しいしな。
その為に俺は彼らの上司としてしっかりと管理監督する義務があるんだ。
俺は気持ちを入れ替えると彼らをしっかりと見据えて口を開いた。
「よし、ではまずここで活動するにあたって絶対守ってもらう事がある」
「「はいっ!」」
俺の言葉にビシッと背筋を伸ばす4人。
真面目な姿に思わず涙が出そうになる。
前の会社のアイツとかアイツとかがもっと真面目に仕事してくれたら俺の残業時間がどれだけ減ったことか。
まあ過去のことは忘れよう。
大切なのは今目の前だ。
「いいか。何があっても死ぬな」
「……は?」
緊張していた顔が途端によく分からないって顔になる。
なら重ねて言う必要があるか。
「たとえこの村の全てが破壊し尽くされようとも何としても生き延びろ」
「いやでも」
「なぁ」
「うん」
俺の言葉に首をかしげ、顔を見合わせる4人。
「俺達なんて領主様にしたら替えの利く駒だとおもうんだけど」
「前居た所だと資源が勿体ないからって、代わりに人柱にさせられてた奴も居たぞ」
「もしかしたらこの領主様、頭可笑しいんじゃないか?」
「だとしても俺達に他に行き場は無いんだけどな」
ヒソヒソ話をしてるようで丸聞こえなんだが。
誰が頭可笑しいんだ、まったく。
でもまあそれが常識な世界だったのなら仕方ない。
今すぐその認識を改めろっていうのも難しいか。
なら彼らにも分かりやすく言い換えるか。
「いいか。これからお前たちは様々な経験を積み、知識を得て、能力が向上していく。
何よりも俺の価値観、考え方を学んでもらう。そうすることで、俺の目の届かない所まで俺の意志が伝わることになる。
それは金銭で買えるものではないし、仮に今後傭兵のような存在が見つかったとしても、そいつは能力があるだけで俺の期待する行動を取ることは出来ないだろう」
今はほんの小さな村とも呼べない規模だけど、今後発展していけばきっと俺一人で管理することは出来なくなる。
そうした時に、俺の代わりに俺と同じ価値観で行動し指揮を執ってもらえる人材が必ず必要になる。
それはきっとそうなった時にすぐに手に入るものでは無くて、今からコツコツ育て上げていかないといけないはずだ。
「よってお前たちの命以上に高価なものはこの地には存在しない!」
「お言葉ですが領主様!」
と、折角俺が柄にもなく熱弁したっていうのに、村人の1人が俺の言葉を否定するかのように一歩前に出ながら声を挙げた。
「俺達の命は2番目以下であります!」
え、ここでまさかマジで俺の意見全否定か。
そのまま領主排斥運動に発展したりとか、無いよな。
「なに!?おい、後ろの3人も同じ意見か?」
そう問いかければ意見した1人を除く3人は首を横に振った。
その顔は領主様に逆らうなんて滅相も無いって言っているようだ。
ここに来て個性が生まれ始めたってことか。
ただちょっと待て。
よく見れば意見した男の身体は小刻みに震えており、酷い緊張の中勇気を振り絞って立っているのが分かる。
これはもしかしたら。
「よし。言ってみろ。お前が考える一番大切なものはなんだ」
「はっ。それは領主様の命であります!!」
「「っ!?」」
その言葉にハッとする残りの3人。
俺はと言えばちょっと感心していた。
そう言う言葉を損得勘定抜きで本気で進言できるのは大したものだ。
「お前、名前は?」
「はっ。いえ、名前はありません」
「名前がない?この世界には名前を付ける習慣がないのか?」
「いえ、領主様をはじめ、突出した才能のある人物には名前が付きます。
俺達みたいなのはひとまとめに『村人』とか呼ばれます。
いくら領主様でもこれから1000人2000人と増えていく住民の名前を全部把握するのは大変でしょう」
「まあそうだな」
今は俺を含めてたった5人しか居ないけれど、将来的には数千数万規模に膨れ上がる可能性もある訳だ。
というか、今の段階からそこまで考えられるってのは凄いな。
「ならお前は今後増えるであろう村人たちの代表として『ヨサク』という名前を与える」
「は、はい!!」
「「おぉ~~」」
「あ、言っておくが別に偉くなった訳じゃないからな。
威張り散らして他人を見下すようなら即刻捨てるから覚悟しておけ」
「分かりました!」
「あと他の3人も、今回はたまたまヨサクが根性見せたってだけでお前達にだって幾らでも取り立ての機会はあるからな。今後の活躍に期待しているぞ」
「「はい、ありがとうございます」」
俺の言葉に改めて気合を入れなおしたヨサク達。
やっぱり国造りは人造りっていうのは間違いないな。
領地人口:5人
個人的に武田信玄の言葉は好きです。