45.魔導士チチカ
私の名はチチカ。チチカ・カコンティス。
ブリジス王国所属の魔導士で先日行われた遭遇戦に派遣され現在は戦争相手の領地の捕虜になっている。
捕虜……なのよね?
「いただきます」
「……いただきます」
なぜか領主館の2階に部屋を宛がわれ、今は領主だというリュウジュという男性とその愛人(?)のミツキと共に朝食を食べている。
こんな田舎領地の朝食が私の口に合うと思ったら大間違、あら意外と美味しいわね。これ。
何か特別な材料を使っているのかしら。違う?畑で採れたものと森で採集してきたものだけ?
この辺りは土地が豊かってことかしらね。
と、話を戻して捕虜としては格別の待遇ではないかしら。
部屋は普通の客間だし、食事も多分この村では上等なものを食べさせてもらえている。
外出なども自由にして良いそうだし、特に誰かが監視に付いているということもない。
「ねぇ、このまま私が逃げるとは思ってはいないの?」
ついついそう聞いてしまった。
するとさも驚いたように言うのだ。
「え、帰りたいの?いいよ別に」
なにその、遊びに来てた友達がそろそろ夕ご飯の時間だから帰るね、みたいなノリは。
この人達は捕虜の重要性が分かってないのかしら。
「ちょっ、私は魔導士なのよ!もっと重宝しなさいよ。
それじゃあまるで用なしみたいじゃないの」
「いやもう戦争は終わったしなぁ」
「じゃあ何で私を捕らえたの?」
「なりゆき?まぁあの時はチチカに参戦されて戦況をひっくり返されたらまずかったから取り押さえただけだし。
戦争が終われば帰るんだろうなって思ってたから、この展開には俺も驚いてるところだ」
なにその迷惑してるのは俺の方だ的な内容。
もっと喜びなさいよ。馬鹿じゃないの?
そもそも領主もおかしければこの領地もおかしいのよね。
朝食を終えて外に出れば村人たちが金属鎧を纏って柔軟体操を行っている。
「いいかお前達。金属装備を受け取ったからと言って浮かれている場合じゃないぞ。
金属装備は今までよりもずっと重いし動きにくい。
身体が重くなれば疲れやすくなってすぐにバテる。
動きが遅くなれば攻撃は当てにくくなるし、避けにくくなる。
つまり死にやすくなるって事だ。
だがお前達には死ぬことは許されていない。
ならばどうする?
決まっている。金属装備の重さをものともしない力を身に付けろ。
今後は毎朝ランニング10週、素振り500本だ!
金属装備を受け取っていない者は同等の重さの土嚢を担いで走れ」
「「はいっ」」
村の約半数の村人が兵士と同じかそれ以上に過酷な訓練を行っている。
ちなみに今行っているメンバーが朝練を終えたら残りのメンバーと交代して全員が同じ訓練をするらしい。
しかもその先頭を領主自らが金属鎧を着て土嚢を担いで走っている。
何なのかしら。というか、兵士はどこ?
「兵士?ああ、この村には居ないよ」
「いない?そんな馬鹿な!?」
「本当よ。ここは全員が村人で全員が戦士なの。お兄さんの方針でね」
私の隣に居たミツキが答えてくれたけど、そんな方針聞いたことない。
普通はきっちり役割分担をするものだ。
生産職が戦闘職に勝てないのは当たり前の事なのに。
「それより、あたし達も行こうか」
「行くって?」
「ランニング。朝日を浴びながら汗かくと気持ちいいよ」
そう言って私の手を引いて走り出すミツキ。
ちょ、待って待って。私は魔導士なの。肉体派の戦士じゃなのよ!ちょっと聞いて~。
「ぜぇっ、はぁっ」
「お疲れさま」
リュウジュに差し出された水を飲み干して一息つく。
ていうか彼、汗をほとんどかいて無いんだけど、細身なのに意外と筋肉お化けなのかしら。
「俺はこれから村の復興状況を確認して回るけど、チチカはどうする?」
「どうするって、何をしてても良いの?」
「他人に迷惑を掛けない範囲であればね」
「ならスパイ活動に精を出しててもいいんだ?」
「良いけど、うちの村に見るものなんて無いと思うぞ」
いや、こんな変な村、他に見た事ないから。
しかも本当に危機感が無いのか言葉通りリュウジュは私を放って行っちゃうし。
ならいいわ。勝手に色々見させてもらうから。
さてこの村の秘密は、あら?あれは何かしら。
すり鉢で草を潰してるみたいだけど。
「ねぇ、何をやってるの?」
「あら?あなたは見ない子ね。新しく村にやってきたの?」
あ、これ私の事を村の住人に周知してないパターンだわ。
なら私が捕虜だって事は秘密の方が良いわね。
「え、ええ。昨日ね」
「昨日?そう。それはまた大変なタイミングで来たのね」
「まあね。それで、それは薬草をすり潰しているの?」
「そうなの。即効性のある傷薬を作りたいんだけど、なかなか難しくって」
横に置いてあるのは川から取って来たのか、ちょっと濁った水。
あれじゃあ折角の薬効が台無しだわ。
「ポーションを作るなら魔法で作った水を使うのが良いわよ」
「あ、そうだったの!?でも私魔法は使えないし」
「ポーション作る程度の水を生成する魔法なら生活魔法のレベルだし、誰でも習えば使えるわよ」
「もしかしてあなたは使えるの?」
「もちろん。見てなさい。『浄水』」
「わぁ、凄い凄い!」
私が横に置いてあった瓶を水で満たすと、その女性は飛び上がらんばかりに喝采を上げた。
こんな初歩の魔法なのに大袈裟なと思わなくも無いけど、そんなに喜ばれると悪い気はしないわね。
「ほんと凄いわ。ねぇ、その魔法、私にも教えて~」
「い、いいけど」
「ほんと!?ありがとう~~。
あ、でも折角だから皆も一緒で良いかしら?」
「え?ええ」
「みんな~。魔女先生が魔法を教えてくれるって~」
いうが早いか、その女性は村中に届くよく通る大声を発した。
その声に誘われて続々と集まってくる村人たち。
気が付けば私を半包囲するように体育座りして私を見上げてくる。
ってリュウジュとミツキも先頭に座ってワクワクした目で見てくるし。
何なのよ本当にもう。
「よろしくお願いします、美少女魔女先生」
「「お願いします。美少女魔女先生!!」」
せ、先生!?美少女!!
し、仕方ないわねぇ。
「よし、こうなったらみっちり魔法を教えてあげるから覚悟しなさい!
素質がある人でも初歩の魔法が使えるようになるまで1週間はかかるんだから。
途中で脱落なんて許さないからね!」
そうしてその日から朝練が終わった後に1時間、魔法を教えることになってしまった。
どうしてこうなったの?もしかしてこれもリュウジュの策略だったのかしら。
でも何度も言うけど私は捕虜なのよ?あと何日かしたら帰らないといけないのに。
……え、私さえ良ければずっとこの村に居て良いって連絡があった?そ、そう。
あなた達がどうしてもって言うなら、まぁ残ってあげても良いけど?
ふふんっ。そ、そう。仕方ないわねぇ。べ、別に喜んでなんかいないわよ!
なら今後もみっちり魔法を教えてあげるから覚悟しなさい!
え、部屋?今いるところは客間だから3階に引っ越し?
ミツキの隣の部屋なのね。分かったわ。




