40.戦争は圧倒的火力で制圧するもの
早めの予告です。
12月になると更新頻度がガクリと下がります。
逆に11月は毎日更新です。
寒くなってきましたので、皆様風邪には十分お気を付けください。
時間は少し巻き戻り、タイラス領では領主が商人から買い取った遭遇戦の相手の情報をみて呆れた声を出していた。
「……この領主はアホなのか?それとも底抜けの楽天家なのか、どちらにせよ群雄割拠のこの世界を何も理解していないとしか言いようが無いな」
『サカガミ領に関する調査書。
所属国家:なし
種族:普人族
首都の人口:約2200人
砦の数:0
軍事総合評価:52
兵士の最高ランク:一般兵以下
鉱脈数:2
』
この『兵士の最高ランク:一般兵以下』というのは初めて見た。
これでよく生き残って来れたものだと感心してしまうほどだ。
ただその割には評価は高いようにも思える。
まあそれでも我が領の半分以下であるのだが。
「おい、お前はこの調査結果をどう見る?」
「はっ。首都の村の防備のみを上げている亀形の領地ではないかと思われます」
「やはりそうか」
兵の攻撃力を上げる代わりに村の防壁等を強固にして閉じこもり、時間切れを狙う戦法だ。
相手に攻城兵器が無い場合は有効な反面、門や防壁が破壊された時点で勝敗がほぼ決まる。
我が領の戦力を考えれば対人戦で負けることは無いが門の破壊に時間が掛かる危険が多少ある。
まあ時間を掛ければ問題なく破壊出来るだろうが、その間に多少でも被害を受けるのは面白くない。どうせなら完全勝利と行きたいものだ。
「よし、ブリジス王国に攻城兵器の貸し出しを、いや、いっそのこと魔導士を派遣してもらおう。
戦争開始直後に魔法の一撃で自慢の壁を粉砕してやればそれだけで終わりだろう」
「仰る通りかと。しかし敵もここまで生き残って来たのです。
何か奥の手を隠し持っている可能性があるのではないでしょうか」
「ふむ。なら歩兵1000の他に騎兵500を出そう。
これなら何が起きても確実に勝てる。敵は鉱脈もあるようだし出費分は十分に回収できるだろう」
「ははっ。ではそのように」
そして戦争当日。
タイラス軍は1500の大軍を持ってサカガミ領の東門が見える位置に布陣していた。
大将は想定以上に頑丈そうな外壁と濠を見て「村というよりまるで城塞だな」と呟いた。
「では頼みます」
「ええ、分かったわ」
戦争開始の合図と共に隣に控えていた少女に声を掛けた。
その少女は見た目こそ15、6の小娘のようだったが、寄り親であるブリジス王国から派遣されてきた凄腕の魔導士であり、戦えば1対1どころか状況によっては今いる1500人の兵士とも対等に渡り合える戦闘力を有している。
下手に怒らせたらどうなるか分かったものでは無い。
少女がスッと両手を前にかざし魔力を集中させる。
ただそれだけで周囲の温度が数度上がったように思える。
『エクスプロージョンボール』
発動詩と共に撃ち出される真っ赤な玉。
それが敵の門に触れた瞬間大爆発を起こし、強固に思えた門をただの1撃で跡形もなく粉砕してしまった。
あれがもし自分の陣に撃ち込まれたら騎馬隊などはそれだけで壊滅状態だろう。
「これで、私の仕事は終わりね」
「は、はい!後はお任せください。
とは言っても今のあれを見れば敵も戦意喪失して降伏してくるかもしれませんが」
「そう」
少女はそれだけ言うと軍の最後尾に移動してしまった。
宣言通りやる事は終わったからもう何もしない、ということなのだろう。
それに大将が言った通りこれで戦争自体が終わりの可能性もある。
だが残念ながら敵が降伏してこないかと様子を見てみるも、その気配はなし。
むしろまだやる気のようだ。
ちっ。無駄な足掻きを。ならば望み通り叩き潰してやるまで。
「全軍、突撃。叩き潰せ!」
「「おおっ」」
号令を受けて全軍が粉砕された門に殺到していく。
敵は民兵と思われる者たちが弓矢で応戦してくるがやはり大したことは無い。
これなら1時間と経たずに勝利をもぎ取ってくることだろう。
その予想通り騎兵隊は門を突破した後、頭に疑問符を浮かべながらも前進を続けていた。
(これは村、なんだよな?)
(なぜ一本道なのだ?これじゃあ左の区画から右の区画に行くのに大きく迂回することになる。随分不便な造りの村だ)
(妨害と言っても足元の藁は足を取られる程じゃないし馬防柵だって入れ違いに左右に置かれているから直進は出来ないけど通り抜けられる)
(左右の壁の向こうから投げ込まれる岩は厄介だけど、な)
流石に立ち止まるとそこに投石が集中攻撃してくるので止まれないが、だが進めなくもない。
「進め進めぇ!」
「止まると攻撃されるぞ!」
「お、おぉ!」
そうだな。ここは前進あるのみ。
道は左右に折れ曲がっているが確実に中心部に近づいているので勝利は目前だ。それに。
「見えたぞ。領主館だ!」
「守っているのは民兵が100人程度。俺達の敵じゃない。一気に潰すぞ」
「「オオッ!!」」
ここまでの道のりで多少減ったとは言え、こっちはまだ300前後残っている。
残りは直線のみだ。さっさと終わらせて褒美を頂こうじゃないか。
我先にと突撃を開始する仲間たち。が、突然消えた。
いや違う。落とし穴か!
地面に敷かれた藁で隠していたんだ。
だけど甘い。この程度なら飛び越えられる。
「たあっ」
無事に落とし穴を飛び越えた俺に突然影が差した。
「ダメ。ココ、イキドマリ」
「なっ」
なぜ人間の村にトロルが居るんだ。
しかも巨大な丸太を振り上げていて。
「や、やめっ」
「フンッ」
流石の騎兵も丸太の一撃で叩き潰されていく。
避けようにも道幅が狭く逃げ場も無い。下がれば落とし穴だ。
そして完全に騎兵の足が止まったところで、民兵が篝火から火のついた薪を取り出して騎兵たちに向けて投げつけ始めた。
「なにを……まさかっ」
疑問の言葉が口を出るより早く地面に敷かれていた藁に燃え広がり、騎兵たちを炎に包み込んでいく。
「ぎゃあああっ」
「馬鹿な。自分の村の中でこんな大規模な火計を使うなど正気か!?」
「うちの領主様はそういうお人さ。ほらっ。焼け死にたくなければ逃げるんだな!」
疑問の声に律儀に敵兵が答えてくれた。
しかしその声に礼を言う暇などない。
火の手は細い通路を蛇のように走り抜けあっという間に門の手前まで到達していた。
騎兵の後に続いて突撃していた歩兵たちも渋滞を起こしてその多くが逃げられなかった。
辛うじて後方に居た歩兵だけはこれはまずいと慌てて飛び出す事に成功したが、そこに南から襲い掛かる狼の群れ。
歩兵たちは碌な反撃も出来ないまま北へと散り散りに逃げる事しかできないのだった。




