4.(閑話)命を粗末にすると罰が当たる
閑話、というか神様視点です。神様は神様でも主人公とは関係ありません。
そしてなぜかホラーっぽくなってしまいました。
暗い部屋の中で一枚のディスプレイだけが煌々と光を放っていた。
画面に映るのは森の中に出来た村の風景。
いや、村だったと表現した方が正確だろう。
何者かに襲撃されたのか、畑は荒らされ建造物も軒並みバラバラに粉砕されていた。
それを見て舌打ちをする男が1人。
「ちぇっ。最新の『無料で出来る放置型シュミレーションゲーム。あなたは最高の神様になれるか!?』って触れ込みだったのに、なんだよこれ。
確かに放置してても勝手に村を発展させていくけど、頭悪いし指示出さないとすぐサボるし全然強くならないし。
挙句の果てに3日放置してたら何か壊滅してるし。
ま、壊れたのはすぐ修復すれば良いんだけどさ」
そう愚痴りながらマウスを操作して地面に倒れているヒーローキャラをクリックする。
しかし背中をバッサリ切られて死んでいるヒーローは起きる気配はない。
「どうなってんだこれ」
そんなボヤキに答えるようにダイアログが出てきた。
『あなたの使役するヒーローが死んでしまいました。
最初からやり直しますか?【はい/いいえ】』
「は?」
思わぬ問いかけに一瞬固まってしまった。
てっきりこんな序盤で簡単に死ぬくらいだから、少し時間を置くとか、もしくは少額の課金で復活するんだろうと安易に考えていたのに、【いいえ】を押してもそんな選択肢は一切出ず、ただダイアログが消えるだけ。
死体をクリックすれば同じメッセージが出てきた。
どうやらゼロから再スタートしか出来ないらしい。
「いやまさかな」
昔のゲームじゃあるまいし、そんな鬼畜仕様のゲームは最近ではまず無い。
きっと強くなってリスタートとか、そんなところだろう。
そう思い直して【はい】を選択した。
するとヒーローの死体は消え、見た目からして全く別のヒーローがやって来た。
ステータスは初期状態。
まあ強いて言えばほんの少し資材が残っている程度だが、それも1日あれば余裕で確保できるレベルだ。
つまり約2週間分の成果が全てパーである。
「くっそ、こうなったら徹底的に指導して最強の軍事国家を作ってやる!」
そう意気込んだ男は次から次へと指令を出してヒーローを働かせ、村にやって来た住民たちをこき使いせっせと村を大きく、そして戦力の増強を最優先で実施していった。
1月後。再び魔物たちの大規模な襲撃が発生したが辛くも撃退に成功した。
「へっ。どうだ見たか」
兵士の8割。一般市民を合わせれば国民全体の9割近くが死んだが、どうせ補充は幾らでも出来る。
重要なのは勝つことただそれだけだ。
今度は施設に被害が出ないようにもっと強力な軍隊を作ろう。
そうだ、人間爆弾でも作って敵陣に突撃させるなんてのはどうだろう。
このゲームにおいて人間ほど安い資源はないのだから実に名案ではないか。
暗い部屋の中でほくそ笑む男は次々と指令を出していった。
そして更に2か月が過ぎた頃。
街というより要塞に発展したそこは、度重なる魔物や周辺国家からの侵攻を撥ねのけ続け要塞都市として有名になっていた。
ただそれと同時にそこの住民は誰もが過重労働を押し付けられ、戦となれば真っ先に死地に送り出される為に、どんどん生気を失っていた。
そんな住民(=駒)の事など気にも留めない男は、そろそろ世界征服にでも乗り出すか、などと考えつつベッドに潜り込んだ。
翌日。
ディスプレイの中では胸に剣が突き刺さって死亡しているヒーローと、誰も居なくなった要塞都市が映し出されていた。
「なにが……起きたんだ?」
試しにヒーローをクリックしてみると出てくるのは以前見た『最初からやり直しますか?』のメッセージ。
「っざけんなよ。このクソゲーが。昨日まで上手く行ってたじゃないか。
なんでこのヒーローは自室で死んでんだよ。自殺か?ゲームのキャラが自殺とか意味わかんねえだろ。
やってられるか、こんなクソゲー」
男の怒りに呼応したかのように画面内のメッセージが切り替わった。
『もう全てを終わりにしますか?【はい/いいえ】』
「はいに決まってんだろ、こんなもん」
『そうですか。ご利用ありがとうございました』
そのメッセージと共に画面内では街にアンデッドが溢れかえり始めた。
また死んでいたヒーローも骸骨騎士となって立ち上がったかと思えば空を、いやディスプレイのこちら側を見たかと思った瞬間、その手に持っていた剣を男へと投げ放ったのだった。