34.自由広場の表と裏
シルクさんと別れた後、改めて自由広場を見て回ることにした。
そこで分かったのは露店には大きく仮面を付けていない街の住民の露店と仮面を付けた領主が開いている露店とがある。
その違いは店構えを見ると一目瞭然だ。
なにせ領主の方はゴザを敷いた横に立て看板が立っているだけで商品がない。
恐らく盗難対策に商品は全て収納にしまってあるのだろう。
看板の方には
『
売)鉄の剣(並)1本500マニー~。
買)鉄塊1Kg100マニー。
……』
のように販売しているものと買取しているものの品と値段が書かれていて、それを見た通りすがりの人がゴザに座っている人と2、3言葉を交わしている光景があちらこちらで見られる。
それにしても、話をするだけで実際に金品の交換をしていないのが変な感じだ。
ま、今日の所は物価を確認して回ることにしよう。
というか軍資金が足りな過ぎて買えるものが余りない。
「これは早めに資金作りをしないとマズいかもな」
領地内に新たに発生する魔物の集落を潰して回って魔石を確保しても何というかお小遣い程度の収入にしかならないだろう。それに定期的に集落が出来るとも限らない。
それよりも資源を採取して売って資金を作り、それで設備投資をして資源を加工出来るようになって、今度は資源を買い取って製品販売に乗り出す方が現実的だ。
ただそれは誰でも考えることなので同じような露店は既に幾つも存在する。
その中に新規参入して売ろうと思うと何か付加価値が必要だろう。
それも真似できないようなものだ。
真似できるものは確実に大国や大商会が同じものをより安く販売してくるだろうことは予想がつく。
造ったは良いものの売れなくて路頭に迷うのはごめんだ。
この世界じゃ飛び込み営業も出来ないしな。
ふと、路地裏に繋がる小道が目に入った。
「そう言えばシルクさんとひったくりは路地裏から出てきたよな」
てっきり路地裏を抜けた先の別の大通りから人混みを避けるために路地裏を抜けてきたのかと思ってたけど、こうして大通りを歩いてるとそういう街の造りではない気がしてきた。
「もしかしたら掘り出し物はそっちにあるとか?」
あり得るな。
シルクさんがくれた『あめイジング』だって今のところ売っているところは1つも見ていない。
怪しい品とかは買う気はないけど大通りでは売らないだろう。
というか絶対ゼロが2つ3つ違うから買えないけど。
念のため周囲の視線を気にしつつこっそりと路地裏に入る。
そして幾つか角を曲がった先に大通りとは雰囲気の違う露店がぱらぱらとあった。
「おう兄さん。ここは弱者と貧乏人には優しくないから気を付けな」
ゴザの上で何かよく分からない小物を並べていたおっさんがじろりとこちらを見ながら告げてきた。
小物についている値札は安いのでゼロが4つ付いてる。
「忠告ありがとう。優しいんだな」
「けっ。商売の邪魔だ。どっかいきやがれ」
俺の返事につばを吐き捨てるおっさん。
態度はともかく「帰れ」と言わない辺りやっぱり良い人っぽい。
おっさんを横目に奥へ進むと怪しい光を放つ武器を取り扱う店があったり占い師っぽい人が居たりと中中に面白い。
あとこっちにも露店を出している領主はちらほら居る。
お、あめイジングだ。って、成功率30%で10万マニーとか凄いな。
そして更に奥まったところにあるのは煌びやかなお宿と堅牢な建物が幾つかある区画になっていた。
お宿は多分あれだ。
楼閣というか風俗店。その証拠に昼間なのに露出度の高い女性やホストっぽい男性が客引きをしている。
殺伐とした世界だからこそ、そういったひと時の快楽を求める人も多く居るのだろう。
先ほどから仮面を付けた人が何人か出入りしている。
(もしかしてシルクさんも?いやいや、そんなことは無いだろう)
すこし話しただけだけど真面目そうな人だったし。
っと、ぼーっと見てると目を付けられそうだな。
誤解されないように距離を取りながらもう一つの堅牢な建物の方を見る。
こちらは……あぁ、あれだ。良く言えばペットハウス。悪く言えば奴隷商。
立ち並ぶ建物の幾つかでは庭に魔獣や人間、魔物が鎖で繋がれた状態で放置されている。
魔獣は犬鳥猫の他、虫っぽいのやトカゲなどの爬虫類も居る。ただしどれも1メートルを超える大きさだ。
人型の方も中学生くらいの身長の少年少女から3メートル近い巨人まで。トロルやオーガも居る。
彼らは何かしら特技があって戦力として買われていくのか、もしくは生贄として買われていくのか。
一瞬可哀そうかなとも思ったけど、普通に店舗が軒を連ねているしこれがこの世界の常識なのかもしれない。
助けようとしてもどうしようもないというのもあるけど。
さて、あまりここに居ても気分は良くないから帰るか。
ただまぁ折角だから来た時とは違うルートで帰ってみるかな。
方角さえあってれば大通りには出れるだろうし。
……と1時間前に考えてた俺は楽天的過ぎたようだ。
「ここどこ?」
周りには建物の壁があるばかりで露店の1つもない。
ずっと太陽を背にして歩いてきたから方向は間違ってないはずなんだが。
って、違う。太陽動くじゃん。
そんな初歩的なミスをするなんて疲れてるんだろうか。
仕方ない。頑張って人が見つかるまで歩き続けてみるか。
「……!…………っ!?」
なにやら路地裏から喧騒が近づいてくる。ってまたこのパターンか。
この街、ひったくりが横行してるのか?
俺のスキルに『巻き込まれ体質』とかなかったと思うんだけど。
ため息交じりに様子を窺っていると路地から飛び出してくる小さい影。
全長15センチくらいの蜥蜴、かな?は何故か俺目掛けて走って来た。
「キュイッ(助けて)」
「は?」
なぜか蜥蜴の鳴き声の意味が分かるし。
まあ助けを求められたら助けるのも吝かではない。
「俺の足に飛び乗れ」
「キュイッ」
速度を落とさずに飛び込んでくる蜥蜴を足の甲でキャッチしながら真上に蹴り上げる。
「『飛べ』」
咄嗟にスキルもイメージしてみたけど多分上手く行ったみたいだ。
蜥蜴は近くの建物の屋根の上まで飛んでいった。
着地は……まぁ頑張れ。
こっちはこっちで続いてやって来た黒尽くめの男たちの対応で忙しい。
「おいお前。こっちに小さな蜥蜴が走って来なかったか?」
「え、ああ。なんかちっこいのが足元を走っていましたね」
「それはどっちに行った!!」
「……大通りに向かっていったように見えましたけど」
「チッ。厄介な。大通りに出られる前に追いつくぞ」
「「はっ」」
慌てて右手の路地に飛び込んでいく男たち。
ふむ。大通りはあっちか。
多少時間を空けてから男たちの後を追えば無事に大通りに出ることが出来た。
やっぱ人助けをすると自分に返ってくるものだな。




