31.自由広場
俺は村の事を皆に任せて長距離転移門を使って自由広場へと向かう事にした。
「今回は初めてだし様子見で済ませる予定だから遅くても今日中には戻ってくるから」
「うん。お土産よろしく~」
「お気をつけて」
ミツキ達に見送られながら長距離転移門をくぐる。
あ、長距離転移門の見た目は枠の部分だけで扉に相当する部分は水の膜みたいなのがあって、触ると抵抗なく向こう側へと抜けることが出来る造りだ。
ただ、抜けた先が見えないので向こうに何があるのかが分からないけど。
ちょっとドキドキしながら門を通過すると、そこは広いドームのような場所だった。
後ろを振り返ると今入って来た門があって向こう側にはミツキ達が見える。
……マジックミラーか?いや、ミツキの後ろはもうぼやけて見えなくなってるから近くまでしか見えないのかもしれない。
ということは入る時も何も見えないと思ってたけど、実は何もないから見えないと勘違いしていただけだったのかも。
ひとまず簡単に戻れそうなのは確認できたので改めてここの様子を確認してみる。
広さで言えば国際陸上競技場が入りそうなくらいに広い。
多分数万人は収容できるだろう。
天井も5メートルくらいあるので、トロルより更に大きい体格の生き物でも頭を打つことはなさそうだ。
他に目に付くのは入ってきたのとは別に、左手に門が1つある。むしろそれ以外に門は無い。
門にはご丁寧に案内板が付いていて『自由広場』と書いてある。
門の外は薄暗い建物の中に通じているようだ。
部屋の広さと門の少なさのアンバランスから考えて、行ける場所が増えると門が増えていくシステムだと考えるのが妥当か。
まぁ、いまは自由広場に行く予定なのだから問題は無いけど。
『自由広場』行きの門をくぐると、途端に街の喧騒が聞こえてきた。
念のため振り返ってみると、そこにあるのは石の壁。
「……え、もしかして帰れない?」
ちょっと不安になって調べてみたら『出口専用』の文字を見つけた。
つまり一方通行で戻る為の入口は別にあるらしい。
ならここに居ても仕方ないので外に出るか。
外に出た俺を迎えてくれたのは太陽の光と賑やかな街並みだった。
ふと横を見れば『入口専用』と書かれている扉があるので、そっちに行けば帰れるんだと思う。
現に今も知らない誰かがそっちに入っていった。
多分入口は共有で抜けた先が別々って事なんだろうな。
「じゃあ早速広場の探索と行きますか」
俺はバサッと外套を翻し……外套?
あれ、いつの間にか全身をすっぽり包み込むような外套と、あと顔には鼻から上を隠すようにマスクが装着されていた。
なるほど、これがミークが言っていた身バレ防止の格好ということなのだろう。
見れば街を歩いている人のほとんどが同じように外套とマスクを着けている。ちょっと怪しい。
マスクを着けてないのは全体で2割くらいか。違いはなんだ?
それに同じ外套でも色が違ったり模様、いや紋章が入ってるのもある。
俺のはシンプルなグレーの外套だし、その人の身分や格によって変わるのかも。
まあいいや。
今日は市場調査も兼ねているので、早速近くで果物を売っているお姉さんに声を掛けてみた。
「こんにちは」
「やあいらっしゃい。
どうだい、どれも昨日採れたばかりだ。安くしておくよ!」
聞いてて気持ちよくなるくらい元気な声だ。
元気なところには人が集まる。どうせ買うならこういうお店の方が良いよな。
あ、でも物価が分からない。
「無知で済まないが物の値段が分からなくてな。
こっちのリンゴっぽいのは1つ幾らだろうか」
「赤リンゴだね。それなら3つで10マニーもしくは一番小さい魔石1つで良いよ」
お、意外と安い。
いや待て。魔石1つって言えばゴブリン1体分か。そう考えると高いのか?
よく分からないけど、まずは買ってみるか。
「なら9つ貰おうか」
「まいど!」
草で編んだ籠っぽいのにリンゴを入れて渡された。
って、これこのまま持ち歩くんだろうか。この調子で色々買っていったら荷物になりそうだな。
うーん、どうしたものか。
「ちょいとお兄さん。買ったものは収納しておけばいいんだよ」
「え、ああ!」
なるほど。資材と同じように収納できるのか。それは良かった。
俺は言われた通りリンゴを手元に1つ残して収納して籠をお姉さんに返した。
「どうも。その1個はここで食べていくのかい?」
「そうなんだけど、ちょっと待ってくれ」
リンゴを両手で持って頭の部分に親指を、尻の部分に中指を差し込むようにして外側に引っ張る。
「ふんっ」
パカッ
見事2つに割れるリンゴ。
元の世界じゃ無理だけど、こっちに来てから身体能力が上がってるみたいだからな。
出来るかなと思ってやってみたんだけど無事に出来て良かった。
そして割れた片方に齧りつきつつ、もう片方をお姉さんに差し出す。
「良い事を教えてくれたお礼にどうぞ」
「はっはっは。じゃあ遠慮なく頂いておこうかね」
笑顔で受け取りつつ豪快に齧りつくお姉さん。
「んで、あんた見ない顔だし、この街は初めてかい?」
「ああ。って、マスク付けてるのに顔の見分けが付くのか?」
「マスク?ああ、そりゃあたしら街の人間には関係ないんだよ。
ここを訪れる領主様たちの為のものだからね」
なるほど。マスクを着けていないのはこの街の住民って事か。
そりゃあ外から来た人だけで街の運営は無理だし、ある程度はこの街で暮らしている人も居るだろう。
もしかしたら領地を捨ててきた元領主なんかも居るのかもな。
「あ、そうそう。ここに来る前に聞いていると思うけど、この街での争いごとは基本禁止だよ。
武器を取り出すことも出来なければ、攻撃魔法や攻撃スキルを使用することも出来ないように結界が張ってある。
まあお兄さんには余計な忠告かもしれないけどね」
「ああ。他人に迷惑を掛ける気は無いから大丈夫だ」
この世界に真面な裁判所があるとは思えないし、悪さをして捕まったら即死刑なんてことも考えられる。
そんなリスクを犯す気はない。
と呑気に話をしてたら、なにやら路地裏の方が騒がしくなってきたような。なんだ?




