3.どうやらチュートリアルだったようです
何処からともなく現れた男性4人は俺を見て若干身構えた。
どうやら警戒はしていても敵意は持っていなさそうだけど、さて。
「そこにいらっしゃいますのは、ここの領主様、ですか?」
「ん、ああ。そうなるのか?」
小屋と畑を作ったのは間違いなく俺だし、ここには俺しかいなかったのだから俺が領主と言っても間違いではない。
俺の答えを聞いた4人は姿勢を正した。
「私達は先日、魔物に襲撃を受け、なんとか逃げ延びてきたところです。
既に帰る場所もない私達です。どうかここに置いて頂けないでしょうか。
もちろん領主様のご命令に従いますし、畑の世話や資源の回収のお手伝いもします」
「ふむ、なるほど」
やっぱりゲームだと考えると分かりやすい。
恐らく小屋(住処)と畑(食料)がキーだったんだろう。
さしずめ彼らは村人A~Dと言ったところか。
不思議と個性のような物は全く感じられない。
顔立ちは微妙に違うのだけど、同じというか、瞬きしている間に入れ替わっても気付かない気がする。
まぁ今はそういうものだと思っておくか。
確かにこれから先ここを発展させるとなると人手は絶対に必要だしな。
それにさっき魔物の襲撃を受けたと言っていたから、遅かれ早かれここにも魔物の襲撃が来てもおかしくはない。
今後は戦力も拡充していく必要があるのかもしれないな。
「わかった。よろしく頼む。
俺もまだまだ新米領主で分からないことも多い。
皆には色々とアドバイスを貰う事も多いと思うがよろしく頼む」
「「はいっ」」
「それで早速だけど、何から手を付けていけば良いと思う?」
俺の言葉を聞いて辺りを見渡す4人。
どうやらそんなことも分からないのかと罵られることは無いようで一安心だ。
「そうですね。まずはもっと小屋と畑を増やすのが良いと思います。
そうすればきっと私達と同じように住処を追われて森を彷徨っている同志が集まってくるでしょう」
「柵は早めに作った方が良いです。
それがあれば魔物や魔獣が襲ってきても多少なりとも時間稼ぎが出来ます」
「邪魔な木や岩は資源に変えて場所を確保しましょう。
といっても今すぐ広い土地は必要ないので、資源の補充のついでで十分だとは思います」
「倉庫があれば食料や資源を沢山保管できます」
ふむ。やることは山積みのようだ。
どれから手を付けて行こうかと考えつつ、空を見上げても特に指示の書かれた木札は落ちてはこない。
なら自由にやらせてもらうか。
「よし。ではまずは柵を作ってしまおう。
この先、小屋と畑を4セットまで拡張して倉庫も1つ作るから、それを見越して広めに柵を張り巡らして行ってくれ」
「「はい」」
俺の指示を受けて村人たちが活動を開始した。
元々彼らはある程度の村づくりの経験があるのだろう。
特に説明することもなく、どこからか取り出した斧で近くの木を切り倒し、せっせと柵を作っていく。
それにしても予想はしていたけど、柵も柱部分を立てて、間の木を置いて行けば1分ほどで勝手に組みあがっていく。
それを見た村人たちの反応は特にないところを見るとそれがここでの当たり前なのだろう。
そして体感時間で2時間ほどが経過したころ、無事に柵が完成した。
やっぱり人手が多いと楽だ。
「領主様。柵の製作終わりました」
「ご苦労様。じゃあ次は……『カンカンカンッ、カンカンカンッ』ん?」
突然鳴り響く警鐘の音。どこから?
いやそれよりも、これはまさか……
俺の予想を肯定するように空に暗雲が立ち込める。
「領主様!魔物の襲撃です!」
「やっぱりか」
まるで柵が出来るのを待っていたかのようなタイミングだ。
もしかしたら村人が来たのと同じでフラグが立ったって事かもしれないな。
でもま、流石に最初から強敵が来るとも思えない。
「迎撃するぞ。敵の数は?」
「ゴブリンと狼が北と南から2体ずつです」
数だけで言えばこちらの倍か。勝てる、のか?
いや、勝てなくても俺達にここから逃げる術はない。
「俺が南側をやる。
お前達は北側の迎撃に当たれ」
「「はっ!」」
北側に向かう村人たちを背に、俺は南の防衛に当たった。
あ、その前に待ってくれ。
俺、武器を持ってないんだけど。斧とかツルハシで戦えば良いのか?
そんな俺の言葉を聞いたのかは知らないけど、ころんっと地面に落ちている剣と弓矢。
何というかもう、こういうものだと思うしかないな。
で、敵はっと。あれか。
「ギャッギャッ」
「ガウガウ」
分かりやすい程、典型的なゴブリンと狼。
サイズも一般的なサイズからそう違いはなさそうだし、これなら何とかなるかもしれない。
柵の手前に立って弓を構える。
狙いは機動力の高そうな狼からだ。
ただ問題は、当然弓矢なんて使った事なんてないって事なんだけど。
「よっ」
ヒュンッ、トンッ。
お、当たった。でも流石に1発じゃ落ちないか。
でも今の俺に出来るのはこれだけだ。なら落ちるまで射続けるだけだ。
2発3発と矢が当たると遂に狼が1体倒れ、光になって消えた。
「おお、死体を残さない新設設計。って感動してる場合じゃないか。まだ3体居るし」
幸いにして血も出なければ死体も残らないので、こっちとしては本気で何かのアトラクション気分だ。
ただここでゴブリンたちが柵に到着。
えっちら乗り越え、ないんだ。律儀に柵を殴ったり噛み付いたりして壊そうとしてくれる。
ならその間にもう1体の狼も倒してっと。
そうして無事に狼を倒しきったところで柵も壊れた。
でもきっと大丈夫。
ゴブリンなら大人と子供くらいの身長差があるし、さっきから見てる限り動きも洗練されてないし。
俺は弓矢から剣に持ち替えて、まるでチャンバラのように切るというより殴り飛ばすようにしてゴブリン2体を光に変えた。
「よし、いっちょ上がりっと。
これくらいなら向こうも楽勝……でもないのか」
「りょ、領主様~」
振り返って北側の様子を確認すればちょうど今しがた村人の最後のひとりが狼に噛み付かれて倒されたところだった。
いやそっちの方が人数多かったのになんで負けてるかな。
死体が残らないから、なんか死んだ実感っていうのが感じられないのが救いか。
ま、あいつらなりに奮戦はしてくれたみたいで残ってるのは狼1体だけだ。
これなら距離もあるし弓矢で、ほいっ。終了っと。仇は取ってやったぞ。
最後の1体を倒したところで空に掛かっていた暗雲も消え去った。
これで襲撃は終了って事なんだろう。
しっかし、また一人に逆戻りか。
というか、この世界って人の命が軽いのか?
そう思った俺の視線の先には森からこちらに出てくる人影が4人分。
「あの、こちらの領主様ですか?」
誂えたように補充が来たよ。
貴様の代わりなど幾らでも居るのだよとか、マジでそういうノリか?
もしかしたら俺自身も代用可能な駒と見なされているのかもしれない。
っと、久ぶりの木札が落ちてきた。なになに?
『チュートリアル終了のお知らせ。
これよりリアルモードを……』
あ、そうですか。ご親切にどうも。
ってチュートリアルとかふざけるな。
俺は木札を力の限り蹴り飛ばした。
という訳で、ここまでがチュートリアル。
次に閑話を挟んでようやく走り出します(きっと)