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26.(閑話)とある女王陛下の一日

人口数十万。この世界でも屈指の都市の中央。

そこにあるのは当然、その国を象徴するかのような白亜のお城が聳え立っていた。

その城の主は周囲に誰もいないことを確認してから小さくため息をついた。


(この世界に来てから数年。そっか、もうそんなに過ぎたんですよね)


最初の1月は右も左も分からなくて困りましたが、小まめに送られてくる木札のアドバイスのお陰で何とか生き延びることが出来ました。

私は自分で戦うことはからっきし出来ませんが、その代わり人に祝福を授けるスキルを持っていました。

その祝福があれば村人は倍の速度で作業が捗り、兵士たちも1ランク上の活躍が出来たので、元が互角の相手であれば圧倒することが出来ました。

まあそこからがまた大変でしたけど。

でも色々あって何とかここまで国を成長させることが出来ました。

1つ誤算があるとすれば、いつの間にか『女王陛下』なんて呼ばれることになった事でしょうか。

私そんな柄じゃないんですけど。

執務室の窓から街並みを眺めていた私の所に2人の男女がやって来ました。

ひとりは近衛騎士のアラン。この世界に来て最初に兵士に転職した一人です。

度重なる激戦を制し、見事生き残れたのも彼の尽力があってこそでしょう。

もう一人は魔術師団長のバーバラ。村が100人規模になった頃にふらりと村にやって来た魔法使いの女性です。

私の祝福に感銘を受けて以来、私の事を女神が遣わした使徒だと言い出してしまうちょっと困った人ですが、魔法の才能に疑う余地はなく、何度も不利な戦況をひっくり返してもらいました。


「陛下。これより第3騎士団が魔物討伐に向かいます。

お忙しいところ恐縮ですが祝福を贈っては頂けないでしょうか」

「ええ、もちろんです。

私に出来るのはそれくらいですからね」

「またそのようなことを。

陛下あっての私達です。どうかこれからも私達を導いてください」

「ええ」


私の現在の活動のひとつは、ほぼ毎週のように行われる魔物の巣窟を討伐に向かう部隊への祝福です。

国の規模が大きくなったお陰で他国が私の国に攻めてくることは無くなりましたが、代わりに500~2000体規模の魔物の巣窟が発生し、その討伐に軍を動かしています。

放置していると万を超える軍勢になり周辺の街を襲い始めますからね。

悪の芽は早めに摘むに限ります。

騎士団への祝福が終われば続いてやってくるのが現在の国内情勢の確認と、新たに我が国の傘下に入りたいという中小の国家や領主の精査。

中には甘い蜜だけ吸いたいっていう寄生や、大国の威を借る領主も居るのでしっかり見極めが必要です。

なので参入前には官吏を送って内情の調査を命じています。

その時、余りに素行の悪い領主であることが判明した場合は領主を追放して吸収合併することもあります。

そのせいで一時期変な噂も立ちましたけど。

でも大変でしたが腹に一物を抱えている人は近づかなくなったので良い事の方が多かったと思っています。

そして執務室に戻って来た私を迎えるのは書類の山、ではなく手紙の山。

その山は秘書官によって検閲が済み2つに分けられています。

私はそのうちの大きい方、全体の8割に及ぶのですが、そちらの手紙を中身も見ずに廃棄しました。

控えていた秘書官が小さなため息をつくのもいつも通りです。


「よ、よろしいのですか?」

「ええ。どうせいつもの内容でしょう?」

「そうですが、列強に名を連ねる国の方のもありますが」

「心配要りません。一度お会いしている方ならきちんとその気はないとお伝えしてありますから」


ちなみに何の手紙かと言えばお茶会など(デート)のお誘いです。

私が独身なのは周知の事実なので、中堅以上の領主や大国の王子などが、あわよくば私の夫に収まりこの国の実権を握ろうとあの手この手を使ってきます。

国内の有力者の夫人からの誘いであっても、気が付けば縁戚を紹介するためのものだったりして気が抜けません。

というか、私は常々結婚する気はないと公言しています。

それなのにこうして毎日手紙を送ってくる神経の太さに感心すらしてしまいますね。


「しかし陛下。国の安定を考えますとお世継ぎの事も考えないといけません」

「そうらしいけど、やっぱり今はまだ気が乗らないわ」


あの親切な木札ですら時々『気に入った殿方を婿に迎え入れましょう』と書かれているので、きっと必要な事なのだと思います。


「それとも、既に心に決めた方が居て、その方に操を立てていらっしゃるのでしょうか」

「……そんなことはないわ」


秘書官の問いかけについ思い浮かべてしまった顔を慌ててかき消しました。

その人はこの世界に来る前に会った人なのだから、もう二度と会う事はない人です。

それに会ったのはほんの短い時間で好きになるとか以前の問題ですから。


「それより残りの手紙を処理してしまいましょう」

「……はい」


何か言いたげな秘書官を無視して残りの手紙、こちらは各種支援依頼が主です。

敵対勢力から宣戦布告されたから援軍を送ってほしいとか、物資が枯渇したから援助して欲しいとか。

これも一部は自業自得としか言いようが無いものがあるので、突き返すものとそうでないものの選定が必要です。

自分から大国に喧嘩を売っておいて困ったらこっちに丸投げとか何を考えているんでしょう。

……何も考えてないんでしょうね、きっと。

それが終わればやっと自由時間です。


「少し出掛けてきます」

「今日はどちらに行かれるのですか?」

「自由広場の方へ」

「承知致しました。どうぞお気をつけて」


自由広場というのは世界中の領主が身分を隠して自由にそして完全非暴力で交流を行える場所です。

噂では人間種族だけでなく魔物種族のボスも居るそうですが、誰もが仮面とマントを常備するのがルールなので、今のところ見分けが付いたことはありません。

でもそのお陰か、普段国内では見ることは無い珍しいものがあったりするので毎回楽しみなんです。

まあ秘書官などはそこでいい出会いでもあれば良いですねなんて考えてる節がありますが、そんなものはありませんよ。




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