24.種族の強みとスキル
森を抜けるといつものように太陽が雲に隠れた。
目の前には今までで最大級の魔物の集落。
だけど俺達だってこれまで何度も激戦をくぐり抜けて来た猛者たちばかりだ。
負ける気は一切しない。
「よし。作戦通りヨサク隊は前進。敵の柵を破壊せよ!」
「はっ」
ヨサク隊が落ち着いた足取りで前進を開始する。
一応連戦で疲労とダメージが蓄積されている風を装うという名目と、柵の手前に何かトラップがある可能性、柵の向こうからクロスボウを撃たれる可能性を考慮してしっかりと警戒しながらの行軍だ。
それを見送りながら俺は残った部隊に指示を出す。
「今のうちにここに防衛陣地を造るぞ」
「了解しましたっ」
俺達は全員が村人であり、生産や建設のスペシャリストだ。
柵を作ったり、投射隊用の高台を作ったりもお手の物だ。
特に経験を積んだお陰か最初の頃より格段に早く作業を終えることが出来る。
さて後はこれで。
「領主様。敵が餌に食いついてきました!」
来たな。
「よし、ヨサク達を引き上げさせろ」
「ははっ」
ボロボロのヨサク達を見て無事に魔物たちが籠城ではなく攻めてくる方を選んでくれた。
後は敵の陣容だけど、オークが60、ハイオーク=若干体格が良くなったオークが20。
そしてあれは。
まさかボスまで出てくるとはね。余程自分の武力に自信があると見える。
やってきた魔物たちを見て俺は周りよりも1段高くした場所から腕を組んで見下ろすように声を掛けた。
「やあやあ。豚の大将自らお出ましとは痛み入る」
「ふんっ。貧弱な人間風情がふざけたマネを。すぐにミンチにしてやる。
そんな粗末な柵など一瞬で粉々に砕いてやるわ。いけ!」
「フンガーッ」
口上もそこそこにボスの号令を受けて突撃を開始するオーク達。
即席で作った柵はその圧倒的な破壊力により本当に1撃で破壊され足止めにもならなかった。
「口ほどにもない。そのまま蹂躙してやれ」
「フンッ、ンゴッ!?」
破壊した柵を乗り越えたオーク達が次の瞬間、その姿を消した。
「な、なにが起きた!?」
慌てるボスに俺は更に挑発するように嘲笑してやる。
「ボスとは言っても所詮豚だな。ただの落とし穴だよ。
俺ばっかり見て足元がお留守だったのがいけなかったな。
子供の頃に言われなかったか?ちゃんと足元を確認して歩きましょうって」
実際俺がしたのはごく単純な事だ。
まず敢えて簡単に壊れる柵を作ってその後ろに穴を掘る。
その掘った土で穴の更に後ろに高台を作って俺達が立つことで、敵の視線を正面よりやや上に固定する。
これだけだ。
柵を壊して調子に乗った魔物たちは俺達ばかりを見ていたせいで落とし穴に気付かず、結果次々と穴に落ちていった。
最初に落ちた奴らは穴の底に刺しておいたヤリと上からの押し潰しで倒されていく。
こういう時死体が残らないのは有難い。お陰で早々に穴がいっぱいになることが無いのだから。
と言っても落ちたのはオークが30体ほど。
まだ半数近いオークと無傷のハイオークが残っている。
でも人数だけで言えばこっちは向こうの3倍。負けはしないだろう。
「ヨサクとマスオの隊で穴に落ちたオークのとどめと残った奴らの相手を頼む」
「「はい」」
「あの豚野郎の相手は俺がする」
「はっ。ご武運を!」
高台を降りた俺は右手に、ヨサク達は左手に移動すると、魔物たちもボスとハイオーク2体だけが俺の方へ、残りはヨサク達の方に移動した。
「俺様をコケにして楽に死ねると思うなよ。
両手足を切り落として村人たちが壊滅する姿を見送った後にじっくりミンチにしてやる」
「おーそりゃこわい」
「ふざけやがって。大体そんな貧弱な種族を選んでおいて近接戦最強種のオークロードの俺様に勝とうなんてのが土台馬鹿な話なんだ。
知ってるか?筋力だけ取っても最初から俺様はお前の1.5倍だ。
更に今まで何体も生贄を捧げて強化を繰り返してある。体格差を見ても大人と子供くらい違うだろう。
しかもなんだその武器は。そんな棒っきれで俺様にダメージが与えられるのか?
まったくキサマの方こそ死にたがりの大馬鹿野郎じゃねえか」
うーん、何やら気になる発言があったけど、まあいいや。
「豚は話が長いな。良いからさっさと掛かって来い」
「ふんっ。ならば死ね!」
ボスの大振りの1撃をサイドステップで避ける。
なるほど、確かにこれは凄い攻撃力だ。
地面がザックリと切り裂かれている。
そして敵はボスだけじゃない。隙を見せれば一緒に来たハイオークが攻撃を仕掛けてくるだろう。
「雑魚の相手は任せて」
「分かった。後ろは任せるよ」
ミツキが獣人隊と共にハイオーク2体を相手してくれた。
どうやら前回のお返しのようだな。
ならこっちはボスに専念するか。
「筋力はそっちが、上なのは分かった、けど。
スピードと、テクニックと、手数の多さは、こっちが上さ」
話ながらも手に持った杖で突き、払い、フェイントも混ぜながら的確にダメージを与えながら相手の攻撃を逸らしていく。
「ちょこまかと。キサマの攻撃など蚊ほども効かぬわ!」
奴の言う通り、防御力的に考えてもかなり強固なのでどれほどダメージになっているか怪しい。
これは時間が掛かるなと思ったところで、何故か奴が距離を取った。
そして俺を見下すようにニヤリと笑う。
「キサマどうやら攻撃スキルを習得していないのだろう」
「げ、ばれたか」
というか、待って。攻撃スキル?なんだそれは。
おどけたように合わせておくが内心ちょっと焦る。
この世界にはどうやら俺の知らない事がまだ山積みのようだ。
「所詮戦闘に向かない下等種族だからな。
ならば冥土の土産に見せてやる。
砕け散れ!『粉骨斬』」
その言葉と共にボスの剣が黒い靄のようなもので包まれる。
そして剣の届かない間合いなのに振り下ろされたそこから吹き荒れるエネルギー。
俺は慌てて横に跳んだ。
ズガガガガッ
直線距離にして約3メートル。地面が文字通り粉砕されていた。
「なんてデタラメな威力だ」
「ふんっ。避けたか。すばしっこい奴め。
だがいつまで避けていられるかな」
そう言って連続で同じ攻撃を繰り出してくる。
って、スキルとか言うくせにインターバルとかは無しなのか。
ちょっとぶっ壊れ性能過ぎないか!?
「って、しまっ」
粉砕されて出来た窪みに足を取られた。
それを見てボスが不敵に笑う。
「これで、終わりだ!!」
「あんたがねっ!」
「っ、がふっ」
いつの間にかボスの背後に回っていたミツキの突きがボスの胸に風穴を開けていた。
「攻撃スキルを持ってるのが自分だけと思わないことね」
「ぐっ。小娘が!」
胸を貫かれてなお剣を振り上げてミツキを攻撃しようとするボス。
「させるかっ」
「バウッ」
俺の杖がボスの顎を捉え、脳天に向けて突き上げる。
更にゼフが右の太ももに牙を突き立てた。
態勢が崩れるボス。でもまだだ。まだ生きている。
そこでふとボスの持っている剣が見えた。
まだ黒い靄を纏ったままだ。なら。
杖で肘を引っ掛けるようにして、そのままボスの剣がボス自身に当たるように関節を捻る。
剣がボスの身体に触れた瞬間。
ズガッ!
「ごふっ」
発動したスキルがボスの肩口を深々と抉った。
更に畳みかけるように俺の杖がボスの喉奥を貫く。
それにより遂にボスは力尽きて地面に倒れるのだった。




