15.突撃戦
行商人のミークが齎した情報を受けた俺はいま、20人程の村人と共に森の中を駆け抜けていた。
「急げ。今回は時間との勝負だ」
「「はいっ」」
俺達が向かっている先は先日の調査で見つかった中サイズの魔物の集落だ。
その時で40体。なので今はもう60人くらいまで膨れ上がっていてもおかしくない。
なので20人で突撃を掛けるのはかなり無謀と言える。
だけど明日では間に合わない理由があるのだ。
「領主様、見えました」
「よし、みんな息を整えながら作戦の再確認だ。
良いか。今回は魔物の殲滅は考えない。目標はただ一つ。それを確保したら即撤退するからな」
「「はい」」
「特にマスオ。恐らくお前の働き次第で作戦の成否が決まる。頼むぞ」
「まかせるだ!」
「よし……行くぞ!」
俺達が森を抜けると同時に陰る太陽。
それは戦闘開始の合図であり、敵にこちらの存在が知られた証拠でもある。
「一点突破。マスオ、ぶち破れ!」
「だりゃあーー」
先日のオーガの巨大ハンマーを参考にして作ったハンマーによって柵に穴が空いた。
その穴を通って一気に集落の中へと雪崩込む。
「グギャギャッ」
「ギャギャッ」
ゴブリンが20体こちらの迎撃に向かって来た。
横に広がって通せんぼをするゴブリン。
だけどここで足止めされる訳にはいかない。
「前衛、ヤリを前に構えて突撃。その後6人で足止めだ。残りは脇目も振らずに突き進め」
「「おおっ」」
ヤリを構えてゴブリンの壁に突っ込む。
その直撃を受けたゴブリンはすぐに光に変わって俺達に道を譲った。
それでも10体以上が残っているゴブリンを俺達の中で最後尾に居た6人が杖を使って牽制していく。
「俺達が戻ってくるまで死ぬなよ」
「勿論です。領主様もご武運を!」
頼もしい返事を聞きながら俺達は遂に中央広場とでも呼ぶべき場所に辿り着いた。
「領主様。オーク10体とグレートオーク。それに」
「ああ。どうやら間に合ったらしいな」
俺達の視線の先には円陣を組むオーク達とオークの体格を2周り大きくしたグレートオーク。
そして円陣の中央には大きな檻があった。
檻の中には大型犬サイズの白い生き物が蹲っているのが見えた。
今回無理な突撃をした理由があれだ。
ミークによるとこの世界には飛躍的に村もしくは住人を強化する方法が幾つか存在する。
そのうちの一つが生贄だ。
『そう言えばすぐ近くの魔物たちがつい先日、何か珍しい生き物を捕まえたらしいにゃ。
生贄にするなら準備もあるから多分、今日か明日くらいに儀式をするはずにゃ。
そうなったらこの村じゃ太刀打ちできなくなるかもしれないにゃあ』
去り際に残していった話を聞いて俺は今回の危険な賭けに乗り出すことにした。
奴らの生贄の儀式を邪魔し、上手く行けばその珍しい生き物を横取りする作戦だ。
最低でも逃がしてやれれば上出来だろう。
計算より魔物の数が少ないのもその生き物を捕まえる為にある程度犠牲を出したせいだと思われる。
「皆はオークの相手を頼む。ゴブリンと違って戦闘職だから油断するな。
マスオは檻の破壊だ!」
人間でいう所の兵士に相当するのがオークだ。
ゴブリンよりも力も体力も上だろう。
普通に考えれば村人が1対1で戦って勝てる相手ではない。
だけどそこはこれまでの戦闘経験と防戦に徹すれば良いというアドバンテージで何とか耐えきってほしい。
そして大きめの蛮刀を持っているグレートオーク。こいつがここのボスなのだろう。
こいつを引き付けておくのが俺の役目だ。
「豚野郎。お前の相手は俺だ!」
「フンガッ」
啖呵を切りながらグレートオークに切り掛かったが、持っている蛮刀で防がれた。
そしてお返しとばかりに袈裟切りに蛮刀を振り下ろしてくる。
「ぐっ。速い」
先日のオーガと比べるとパワーは劣っているようだけど、スピードとテクニックはグレートオークの方が上だ。
つまりある意味俺と似た戦い方であり、隙が少ないので時間が掛かりそうだ。
2撃3撃と剣を打ち合わせる。
幸い打ち負けることは無いみたいだけど、時間をかけ過ぎるとみんなが危ない。
ちらりとみんなの様子を見てもかなり苦戦しているのが分かる。
「くそっ。予備戦力を隠してたか」
檻を破壊する予定のマスオが狼の群れに囲まれてしまっている。
あれじゃあ悠長に檻を破壊している余裕はない。
かと言ってマスオ以外の村人は破壊に適した武器を持っていない。
となると、予定変更しかないか。
「ヨソミ。ユダン。シネ」
「なっ」
こいつ今、人の言葉を喋りやがった。
やっぱり知性は人間と遜色はないってことか。
だけどそれなら。
キンッ
「あっ」
若干パワー負けしていても何とか喰らい付いていたが、とうとう俺の剣が弾き飛ばされた。
呆然と立ち尽くす俺。
それを見て笑ったグレートオークは持っている蛮刀で俺を真っ二つにしようと振りかぶった。
「シネ」
「っ。ああ、お前がな!!」
必勝を確信した瞬間っていうのは油断も一緒に生まれるものだ。
グレートオークの渾身の振り下ろしに合わせて奴の足元に潜り込む。
更にトンファーを取り出して左手で奴の剣の柄を引き下ろし右手で両足を刈り上げる。
すると勢い余った大柄なグレートオークの身体が俺に覆いかぶさる形で落ちてくるので、腰に乗せて更に撥ね上げる。
結果、グレートオークは宙を舞い頭から地面叩きつけられた。
人間ならこれで頭が潰れるところだけど、そうはいかないか。
間髪入れずに頭部をこれでもかと殴り続けると遂にグレートオークは動かなくなった。
それを見て真っ先に反応したのはこの集落の魔物たち。
戦いを止め我先にと集落の外へと逃げ出していく。
なるほど。
ミークの話は本当だったようだ。
領主またはボスが倒されると残った住民は戦意を喪失してどんなに優勢であったとしても逃げ出す。
だから領主は前線に立つべきではないという。
そして逃げようとも無事に逃げ切れるとは限らない。
「投石隊、放てーーっ」
「「おおっ」」
後詰めでやってきた村人たちによって森の中に逃げ切る前に数体が倒された。
みんなには深追いはするなと伝えてあるから心配は要らないだろう。




