109.神は死んだ
俺が教会に侵入してすぐに、部屋の外が騒がしくなった。
そして部屋の中になだれ込んでくる僧兵たち。
まぁ派手に飛び込んだからな。すぐに気が付かれるか。
「教皇様、ご無事ですか!!
むっ、賊は貴様か!目的はなんだ。教皇様のお命か!?」
慌てて俺と教皇の間に立ちはだかる僧兵たちに、俺は何も持っていない手を差し出して待てをする。
「まあまあ、俺は敵じゃない。
どちらかと言えば味方だ。な?教皇様。
俺はあの時も助けてあげた訳だし」
「むぅ、確かにな」
「それに教皇様を亡き者にしようと思えばお前達が来るまでに終わっている」
「く。しかしなら何のためにここに来たのだ」
「支援してあげようと思ってな」
それを聞いて顔を顰める教皇。
向うからしたら寝耳に水だし俄かには信じられないか。
「支援だと?」
「そう。ひとまずはこの内乱を終わらせて教皇様が国を取り戻すまでな。
その代わり、この戦いが終わって無事に神聖教国を取り戻した後もリュウジュ王国とは敵対しないことを約束して欲しい」
俺の言葉にジッと俺の顔を見据える教皇。
恐らく真意を計ろうとしているのだろう。言っても俺にそんな裏はないんだけどな。
にらみ合う事数秒。
折れたのは教皇だった。
「まあ良いだろう。貴様の国など狙っても仕方ないしな」
「よし。交渉成立だな。
なら一つ、教皇の名のもとにリュウジュ王国と一時的に同盟を結んだと宣言してもらおうか。
そうすれば俺達も動きやすくなる」
「良かろう。お前達、すぐに準備せよ」
「「ははっ」」
僧兵たちに指示をだし、すぐに短い演説を行う教皇。
不思議とその声は王都中に響き渡っていた。
「これは儂のスキルだ」
「そんなこと教えて良いのか?」
「知られても大した事は無いからな」
確かに知ったからどうだって話か。
上に立つものとしては声が隅々まで届くっていうのは便利な話ではあるけど。
だけどお陰でさっきまで微妙な関係を維持していたミツキ達と教皇の配下がきっちりと協力し合えるようになり、戦況は一気にこちら優位になった。
さて、後は神がここにいるかどうか、だけど。
そう思ったところでハトリから連絡が来た。
どうやらヨサク達が神のひとりであるドラッガーを発見。見事討ち取ったらしい。
やはり山の跡地の地下に潜伏していた所をゾンビたちが見つけたそうだ。
実際にとどめを刺したのは不死の王で、死に際に大量の猛毒の粉をまき散らしていたというのだから実に迷惑な話だ。
不死の王じゃなかったら相打ちになっていた所だろう。
ただこれで今回攻め込んできた一番の目的は達成されたことになるな。
残りの神はアポロンとゲートキーパーズだっけ。
そっちもなんとか倒せれば良いんだけど、一緒に居なかったところを見るとバラバラに逃げているんだろうな。
と、その時。
雲に覆われた空に切れ込みが走り、城を光が包み込んだ。
同時にどこからともなく響き渡るチャペルの鐘の音。
そして光に包まれながら白き翼を持った神が降臨した。
「跪け。矮小なる人間どもよ。
我は全知全能の神、アポロンである。
我が慈悲を受け入れず無意味な抵抗を続ける者はこの先地獄へと落ち、無尽の苦しみを味わい続けることになるだろう。
だが我は寛容だ。
今からでも我に平伏し許しを請うのであれば、その者たちは極楽浄土へと導いてやろう」
突然のことに誰も彼もが戦いを止め空を見上げた。
城を占拠した側の者たちはそのまま跪きアポロンに対し祈りを捧げている。
教皇側の人間も多くが武器を取り落す勢いだ。
光の演出と相まって何らかの洗脳効果があるのかもしれない。
でもミツキを始めリュウジュ王国の人間はというとそれ程でもない。
最初こそ驚いていたけど今では向こうから獲物がやってきたと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべている。
「む、そこな獣人を始めとした者どもよ。
なぜ跪かない。天使とも更に一線を画すこの美しき翼を見ても何とも思わないのか」
直接問いかけられて困惑するミツキと仲間たち。
「いや美しき翼とか言われてもねぇ」
「はい」
「お兄さんの方が格好いいし」
「陛下の方が魅力的です」
「え?」
「あっ」
思わず受け答えをしていた隣の女性を凝視するミツキ。
その女性は顔を赤らめながら明後日の方を向いた。
「まあお兄さんがモテるのは仕方ないか」
そう納得しつつ改めて空に居るアポロンを見る。
派手な演出さえなければ、いやむしろそれがあるせいで尚更どこか造り物のように思えてしまう。
顔の造形とかは綺麗に整っているんだけど生き物らしい温かみは感じられない。
残念だけどそんなものは乙女心には響かないのだ。
「あなたに本当の美しさっていうものを見せてあげるわ。
という訳で出番よ、お兄さん」
「……いやいいんだけどな」
ミツキに呼ばれて渋々翼を展開して登場する俺。
なんとも顎で使われている気がするが、そこは後で確認しよう。
腕を組みアポロンと対峙するように対面する。
背中に翼を生やした俺を見てアポロンも随分と驚いているようだ。
「まさか我々神のマネをする人間がいるとはな」
「は?いや、別にマネがしたかった訳じゃないんだけど。
むしろこのスキルを手に入れた時期を考えれば神の方が俺のマネをしていたと言えるんじゃないかな」
「ふんっ。人間の分際でふざけたことを。
今まで神が与えてきた恩恵を忘れ楯突く大罪、死を持って償ってもらおうか」
「うーん、カミッチにも似たようなこと言われたけど、最初の頃の初心者特典?は助かったけどそれ以外で恩恵を受けた記憶が無いんだよな。
まぁ『一人で大きくなったなんて酷い思い上がりで大きな勘違いだ』なんていう話もあるけど、逆に『子供は親のおもちゃじゃない』とも言うからな。
威張るなら威張るだけの責任を果たせってことだ。
子供ならせめて自分の生活費くらい自分で出すべきだし、親だって子供の成長と安全を守ってから主張してほしい」
家庭によっては教育も兼ねて小さい頃から子供に働かせるケースもあるけど、そこにはちゃんと愛情があるから何も問題は無い。
っと、話が逸れたな。
「つまりお前達は神というなの背中に翼が生えた1種族でしかないってことだ。
仮にこの世界に人間や魔物を送り込んだ張本人だというならこの星や魔獣、妖精たちの仇敵と言うべきかもな。
とにかく共存できないのなら倒す。それだけだ」
「ふんっ。貴様に何を言っても無駄なようだな。
なら貴様を倒してから改めて他の人間達を服従させていくとしよう」
「やってみろ。お前を倒して名実ともに俺達は自分の足で生きていく」
そうして俺とアポロンの戦いの幕が上がった。




