100.教皇に会いに行こう
何とか追手を撒いて、というか蹴散らして逃げ延びた俺達。
今現在は昨夜泊まった空き家に身を潜めていた。
あいつらもまさか自分たちの懐に逃げ込んだとは考えないだろう。
「それにしてもチックルちゃんは予想以上に強いんだな」
「ぬはははっ。ドラゴンの姿になればあれの10倍は強いのじゃ」
逃げてる最中に追手の天使に華麗にアッパーカットを決めていたけど、余りの威力に100メートルくらい上空に飛んでいってしまった。
よく首がもげなかったなと感心するほどだ。
「それでこれからどうするのじゃ?」
「それなんだけど。
って、その前に今更だけど巻き込んじゃっていいのか?」
「む?」
よく分かっていないように首を傾げるチックルちゃんだけど、彼女は龍王国の王女だ。
それが俺と一緒に神聖教国に殴り込みみたいなことをしていたら国際問題に発展するんじゃないだろうか。
「このことを知ったら龍王様が怒ったりしないかな」
俺の疑問を聞いてチックルちゃんは何てことないように笑った。
「それなら大丈夫なのじゃ。神聖教国はわらわの国にも宣戦布告しておるし、なにより父上ならよくやったと褒めてくれるのじゃ」
「あ、武闘派なお父さんなんだっけ」
「うむ!ただ何も言わずに出てきてしまったから、そこは怒られるかもしれないのじゃ!」
「そ、そっか。その場合は一緒に謝ることにするよ」
場合によっては「誘拐か!」みたいな話になりそうだけど、事情を話せば分かってくれるだろう。
最悪龍王様と拳で会話、なんてことにもなる気がするけど、その時は頑張って生き延びよう。うん。
今は先の心配をするよりこれからの事を考えるべきだ。
今日見てきた感じだと神聖教国は既に神に牛耳られていると考えて間違いないだろう。
行進の時に天使たちが振り撒いていた薬。
あれがどこから出てきたのかは分からないけど、あれによって抵抗力の低い一般市民や後方勤務の兵士たちを意のままに操っているようだった。
でも自分たちの首都でそんな大問題が発生していて気付かないものだろうか。
神聖教国だってそれなりに強力な軍隊は持っているはずだし、将軍級なら薬への抵抗力も高いはずだから簡単に操られるとは考えにくい。
そんな彼らは……あ、もしかしてそれで全面戦争か。
主だった戦力を全て前線に送り込んで中央を空洞化。その間に首都を占領してそれ以降の前線との連絡は全て天使たちが担当するようにすれば、首都の様子は将軍たちに知られることは無い。
戦争を終えて戻って来てみれば、既に神殿も完成して神の国に成り代わった後ってシナリオか。
とすると、残る問題は教皇がどこに行ったかって話だな。
たしか昨日の昼間も城にだけは人の気配があったし。
「よし。じゃあ今から教皇に会いに行こうか」
「うむ」
俺達は連れ立って誰も居ない大通りを歩いていく。
うーん。見張りのひとりもいないって不用心過ぎないだろうか。
今なら泥棒とか空き巣に入り放題だ。まぁ盗るものも無いんだけど。
ともかく俺達は城の前までやって来た。
「えっと、気配は最上階付近と地下か」
「どちらから行くのじゃ?」
「普通教皇とか偉い奴って言ったら高いところに居る気がするし、先に地下を見に行ってみようか」
「分かったのじゃ」
俺達は監視の目が無いのを良い事に堂々と正面から城に入っていく。
しかし警報装置一つないのはほんと不用心だよなぁ。
うちの城ですら侵入者を感知して知らせる仕組みがあるのに。
さて地下の気配は、あれ?城の中というより脇というか倉庫や厩舎がありそうなところみたいだ。
向かった先にあるのは堅牢な建物。って牢屋か。
重い扉を開けてみれば入ってすぐの所に警備員の詰所があってその先に地下に続く階段があった。
階段を下りた先に並ぶ牢の一番奥。
そこだけちょっと豪華な造りになっていて気配はそこから感じられる。
向うでもこちらの気配を感じ取ったのか声が聞こえてきた。
「ふんっ。ようやく迎えか。遅かったではないか」
壮年の男性の声だ。
迎えとか遅かったとか、どうやら俺達を誰かと勘違いしているようだな。
「残念だが俺は迎えではないぞ」
「何だと!?」
「というか、おっさんは誰だ?」
「無礼者が。儂が誰だか分からぬと申すか!」
俺が誰何すると怒鳴られた。
いや、まだ顔も見てないんだから分かる訳ないだろう。
「儂は教皇であるぞ。この国に住むものなら声だけですぐに分かれ」
おや。どうやらこちらが当たりだったようだ。
扉に付いている小窓から中を覗けば寝台の上にそれなりに良い身なりの男性が憮然と座っていた。
この態度からして、教皇で間違いないだろう。
なら上に居るのは誰だ?
教皇をここに押し込んだものだとしたら神か、それとも国のナンバー2辺りに下剋上されたか。
ともかく色々聞いてみるか。
「残念だが俺はこの国の人間じゃない。リュウジュ王国の者だ」
「リュウジュ王国?聞いたことがないな。どうせぽっと出の小国であろう」
「まぁまだまだ小国ではあるな。
それで、天下の神聖教国の教皇ともあろう方がなんでこんな所に幽閉されているんだ?」
「神に唆された大司教の大馬鹿者だ。
神の大願が成就した暁には共に神の世界に行けるなどという虚言に騙されおって」
「神の世界ってなんだ?それに大司教じゃ行けないと何で分かる?」
「ふん。貴様に言っても仕方ないだろうがな。
神の世界については貴様の王にでも聞いてみるんだな。お前は一体どこから来たんだと」
俺がどこから来たかと言われたら地球か。ここはどう考えても地球じゃないだろうしな。
ミツキも俺とは年代が違うみたいだけど元は地球で生きてたらしいし。
え、じゃあもしかして神も地球から来たのか?教皇も?
「なあ。教皇は地球の出身なのか?」
「チキュウ?なんだそれは」
違うのか。
でもさっきの言い方だと教皇も別の世界から来たっぽいし、地球以外の星や世界からこの世界にやってきていて、神はその世界に帰る術を知っているってことなんだろう。
そしてこの世界の住民である大司教はそっちの世界では存在できない?
いやでも向こうからこっちに来れるんだから逆が出来てもおかしくないよな。
その辺、教皇は何か知っているんだろうか。
「教皇、お前は……」
「陛下!こちらにいらっしゃいましたか」
「は?ハトリ??」
なぜここに突然ハトリがいる?
いや来ようと思えば長距離転移門を使って先日作った拠点に飛んで気配探知か何かで俺の居場所を突き止めたんだろうけど、ハトリ達にもルクセン領の救出作戦してもらっていたはずだ。
それがここに居るという事はよほどの緊急事態か。
「話は移動しながらの方が良いな」
「はい。火急を要しますので」
「チックルちゃん。行くよ」
「う、うんなのじゃ」
慌てて撤収しようとする俺達を引き留めるように慌てた声が扉の向こうから聞こえた。
「待て!儂をここから出していけ!!」
「……」
一瞬考える。教皇を出すメリットは何かあるか。
上手く行けば大司教とひと悶着して神の動きをけん制できるか。
「よし、良いだろう」
チックルちゃんにドラゴンの姿になってもらって牢の扉をぶち破ってもらった。
教皇自身は別に繋がれている訳でもないから後は好きにしてもらおう。
俺達3人は吹き飛ばされた扉に驚いている教皇をその場に残して急ぎ撤収したのだった。




