第6話「恋に纏わりつく異常」
俺はいつものように通学路から葵高校に通う。
いつもと変わらない教室。
いつもの風景がそこにはある。
「おはよう! 淳」
「あぁ、京おはよう」
いつもように挨拶を交わす。
俺の顔を見て──京は告げる。
「お前なんか疲れた顔してるぞ〜なんかあったのか?」
「いやなんでもない、大丈夫だ」
あぁ、朝から心で叫ぶと思ってなかったからな。
「そう言えば淳、理事長の所に昼休み行くこと忘れてないよな?」
そんなこと俺には記憶にない。
「なんだそれ?」
「はぁ〜やっぱり聞いていない。
学年戦績が1位、2位、3位の人は理事長からお褒めの言葉を頂けるんだよ。
部活も良い戦績を収めた時もあるんだよ」
「──なるほど」
なんて、クソめんどくさい、イベントだ。
まぁ、仕方ないイベントか。
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──────昼休み。
「おい、淳、忘れてるのか! 理事長のとこ!!」
顔を埋めて寝惚けた振りをしている俺。
京は親切心で俺に声をかけた。
はぁ〜言われなかったら、
忘れてたで、通すつもりだったが全く。
良い奴だ。
「あぁ、そうだった行ってくる」
教室を出る。
右手側から人が通り過ぎた。
俺は自然とその姿を目で追った。
長い黒髪、横顔でも分かる整った目鼻立ち。
────俺は彼女が通り過ぎた後も。
目を追っていた。
綺麗だ。
「バキューン、落ちたな」
京が俺の後ろから告げた。
「なっ──何言ってるんだ!!」
「冗談で……言ったんだけどなぁ。
お前がここまで動揺するってガチか……!?」
「なに言ってる……」
なんだこの胸の高鳴り。
京の言う通り何でこんなに動揺しているんだ。
俺は京の目を少し逸らした。
京は察して、俺に話し出した。
「まぁ、なんだ。
さっきの子は同じ1年の白石歩夢って子だよ。
お前が入学式休んだ日、代表スピーチを代わりに読んだ子だぞ」
「あっ──あれが」
俺は入学式休んでいる。
代わりに代表挨拶をしてくれたのが……。
あの子だったのか。
じゃあ、そういう事だと。
あの子は戦績2位って事か。
だから、同じタイミングで教室から向かっているって訳か。
「でもな〜淳。あの子は1年で1番モテる子なんだよ。
しかも、入学式の時、話題になって声掛けた男は全滅。
いや違うな、ぶった切られたって感じだな」
「……なんだよ、それ」
「よくあるだろ?
本当にモテる子は付きまとわれないように思いっきり。
冷たい言葉で拒絶するって」
「あぁ──なるほど」
京の口から言われるとリアリティが上がる。
学年1モテる男のお前が言うと。
まぁ、モテそうだよな。
俺には関係のない事だ。
「とりあえず淳。向かった方がいいぞ!」
「あぁそうだな〜行ってくる」
「おう!」
俺は理事長室へ向かい。
徐に部屋に入った。
そこに居たのは椅子にかけた理事長。
温顔に笑みをたたえている。
外見では何歳か分からないくらい、
綺麗な人だ。
左側には知らない眼鏡をかけた男。
右側にはさっきの女の子。
白石歩夢が居た。
「揃ったね!」
「はい」
「はい」
「遅れて、すいません」
「じゃ────────────────────────────────────────────────────────」
────俺はその時。
理事長が何を言ったのか全く、入って来なかった。
隣の白石の事が気になって。
悔しいけど、俺は気になっているんだ。
そして──話はいつの間にか終わっていた。
「以上です。3人ともこれからも頑張ってください。」
「「「はい」」」
俺達は理事長室から出ていく。
「じゃあ、僕は部活動があるからまたね〜」
そう言いながら眼鏡の男は去っていく。
俺と白石の2人きり。
俺は何故か口を開いた。
「あの──部活何入ってるんだ?」
「私かな?」
白石は美しい瞳で俺を見つめている。
綺麗だ。
「あぁ」
「私は天文学部だよ!」
「あぁ、そうなのか」
「桜味くんは部活何入ってるの?」
俺の名前を呼んでくれた。
当たり前の事だが──グサリときた。
「普────」
あっ──しまった!!!!
俺は墓穴を掘ってしまった。
────何を言ってるんだ!!!
俺は!!!
その流れで言ったら──
完璧に引かれてしまう。
少し首を傾げながら白石は俺を見ている。
「普??!」
聞いた事がある。
バタバタした足音が聞こえる。
「部長〜〜!!! こんなところにいたんですううか?」
「みっ美鈴」
「はじめましてです」
美鈴はぺこりと白石に向かって頭を下げる。
「はじめまして立花さん」
俺を見ながら美鈴が言う。
「淳くん! 鍵! 部室の鍵ちょうだい〜」
「あぁ──わかった」
俺はすかさず鍵を渡した。
やべえ、タイミングで来たな美鈴。
白石が美鈴に質問する。
「どんな部活なの?」
ひやぁぁぁぁぁぁああぁ!!!!
──らめええええええええええけええええええええ。
俺は心の中で叫んだ。
「普通になりたい部。
淳くんは普通になりたい部の部長で──創設者なんですうぅぅ」
「そう…(無関心)」
────終わった。
俺の恋らしきものが今終わりを告げた。
しかし──こんな簡単にこの糸は切れなかった。
俺がこれから先。
異常に囲まれながら、
恋を邪魔され続けるとは思ってもいなかった。
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