第3話「駄肉の異常者」
「じゃあ! そういう事だから〜
新しい部員の事よろしくなぁ〜」
玲香はそう言い、手を振り部室から出ていった。
俺は先程までの流れを忘れたかのように勉強を始めた。
あぁ……俺の王国が。
一瞬で攻め落とされたゴリラに……。
はぁ……。
だが、美鈴は何も言わないで。
俺と同じ様に勉強を初めたぞ。
ちゃんと空気は読めるのか。
これなら別に気にならないんじゃないのか。
普通になりたいって言ってたしな。
美鈴は黙って俺と同じ様に勉強をしている。
俺も勉強に集中した。
部室内は図書館と同じ様に静まり返っていた。
突如──空気を裂く。
似合わない音が部室に響き渡る。
バリィボリィ! バリィボリィ。
「上手い上手い」
バリバリィバリィ。ボリィ。
俺は美鈴に視線を転じる。
俺はまた唖然とした。
美鈴は堅焼き煎餅を口パンパンに頬張りながら。
もぐもぐしている。
……こっこっこいつ!!!
堅焼き煎餅を食ってやがる!!!
うるせぇ! 何故、そのチョイス!?
……いや、人が何食べようが自由だ。
う……ん、そうだ気にしてはいけない。
バリィボリィ!! ボリィボリィ。
「上手い。上手い」
ボリィボリィ。バリィボリィ。
バリィボリィ!! ボリィバリィ。
「上手い。上手い」
一向に止まない美鈴の煎餅音。
だが、それは、せんべいを噛んでる音と──
上手い上手いでリズムを刻んでいた。
うぅううう……気になる。
集中出来ない。
この音……。
くくくくくっそう!!!
「そっ──その!!」
「飲み物ですか!? 喉乾きましたよね〜私もですぅぅぅ」
俺はとうとう我慢が出来ずに言おうとした。
だが、美鈴は嬉しそうに勘違いをしている。
それは、煎餅をボリィボリィ食ってる。
────お前だからだろ!!
俺は言うのを諦めた。
「……まぁ」
「ならパシられます。グッジョブです!」
右手を突き出しGOODポーズをする美鈴。
パシられますって。
もうちょっと良い言い回し方がなかったのかと、
内心ため息をつきながら俺はまた諦めた。
「その、ありがとう」
「いえいえ〜行ってきます!」
優しくニコッと微笑みながら部室を後にした美鈴。
まぁ、悪い子じゃないよなぁ。
少し変わってるけど。
わざとじゃないし。
黙って普通にしてれば可愛いし。
気にしすぎだな。
そして、俺はまた勉強をはじめる。
---
数分後。
またバタバタと廊下を走ってる美鈴。
これは後で注意が必要だな。
廊下は走ってはいけません。
だが、またぶつかるんじゃないのか?
大丈夫か?
すると、美鈴は激突せずに今回は普通に入ってきた。
「コーラとお茶買ってきました〜〜」
息を少し切らしながら飲み物を抱えている美鈴。
その姿を見て少し罪悪感を感じた。
なんか悪い事したな。
わざわざ、走って買ってきたのか。
俺は罪悪感を少しでも和らげようと行動する。
「じゃあ三百円渡しておく。買いに行かせて、悪かった」
「これがパシリというものですね!!
少し多めに払って送料ですね!!
ふふふっなるほどこれが」
「まぁ、そのまぁ──ありがとう」
子供のように、純粋な気持ちで言い放った美鈴の言葉に……。
俺は撃ち抜かれた。
────正論だ。
そっ……送料か。
俺は美鈴が抱えている飲み物に違和感を感じた。
「あれ? ラベルは剥がしたのか? 二つとも?」
それはペットボトルのラベルが二つとも、何故か剥がされていた。
「はい! 後で剥がすより先に捨てた方がいいんですよ〜」
なるほど、結構しっかりしているんだなぁ。
ちゃんと分別か。
やっぱり、俺の気にしすぎだ。
この子は普通じゃないか。
「じゃぁ淳くんはお茶で美鈴はコーラですね〜」
「あぁ──ありがとう!」
俺は美鈴の行動に困惑した。
「えっ!?」
「どうかしました?」
美鈴も俺と同じ様に困惑している。
だが、美鈴が渡したのはどう見てもコーラだ。
形が有名なコーラだ。
「これ……コーラだぞ?」
「そんなことないですぅぅ。お茶です。」
ハッキリとした声で美鈴は否定した。
俺の目が狂っているかのように否定した。
──えっ???
俺は変な事いったか?
────ってまさか美鈴!!
ラベルがなくなってどっちか分からなくなってる!?
いやいや見た目、全然違うじゃん。
烏龍茶だけど……。
いやいやいやいや間違わないよな。
────普通。
俺はもう一度、恐る恐る美鈴に告げた。
「いやいや、これコーラだって」
「お茶ですよ」
美鈴はキリッとした瞳で俺を見ている。
私、間違ってませんオーラがビシビシと伝わる。
「開けてみればわかるよなぁ?」
めっちゃくちゃ不貞腐れて。
じっ────っと俺の方を見る美鈴。
あっわかったこれ!!
ドッキリか、なるほど!!
そういうことか。
だから、そんな顔してるんだな。
親睦を深めるために、
なるほどなぁ。
まぁ、ちょっと冷たくしてしまったから。
少し笑わそうとして。
俺もまだまだだな。
こういう気遣いは京は上手いんだが。
「ごめんごめん。これはお茶だ。ありがとうなぁ」
「はいですぅぅぅ!」
俺はコーラをお茶だと思って。
飲もうと栓を開けようとした。
その瞬間──
炭酸が溢れ全身がベチャベチャになった。
「あっコーラなんですか!?」
コイツ……ガチだ…………。
ガチでお茶だと思ってコーラを渡したんだ。
しかも、
アホみたいに走ってきたせいでコーラは暴れた。
突如、部室に人が入ってきた。
「ここに来たら普通に慣れるって聞いたんだけど?!
私みたいにモテすぎて。
美人でスタイル良くて頭良くて。
スポーツ万能な私でも普通になれるのかしら?」
コーラまみれで目の前の女に引いている俺に……。
また新たな異常者が入ってきた。
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