第10話「進む異常」
ビリビリと全身を行き渡るフワッとしたか感覚が、
俺を襲った。
ねぇねぇ、奥さん聞きました?
お揃いだね、ですって。
はい、聞きましたよ。
最近の若い子はなんて可愛らしいのかしら。
頭の中の主婦が談笑している。
狂った衝撃が頭にきて。
意味わからない事になっている。
「そうだな」
白石は、じ〜って俺を見つめている。
焼ける、焼けるよ。
目から何か出てる。
なんだよこれ。
白石がにこって笑って告げる。
「くまくまちゃん好きなの?」
一音一音がとても可愛い。
落ちつけ落ちつけ、俺。
男は余裕がある奴がモテるんだ。
「もうとがプレゼントしてくれて」
「もうと??」
吃った!!!
もうとって何それ?
いやいや、首を傾げる姿とか可愛すぎるだろ。
無理無理無理、これで余裕を保てる男とか、
まぁ、それがモテ男か。
俺には無理だ。
白石はハッとした顔をして俺に告げる。
「もしかして! 桜ちゃんのお兄さん?」
「えっ? ソウデスガ」
なんか、イントネーションおかしくなったし。
はぁはぁ焦るな、焦るな。
思い出せ。
そういえば、桜は部活を休んで友達と。
遊びに行ったって話してたよな。
友達が白石さんって訳か。
流石、スーパーマン桜。
俺には勿体ない妹だ。
ありがとう桜。
ありがとう妹よ。
「桜ちゃん、いい子だよね〜」
「ウチノイモウトハスゴイデス」
「うん! 桜ちゃんは本当に優しくていい子だね」
「アイ」
白石は楽しそうに桜の事を話す。
桜と仲いいんだな。
お兄ちゃんは嬉しい。
だが、日本語ってどうやって喋るんだっけ?
あれ?
おかしいな。
「おふっ」
京に背中をトントンされて変な声が出てしまった。
「ちょっと、俺ら飲みもん買ってくるわ。行くぞ」
「おおう」
京が突然、そう言い、俺を引っ張って連れていく。
「敦、大丈夫か?」
京は変なイントネーションに気づき、
すかさず俺を連れ出してくれた。
「京、助かった。本当に助かった」
あのまま居たら、俺は死んでいた。
「でも、話せたな。よかったじゃん。繋がりもあって!
マイナスからのプラスだな!
よかった、よかった〜」
京、おまえは本当に良い奴だ。
俺は京の両肩を掴み、目をじっと見て、近距離で言う。
傍から見たらBLさ。
「京、お前自身を犠牲にするのはもう無しだ」
「あぁ、わかった」
「それと──ちょっと俺はもうあの場所には戻れない」
「何でだよ、せっかく、いい雰囲気だったのに」
傍から見たらBLさ。
「俺は気づいたんだ。いや、気付かされたんだ。
見てるだけで十分って事に、これ以上、近付くと日本人じゃなくなる」
「お前、ストーカーみたいな方がいいのか」
「いや、それは断じて否。否である!!!」
俺は叫んだ。
傍から見たらBLさ。
(ちょっと軽率すぎたかな。
こんなにガチならゆっくりの方がいいか。わかったわかった)
「じゃあ、俺が後は何とかするから」
「ごめんな京」
「いいって」
にへら笑いをし手を振り、その場を後にする京。
とりあえず、ゆっくりするか。
俺は深呼吸をし、普通になりたい部へと向かった。
部室の扉を開け、そこに居たのは冬柴先輩だった。
一人で弁当を食べていた。
「あれ? 昼休み、一人なんです?」
いつもの俺ならそんな事は聞かない。
そのまま、こんにちはって言って、座って、
勉強を始める。
だが、今回の俺は余計な事を言ってしまった。
「悪い? 一人が好きなの」
凄い、俺を睨みながら答える冬柴先輩。
俺はそっと椅子に座る。
怖い、怖い。
勉強勉強。
「何でそんなにへらへらしてるの?
いい事でもあったのかしら」
今日の冬柴先輩の睨みは凄い。
弁当食べながらずっと睨んでるよ。
「いや、何でもないですよ〜ハハハ」
「そう」
何、この空気。
めっちゃ居ずらい。
いつもの俺なら気にしないのに。
へらへらしていた俺を、
見抜いてか、冬柴先輩は機嫌が悪いよ。
「ねぇ、淳くん」
「週末の件、忘れてないわよね」
「はい、勿論です」
「ならいいけど」
なんか異端審問に掛けられてるみたいだよ。
一言一言の圧がやばいよ。
その後、二人とも無言なり。
徐に冬柴先輩も勉強を始めたのである。
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何事もなくその後は、
終わり。
家路に着く。
京には悪い事したな。
上手くあの後はフォローをしてくれたみたいだ。
あぁ、幸せな一日であった。
だが、いかんな。
浮かれていては足下をすくわれる。
普通に過ごして。
普通に勉強する。
あんなイベントはとりあえず、もういいかな。
まぁ、たったまにわ白石とあんな風に、
ご飯食べたりしたいけど。
まぁ、たまにわ〜
白石と一瞬に、
勉強したいけど。
いやいや、焦るな俺。
まだ1年だ。
ゆっくり、ゆっくりすればいい。
だが、妹の桜には感謝だな。
流石、妹よ。
俺はいつもの様に玄関を開ける。
「ただいま〜」
「お兄ちゃん、ジュワッチュ!!」
桜のジュワッチュと言いながらのクロスチョップ。
ふふふっお兄ちゃんは感謝の受け身さ。
「ありがとうな、桜」
「お兄ちゃん機嫌がいいね!」
「あぁ、そうか?」
俺は足下を見た。
見覚えのない靴がある。
まさか──白石が家に。
やるな!!
桜。
今日は赤飯だ。
お兄ちゃん、嬉しいよ。
あぁ神よ。
あぁ桜神様よ。
我は信仰を捧げまする。
聞き覚えのあるバタバタ走る床の音。
俺はその音を聞いた瞬間、脳ミソが凍りついた。
いや、──まさかかな。
「淳くん、おかえりなさいですぅうううう」
走ってきたのは美鈴だった。
何で俺の家にいるんだ……。
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